山頂での戦い
ヒレル山、山頂部。
そこにはローブを着た二人の宣教師がいた。
老夫婦の家に訪れた者とは違い、彼らより若干落ち着いた色のローブを身にまとっている。そのうちの一人がため息をついた。
「この村での仕事ももうすぐ終わりだな。
いや~長かったぜ」
「しかしこんな村で活動する意味はあったのか疑問だな。やっぱり村にいる貧乏人じゃ話になんねぇ、もっと金持った町人とかを騙した方がよっぽど良い。それこそ隣国の王国とか良くねぇか?」
「おいおい無理言うな。
こんなデタラメ宗教街で広めたらすぐお縄だ。それに王国にはあの有名な
「ははっ、そうに違ぇねぇな」
彼らは笑った、とても楽しそうに。
そしてそれら二人の世間話を少し離れた茂みから盗み聞きしている者達がいた。
ジークとエイラだ。
「……ねぇ、あいつらなんだかヤバい話してるわよ」
「そうみたいだな。てかまずあいつら誰だ。
俺たちの村にあんな奴らいたっけ?」
「えっ知らないの?あいつらは少し前から私たちの村で布教している怪しげな宗教集団よ。私たちの家にも来たことがあるわ」
「えっマジでか?それやばくね?」
「その時はお父さんが門前払いしたから良かったけど、もしお母さんだったらあの連中の話を鵜呑みにしてたかもしれないわ」
「どうする?
ここは一旦帰って村の人たちに伝えるか?」
「それは悪手よ。恐ろしいことに私たちの村であの宗教の信者は大勢いるの」
「なんでそんな怪しげな宗教を村の人は信じるんだ?」
「全く何にも知らないのね」
「ハイスマセン」
ロボットのようにジークは謝罪する。
「あいつらは特にお年寄りとか貧しい家庭、つまり立場の弱い人達を狙っているの。普通の人だったら簡単に跳ね除けられそうな勧誘でも、生活に苦しんでいる人は心の拠り所が必要になる。そういう人達が彼らを信じてしまうの」
「……なるほど、つまりあいつらはそれに漬け込んだ根っからの悪ということか」
「そういうことね」
「俺の理想はあくまでも善と悪、一方に偏らない闇の禁術師、あれでは俺の理念に反するな。だから…もう手加減しなくてもいいかな?」
「えっ……」
エイラは目を見開いた。
突然、ジークの声が低くなった事に驚いて。思わず彼の方見ると少し恐ろしい顔をしていた。
「そ、それってどういうこと?」
「要はあの連中をぶち殺してもいいってことだよね?」
△△△△
「まぁしょうがねぇとしか言いようがないわな。今回の目的は金っていうよりも大御神様の復活だ、それがこの世に再び顕現すれば世界はさぞ賑わうだろうよ、悪い意味でな」
「ははっ全くその通りだ。そうなれば俺らでこの小国を支配できるかもしれねぇぞ?」
それを聞いた一人の宣教師の男はハッと、何かに気が付いたように反応する。
「うん、どうした?」
「……っていうか、はなからロイ様はそれを狙ってたのか?」
「えっ?」
「大御神様を復活させこの国を乗っ取れることができれば、寄付金よりも莫大な財を手に入れられる。それをロイ様は狙っていたのかっていう話だ」
「なるほど、確かにそうかもしれん。
じゃあなんで俺たちにその計画を教えてはくれなかったんだ?ロイ様はただ大御神様を復活させるとしか言ってねぇぞ」
「………」
二人は思わず黙り込んだ。今まで気になってはいたがスルーしていた問題だった。ロイ様とは金髪で細目をした上司であり、彼は大御神様を復活させようしている。
そこまでして大御神様を復活させた後、それをどう利用するのか。そしてなぜ自分達にその後の目的を教えてくれないのか。
二人の頭にはこれといった考えが浮かんでこない。いや、正確に言えば浮かんでいた。
しかしそのどれもが自分達に不都合な考えだけだった。
「復活すればあんたらは見捨てられるんだよ」
その一つの考えが山頂に響いた。
「だ、誰だ?」
二人は背筋が凍りついたような感覚と共に辺りを見回す。今のは二人の発言ではない。
しかし誰もいない。
今の声はなんなんだ、俺の幻聴か?
