作戦開始
あれから3日が経った。
しかし何も進歩が無い。あの翌日におじさんが村長に相談したものの、やはりこの村だけではどうにもする事もできず、今は刺激しない方向で一致したようだ。
ただそれでは現状が改善しないと思った村長は、領主に人を送って助けを待つと言ったが俺としてはそれでどうにかなるとは思えない。
だから今日この日、俺とエイラは遂に行動を移すことに決めた。リザちゃんを含めた俺たち三人は玄関に移動して、自分達のやるべき事を再確認する。
「何かあったらこの家に集合。ジークはリザちゃんに危険がないか定期的に確認お願いね」
「ああ、任せとけ。
1時間ごとに家に帰るから」
「リザちゃんはこの家で大人しくしててね」
「分かった」
俺のすることは村人への聞き込みだ。
誰か怪しい宗教に入ってないか、布教している者達を見たか、などをそれとなく確認しに行くのだ。
それとなくと言ったのは、もし尋ねた村人があの邪教を信仰していた場合危険なので、あくまでもそれとなく聞き込むのである。
敵が外だけでなく内側にも存在するのが、かなり厄介な話だ。
そしてエイラは山への偵察。山で不審な動きはないか、連中はあの手紙を読んで立ち去ってくれたのか、を確認する必要がある。
残るリザちゃんだが彼女は自宅で待機だ。
彼女の祖父母達はリザちゃんがどこにいるかは知らない。俺達が行動している中、安全に
「よし、じゃあ私は行ってくるわ」
エイラがそう言う。
「レイスが付いているとはいえ油断するなよ、相手は同数以上で来るかもしれないからな」
「ええ分かったわ。
危ない状況だと思ったらすぐ逃げる」
エイラには
山に行く以上、彼女が最も危険な状況に遭う可能性が高い。それを踏まえてだ。
レイスの数は3体。全ての個体に俺が持つギフトの、死霊系最強化(1日に回数制限)を付与した。
今までギフトの使い方が分からなかったのだが、適当に祈ってみたらなんか勝手に付いた。その結果、強化前と比べて格段にステータス、能力、隠密性が向上した。
本当に飛躍的に上昇したのだ。
あまりにも効果が強すぎたために、他の人のギフトを確認してみたところ、所有者はごく稀なのだと判別した。
俺を合わせて三人である。
残りの二人がエイラとリザちゃん。
エイラが一つでリザちゃんが二つだ。
二人の効果は名前が物騒だったので発動はやめておいた。
ギフトとという力は特に未知数だが、自分が察するにこれは生まれ持った才能の事なんだろうと思っている。なぜ俺が三つも持っているかは単に運が良いのか、転生した影響か、はたまたこのペンダントの効果なのか。
その時、胸元のペンダントが黄金色に輝いた。
なぜペンダントが関係しているのかと言うと、鑑定魔法ではペンダントのことを調べることができなかったのだ。これは恐らく、ペンダントが魔法に対して干渉をしているか、この程度の魔法では推量れないのかもしれない。
それゆえ所有者には何かしらの効果が付いている思うのが普通である。そうでなきゃ鑑定魔法などを妨害するように作っていないだろう。
かなり異常である。ハッキリ言ってすぐに外した方が安全かもしれない。
それでも俺は絶対に外さない。これだけは絶対に外せない。誰に言われようとこのペンダントを手放す事は出来ない。
これを外したらなんだか彼女との巡り合いが消えそうで、彼女との繋がりが消えそうで、俺の心が無意識にその事を訴えていた。
そして何より彼女の言葉を信じたい。
彼女は付けていてくれ、と言っていたのだ。
こんな事すら信じられなくて誰のことを信じるというのだ。
「ジーク…どうかした?」
「いや、なんでも無い」
どうやら思考の渦に囚われていたようだ。
エイラが興味深そうにこちらの顔色を覗いてくる。
今はそれどころではなかった。とにかくあの宗教の解決法について考えるべきだろう。
エイラは手を出して合図する。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい~~。ふふっ」
エイラを見送ると、隣でリザちゃんが笑い出す。
「なんかお母さんみたい」
「え?俺がお母さん?」
「ううん。エイラお姉ちゃんがお母さんで、ジークお兄ちゃんがお父さん。私はむすめ!」
「へーすごい家族なんだね…」
ほう、そんな考え方もあるのか。
確かにもう子供とは言えない俺たちの体格ならそうかもしれない。
転生後の世界は前世の日本と比べて平均身長や体重はかなり高くて重い。
食事水準は日本の方が格段に良いのにも関わらず、こうなっている要因は恐らく遺伝的なものだろう。ちょうど欧米人のような体付きだ。だから夫婦と見紛うのも無理はない。
それにリザちゃんは成長が遅いだけに、娘にも見えなくもない。
ただありえない。エイラと俺が夫婦ということは考えられない。
別に嫌っていうわけじゃ無いけど、そういう風に意識した事がない。昔だったら…わぁ!ハーレムだ!!みたいなこと思ってたかもしれないが、もう15年の付き合いなのだ。
と、冗談はさておき。
今はそんなこと考えている場合でもない。
俺もそろそろ出発しなくてはならないのだ。
「じゃあリザちゃん、俺も行ってくるね」
「うん!いってらっしゃい!」
「おじさんやおばさんがいるから大丈夫だと思うけど、くれぐれも外に出ないようにね」
「うん!」
ジークを家を出て、最後に手を振る。
彼女は満面の笑みでそれに返すと、自宅に入っていった。
△△△△
そこから1時間弱、自宅にて。
「わぁ~リザちゃん絵がうまいわね~」
カスティアおばさんがそう言う。
「ありがとう!」
リザはとても嬉しそうだ。
彼女はお絵描きをしていた。
描いているのは草原と遠くに移る山脈の絵。
見た目が幼いので絵のクオリティも5歳児くらいだと思われそうだが、実際は非の付け所が無いぐらい上手いのである。
綺麗な草原と遠くにある雪が残った山脈。
遠近感や色合いが良くて、まるでその場所にいるような錯覚を見させるほどだ。
そこにジャックおじさんもやって来た。
「何してるのリザちゃんは?
へぇ~リザちゃんは絵を描いてるのか。
どれどれ~~?……う、うっま!」
あまりの上手さにジャックさんも思わずびっくりした。
――その時。
コンコンコン…。
誰かが家を訪ねて来たようだ。
一体誰だろうか?
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