ラブレター

「他愛ない有象無象達だ」


 ジークは山のてっぺんで、杖を片手にカッコつける。エイラを除いて誰も山にはいない。そんなのは分かっているし、分かり切った上でやっている。


 ここは敵を倒すカッコいいダークヒーローのシーンなのだ。誰にも邪魔させるわけにはいかない。


「何やってんのアンタ…」


 しかしというか、当然邪魔が入る。

雑木林で戦いの一部始終を見ていたエイラがこちらに近付いてきた。


「そういえばさっき復活とか言ってたわよね。あれがその復活に関係する道具とかじゃないのかしら?」


 彼女が指差す先は廃屋から見た石柱と、それに加え未知の装置が置かれていた。


「こんなもんどうやって運んできたんだ?

化け物じみた力だったり、魔法がある世界だから大した苦でもないのか?」


 ジークの言う通り、それらは巨大な装置だ。形も見た目も奇妙だがとりわけ不気味なのはこの装置だろうか。それは魔女がスープを作るような大釜に似ている。とはいえまさか釜ではないだろう。中はくり抜かれておらず、台のようになっているのだから。

あくまでも外観が似ているだけである。


 魔法や恐ろしいステータスの超人がいれば運べるのだろう。ただこれほどの力を持っておきながら、悪徳宗教という回りくどいやり方をしているのが実に滑稽ではある。もっと効率の良い稼ぎ方は思いつかなかったのか。


 そんなことを考えつつとりあえず破壊しようと俺はアンデッドを呼び出す……その前に踏みとどまった。


 壊すのは簡単。しかしこれは簡単に壊してもいいものなのか。何か良からぬことが起きてしまったら非常に不味い。


 何かと言ったのは当然自分でも分からない。もしかしたら良からぬ事など無いのかもしれない。それでもこの世界は魔法やスキル、ギフトなどの不可解な法則が世界を支配しており、安直に壊しては災いや祟りが降り掛かる可能性がある。とかくこの装置は邪教の魔道具だから油断できない。


 しかしこれを放置したら最悪なことが起きるかもしれないもまた事実。敵の狙いが分からない以上、少しでも相手の利になる道具は破壊しておかなければならないだろう。


 あの時壊しておけば良かった、では非常に不味いのだ。


「まぁとりあえず木っ端微塵にするか」


「でもどうやって壊すの?」


「まぁまぁ見てなさい」


 俺は魔法を唱えた。


「死霊系召喚、ゾンビ、スケルトン、腐肉の神官ディケイドゥプリースト夜の騎士ブラックナイト


 恐ろしい数々のアンデッドが二人の目の前に現れる。


「えっちょっと……」


 10体以上のゾンビとスケルトンに、ボロボロに汚れたローブを着ている腐肉の神官ディケイドゥプリースト。そして最後に現れたのは地の底よりいでし、漆黒の鎧をまとったアンデッド、夜の騎士ブラックナイト


 腐肉の神官と夜の騎士は先ほどの古びた魔術書に載っていたアンデッドだ。


 素晴らしい、素晴らしいぞ!

もはやこのアンデッド軍団を止められる者はいない。はっはっはっは!!


「何この化け物たち…。

おぞましいなんてもんじゃないわ」


 襲って来ないと分かっていても、凄まじい化け物の迫力だ。まるで近くにライオンの集団がいるような感覚に近い。


 エイラが戦慄するのも無理はないのだ。


「俺から見たら全て芸術作品だよ。

ステータスオープン」


 腐肉の神官と、夜の騎士のステータス情報が映り出される。


腐肉の神官 (Lv10)


種族 アンデッド(ゾンビ系)

職業 神官Lv3

特性 闇、光耐性。状態異常、即死無効化。

炎、打撃弱点。知能向上(中)。


種族スキル

呪いの法衣 

打撃、斬撃を与えてくる者に一定確率で呪い、精神攻撃を加える。


職業スキル

大神官の祈り (プレイヤーオブプリースト)

一定範囲にいる味方全体にダメージ低下、魔法ダメージ低下の加護を与える。


夜の騎士 (Lv13)

 

種族 アンデッド(ゾンビ系)

