掘り出し物
「歩こう~歩こう~私は元気~♪」
「なんの歌よ…その歌」
ジークはスキップしながら足場の悪い山を登っていく。
二人が森に入ってから30分。段々と険しくなっていく道をどんどん進んでいた。森はかなり深いが、ジークはお気楽。それに反してエイラの心境には一抹の不安がある。
それは下山のことだ。幸いまだ昼頃だが、下山が遅くなれば最悪帰れなくなる可能性もある。もちろん二人にサバイバル術なんてないので、どうにかしてジークを下山させたいとエイラは思っていた。
「しっかし魔物はおろか何もないな。
せっかくなんかあるかと思って登ったんだけど…」
「魔物はいないに越したことはないわよ。
それにジーク大丈夫なの?今日いくら疲れても明日の朝からしっかり力仕事よ」
ギクッ。
明日は朝から力仕事。
つまり農作業の手伝いということだ。
ここで無茶すればするほど明日の朝の力仕事がきつくなる。そして農作業からは絶対に逃れられない。
あ~嫌だな~。でもおじさんとの約束だし第一俺の役目だから仕方ないんだけど……。それよりもエイラめ。わざわざ上機嫌にスキップまでしてたのに嫌なこと思い出させやがって。
正確に言うと嫌だ、と言う訳ではないが、状況が状況だ。前日にこんな山登りをしていれば、絶対に明日影響が残る。
少し彼女を睨むもどこ吹く風だった。
そんなこんなで歩いていると、俺たちは開けた場所にやがてたどり着く。
「何この場所?人の手入れが入ってるわね」
「人の手入れっていうか、手入れされてた名残っていうか…」
開けたと言っても平地なだけであって、雑草は青々と茂っている。どう見ても放置されてから数年では済まないような酷い荒れ具合だ。
「あそこ建物あるよね?」
「え?ほんとだ…なんだあれ。
石造りで出来てるのか?」
エイラの指差した方向に今にも崩壊しそうな建物が一軒。高さは二階建てだろうか…そこまで大きいものでも無い。
……ん?
その時、俺の感覚が悲鳴を上げた。
感覚はこう言っている。この家に入って物色しろ、中に非常に価値のあるお宝が眠っている、と。
よし決めた、あの家に行ってみよう。
自分の感覚を信じるのだ。
「行くの?」
「もちろん。魔物がいないんだったら別の事でまぎらわすしか無いよ」
「もう……ちょっと~~」
走り出したジークにエイラも付いていく。
建前は嫌な素振りをする彼女だが脳内では、
全くもう、考え無しなんだから。
……でもちょっと楽しそう。
実際は少しウキウキしていたエイラであった。
△△△△
腐って歪んだドアを無理やりこじ開ける。
そして二階部分に侵入した。
俺たちが建物内を探索してしばらくが経つが、未だに収穫はゼロである。
……誰だ、この建物に入れって言った奴は。何にもないじゃないか。
愚痴を言うことで溜まった鬱憤を晴らす。
お前だよ。
もう一人の自分がツッコミを入れてきたが、無視しよう。それよりもこの家は金目のものは落ちてないわ、貴重な魔道具も落ちていない。
というか入った時からだが、そもそもこの家には違和感があった。そのことをエイラに喋る。
「この家って別荘なんかな?」
「そうなの?」
「だってあんまり生活した跡がないじゃん」
そうなのだ。家の中はやけに綺麗で誰かが住んでいたとは到底思えない。こんな家に住むのはミニマリストくらいだろう、多分。
「てっきりここはお化け屋敷みたいだなって思ってたけど、別荘だったらその心配は無いわね」
エイラがホッと安心したようにそう言う。
「分からないよ。
――もしかしたらいるかも」
「えっ…やめてよ」
彼女の顔が少し青ざめる。もちろん今の発言は出まかせだ。俺の発言は8割弱嘘の、全身嘘嘘人間だ。
ひとつ言っておくが自分が嘘嘘人間ということも嘘である。
「……なーんてな。俺はこの家に幽霊がいないことぐらいははっきり分かる」
エイラの顔にはどうして?と浮かんでいた。
「俺は死霊系使い、ネクロマンサーだぞ?