「お前らの後ろだよ」
今度は確実に聞こえた。しかし問題はその発生源。ほとんど自分たちの真後ろで声が聞こえたのだ。だからギョッとした二人は慌てて振り返る。
「なんだお前は!?」
「信者か!?」
突如現れた者は青い髪の少年だった。
村で見るような普通の服を着ており、おそらくフラン村の村人だろう。
しかしなぜこんなところにいるのだ。
思わず持っていた杖を少年に突きつける。
魔法が支配するこの世界において、この動作は銃を突きつけるのと同義だ。
しかし不気味なことに少年は笑った。
「あんた達の考えている事は俺に全て筒抜け。まず自己紹介でもしておこうか、俺の名前はジーク・スティン」
ちょっと決め台詞っぽくそう言う。
「ここから近いフランっていう村のどこにでもいるような少年だよ。これで俺の正体には満足か?じゃあ次はあんたらの紹介を聞きたいね。俺ばかり喋るのは不平等だろ?」
なんだこのガキ…。何が目的だ。
まずこんなガキ、あの村にいたのか?
「わ、私たちがお前に話すことはない。
とりあえず一つだけお前に教える事があるとすれば、お前をこの山から生きて帰さないという事だ」
「ふっふっ、ハッハッハ。
このおじさん冗談が面白いね。
ちょっとだけ付き合ってあげようか?」
あまりにも不気味だった。
二人は訳の分からない脂汗を掻いていく。
攻撃体勢に入ってはいるものの、二人とも全く動かない。
…いや動けない。
この少年をいつでも殺せるから動かないだけだと二人は考えているが、それは間違い。
知らず知らずのうちに、二人とも命の危険を感じて動けなかったのだ。蛇に睨まれたカエルのように。
「それはちょうどいい。俺もあんたたちを殺そうと思ってたからこれでおあいこだね」
少年はニコニコとしている。
だがそれは一瞬。
途端に目の色を変えて、こちらを睨みつけてきた。それは殺気が篭った怒りの表情。とてもじゃ無いが二人には到底受けきれなかった。
まずい!?このガキ!!
「殺せ!!」
途端に二人は動いていた。
一人の男が唱えるのは氷魔法。
氷柱のような鋭利な氷塊を生み出し、少年に向け発射する。
もう一人の男が放ったのは火炎魔法。
手先から火の玉を作り出し、少年に向けて発射した。
二つの魔法は同時に少年に向かっていくと、着弾する……。その前に、透明な何かに当たって魔法は掻き消えた。
な…なんだ!?
「試しに発動したけどこのバリア機能は使えるな」
少年がいつどこから持ち出したのかは分からないが、杖を持っていた。そして杖の宝石のようなものが輝いている。
「次はこっちの番だよ。闇に包まれな」
その瞬間、一人の男が闇の炎によって炎上する。そのまま倒れた男は芋虫のようにもがき苦しむが、炎は消えない。
「た、たすけてくれぇぇ!!」
まるで喉に何かが詰まったような、そんな悲痛な声を上げた。誰にも届かない断末魔。
いや、正確にいえば届いていた。しかしそれは形を変えて恐怖という名の下で隣の男に届いている。
「お、おい!」
もう一人の男は焦ってはいるが、救いの手は差し伸べない。少しでも触れたら感染するように燃え移る気がして。しかし、彼の直感は正しかった。それが結果として彼を延命させることになった。あくまでも延命だが。
しばらく経って闇は鎮火する。その頃には男の姿は跡形も無く、灰しか残っていなかった。あまりにも呆気ない最期だった。
「……な、なにをした!?」
一人残された男は声を張り上げる。
大声で威嚇すれば少しは怯むと思ったのだ。
しかしそれどころか目の前の少年は笑みを濃くする。
これは絶対に勝てない。
自分の生存本能がそう叫ぶ。
だから逃げるべきだと判断して、回れ右をしようとする。しかしそれすら出来なかった。男の身体は恐怖によって既にがんじ絡めにされていたのだ。
「なんなんだっ、これはぁ!?」
そしてそれは視覚にも現れる。
なんと男の足元に腐りかけた手や骨の手が無数に絡みついていた。
それをご機嫌そうに眺める少年。
「アンデッドはこんなことにも使えるんだよ。どう?驚いた?」
「た、助けてくれないか!?
私を見逃してくれたら、なんでもする!!
お前らの村を騙してすまなかった!!」
「今謝罪されてもね、もう手遅れだ。
村から盗み取った財という名の養分を、あんたの命という養分でこの村に返礼する。
地面に引きずられて死ぬのもいいんじゃない?ここはちょうど山頂だしね…墓の特等席だ」
「た、頼む!!たのむぅぅう~!!」
男は絶叫しながら、手に引っ張られるように、そのまま土の中へと潜っていった。
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