職業 戦士Lv4 騎士Lv2 槍士Lv1

特性 闇、光耐性。状態異常、即死無効化。

炎、打撃弱点。知能向上(中)。


種族スキル

生前の栄光 

ダメージアクション、吹き飛ばしを無効化する。


職業スキル

身代わり

一定範囲の味方の受ける攻撃を代わりに全て引き受ける。常時、自分に入るダメージ5%低下。

歴戦の一突き

自分の力+武器攻撃力の1.5倍のダメージを与える。


 これほどのレベルのアンデッドになってくると、もはやスキルの数々も大したものである。このまま俺たちが帰った後に暴れさせても面白いが、どうせなら一つ技を見てみたい。


「ブラックナイト、お前が持っている職業スキルであの石柱を破壊しろ」


 ガァァア。


 鳴き声とも了解とも分からない声で叫ぶと、馬を走らせて石柱を一閃のもとで突く。

石柱は粉々に破壊されていった。


「すげぇ!」


「なんて力なの!?」


 あれは職業スキルでしかない。

他にもスキルや魔法なども持っているので、かなりの期待ができそうだ。


 やることは終わった。あとは帰って残党の対策を考えるだけだ。


「エイラ帰るぞ。……いやちょっと待って、他に誰がいるか分かんないけど手紙を書いておこうか」


「手紙?」


「うん。ここに戻って来た奴らに警告するんだよ。俺たちの村を食い物にする事がどれほど危険かっていうことを」


 謎の装置を机がわりに、俺はエイラが持っていた筆と紙切れで文字を書く。


 前世ではもっぱら携帯で通話やメッセージを送っていたが、こうやって文字を書くのも案外悪くないとこの世界に来てから思い始めた。


 二人が下山を始めると頂上の方では破壊のお祭り騒ぎが始まったのだった。


△△△△


 ジーク達が帰った3時間後。ライアンとロイは儀式最終準備のために、ヒレル山の山頂に戻ってきていた。


「おーい戻ったぞ!」


 ロイが呼びかけるも誰も反応しない。

というか恐ろしいほどに静かだ、何かあったのだろうか。


 おかしい…。普段こんな事はありえない。

何故なら、いの一番に高弟達は出迎えてくれるからだ。それになんだか奇妙な匂いがする。まるでそれは戦争の前線で流れるような死の匂い……。


「……あいつらはどうした?」


「おかしい、少し見てくる。

な、なんだこれは……」


 そこでライアンは驚愕の光景を見た。

自分達が用意した儀式の道具の数々が完膚なきまでに破壊されていたのだ。それに地面がところどころ陥没し、まるでここに隕石が降ってきたかのようにクレーターになっている。


 自分達がいない間に果たして何があったというのか。


「ど、どうなってるんだ!?」


 その声に驚いたロイも駆けつける。


「お、おいおい。これはどういうことだ!?

ここにいた二人はどうした!?」


「分からん。どこにも見当たらない」


「な、なんだあれは?」


 ロイは何かを見つける。そして駆け寄った。見るも無残に破壊された儀式の装置、ではなくてその上に手紙が置かれていた。

それを強引に破ると中の本文を読んでいく。


―――

もしここでこの手紙を読んでいる者がいるのならば、それは幸運だ。


貴殿は助けられた。

それこそ神の巡り合わせによって。


本当に君が神を信仰しているならば、これに従ってすぐにこの山から、村から立ち去るべきである。


もしこの警告に従わない場合、君は君の神によって罰を受けるだろう。


たとえ君の後ろに神が立っていたとしても、我々、闇の組織は君の神さえ殺す死神にもなるであろう。




P.S.

俺もマルチ商法は勧誘されたことがあるよ!!

―――


 ………マルチ商法…?


 なんなのだ、マルチ商法とやらは?

というかそれよりも、


「ふ、ふざけやがって!!

誰だこんな手紙を書いた奴は!!」


 思わず瓦礫の山となった儀式の道具に八つ当たりする。しかしそれとは対照的にライアンは後ろへたじろいだ。


「どうするこの村から離れるか…?」


 いつも強気なライアンが今回は少し怖気付いている。いったい何があったというのだろうか。


「じ、実はな、この山に置いていた魔獣が全て消滅させられてるんだ」


「な、なんだと!?」


 ライアンはしばらく前からこの山に魔獣を配置していた。目的は山に許可なく来た者を殺すため。儀式の情報が漏れる危険性を考慮してだ。多大な財産、物を犠牲にして生み出したそれらの反応がまるでない。


 ライアンは召喚士でも死霊系召喚士ネクロマンサーでもない。そのような才能も力もないからだ。


 それらが全て倒されていた。

それこそ自分の力よりも強い魔獣もいた。


 後は言いたいことが分かるだろう。


 つまりこの手紙を書いた者は、少なくとも自分より強い存在だということだ。


 そんな者に狙われている。

もしかしたらいつでも自分達を殺せるように周囲の森に隠れているかもしれない。


 ライアンは嫌な汗を一筋掻く。


「だからな、儀式は失敗かもしれないが、一度撤退すべきだろ?」


 しかしロイはそんな気分では無かった。

それよりも怒りの方が強い。


「うぅ…そんな事しるか!!我々は儀式を行う!もし本当に手紙の奴が来るならば俺が排除してやるっ!」


 その瞬間、二人の命運は決まってしまった。二人はまだ知らない。

自分達が地獄の片道切符に乗っているとは。

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