幽霊を操る者が、幽霊がいるかも分かんなかったらやってけないよ」
というのもネクロマンサーになってから神経が物凄い敏感になった気がする。特に霊感などの第六感のようなセンサーが張り巡らされていて、半径100メートル内に幽霊がいようものなら瞬時に分かるだろう。
これはおそらくというかほぼ確実に、職業の副作用なのだろう。別に困ったことでは無いが、ステータスの職業が自分の感覚にまで影響を与えるとは、なんとも興味深いものである。いつか研究してみたいものだ。
「なんかよく分からないけど、凄いのねネクロマンサーって」
「まぁね。ゲームではレア職だし。
てかゲームにもそもそも存在しないか」
そのあとエイラの、レア職って何?
という独り言が聞こえたが、そこは気にしない。
それよりも。
本当にこの家のものはガラクタばかりだった。少しはおじさんの倉庫を見習って欲しい。
……どうやらここに来たのは無駄足だったのだろうか。
そぞろなくそんなことを考えていると一本の杖を見つけた。
なんだこの杖?結構でかいな。
古びた家の中でそれだけが唯一光を発している。樫の木のような材質でできているのか、かなり大きい代物だ。自分の腰丈を優に超えている。
なにより特徴的なのは頭頂部に悪魔のようにも竜のようにもみえる手が、よく分からない宝石を握っている。
ひょっとしなくてもこれは貴重なのではないだろうか。ジークは手に取って隅々まで観察する。
「おい、エイラ」
「どうしたの?」
「この杖を見てくれ。ひょっとして物凄い物じゃないのか?……アイテム分析」
正式名称 忘却の杖
製造 200年前
価値 ???
追加効果
天智の石 (10日に1回使用可能、所有者に超耐久の魔法、物理バリアを展開する。)
怨恨の腕 (自身の呪い耐性が下がってしまう代わりに、相手の呪い耐性も大幅に低下させる。)
知恵の結晶 (自身の魔力を大幅に増幅させる。)
なんだこれ?こんなの十中八九レア装備で間違いないじゃないのか?ていうかなんでこんな場所にこんな強い武器が落ちてるんだ?
俺はなんていう物を拾ってしまったのだろうか。
気になる点は多々ある。まず初めに製造されてから200年とはどれだけ年代ものなのだ。よく朽ちないでこんな廃屋に置かれていたな。
そして価値は不明。ただゲームの鉄則で言うと???の武器は強いに決まっている。これは凄い。ちょうど杖だから俺に使ってくれと言ってるようなものではないか。
「よく分からないけど凄い効果ね」
「これは大収穫だ、いや~立ち寄ってよかった。ただの廃墟探索で終わらずに済んだ」
「凄い物も見つけたし、ひとまずここを出ましょうか」
「そうだな」
もはや山登りなどどうでも良くなってきた。早く家に帰って杖の効果を試したい。
それに一度使うとしばらく使えない時間制限の効果が気になるので、ぜひとも実験に……ん?
ジークは古びた窓越しに何かを発見する。
なんだあれは?
目を凝らしてみるとよく見えた。
遠くの山頂に巨大な石柱が立っていた。確かかつて登った時はそんなものは無かったはずだ。
「エイラ、山頂を見てみろ」
「なになに…って、なんなのあれ?」
エイラも驚いている。
良かった、俺の幻覚では無いらしい。
何かの儀式だろうか?よく見ると火も焚かれている。人の有無は位置が低いここからでは分からない。
とはいえ火があるのに人がいないなどあり得ないだろう。そうでなきゃ大火事だ。
一体何をしているのだろうか。
村で何かするとは聞いていない。
これは杖以上に早急に確認すべき事柄だろう。
まさか……。
あり得ないとは思うが、もしかしたら想定以上に早い、敵組織の危険な儀式なのか?
ジークは目をキラキラさせる。
大変だ、そんなことはミスミス見逃すわけにはいかない。
「気になるわね、何かの行事かしら」
「山頂に行ってみるか」
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