無制限の成長

 ジークが倉庫を漁ること数時間。

結果を先に言ってしまえば大収穫だった。


 何が書かれているか分からない古びた書に、ガラス容器に入った色とりどりの謎の液体、何を入れるのか分からない骨董品。

 

 使い方は全てわからない。

もう一度言おう、大収穫だった。


 そうでも言わなければやってられない。


 リビングで大収穫ガラクタを並べながら、一人ジークは悶々とする。そして何気なく青色の液体が入った小瓶を手に取った。


 一体なんなんだ…この液体。毒薬かな?

昔のこの家の先祖は誰か暗殺でもしてたのか…?


 よく分からないが絶対おぞましいものだろう。それがたとえ買った時はまともなものだったとしても、カビ臭い倉庫で何十年も熟成されてきたのだ。


 例えて言うなら海に漂流していた謎の液体が入った瓶のようなものだ。おぞましすぎる。


 続いて分厚い冊子を手に取ると、埃を払った。しかし読めない。文字はつらつらと書いてあるがこの辺りでは見かけない文字の造形をしている。


 一体誰だ、こんな本を買ったのは。別に俺のために倉庫にあったわけではない。でもいざ読めないとなると、物凄く憎らしいものだ。


「ダメだこりゃ」


 今のジークには大の字で転がることしかできない。


 分からないものは分からないのだ。

知識もなければ見極める道具もない。

一体どうすればこんなものたちを使えるのだというのか。


 そんな時、リビングに誰かが入ってくる。

そちらに目を向けると入って来たのはエイラだった。


 農作業を手伝っていたのだろうか、肩にタオルを掛けて、少し疲れているような表情を浮かべている。


「何やってるのジーク?」


「おぉ!いいとこに来た!

エイラ、これが分かるか!?」


 彼女に先ほどの冊子を見せる。


「えーと…何これ?」


 ページを捲りながら彼女も自分と同様ハテナマークを浮かべている。悪い意味で期待通りだ。


 まぁそりゃそうだろう。たとえ自分の倉庫にあったとしても、こんなよく分からない文字が書いてあれば読める訳など無いのだ。

それどころか最初の持ち主すら読めなかった説はある。いや、そうだ。読めてないに違いない。


「おじさんの倉庫から引っ張り出してきたんだけど、全く使用用途が分からない。

頼む!手伝って欲しい」


「……分かったわ」


 エイラはため息を吐きながらもなんだかんだ手伝ってくれるようだ。そして俺の隣に座ってくる。


「まず何これ?不気味な色してるけど…」


 エイラが手にしたのは先ほど俺が手に取ったものと同じ青い液体が入ったガラス容器だ。


「それはよくわからない。

でもたぶん毒薬かポーションだと思う」


「毒薬かポーションって違いすぎるでしょ…。片方は飲めば死ぬし、片方は飲めば回復できるわよ」


「ポーションには体力回復系と魔力回復系があるけど、もしこれがポーションだとしたら魔力回復系に近い色をしている」


「えっなんでそんなのわかるの?」


 だってゲームだと緑は回復の王道の色だろ?逆に青は魔力とか回復しそうじゃん。


 などと言いたくなるが、そんなことを言ったところで彼女が理解できるはずもない。

もし彼女がゲームという存在を知っていればどれほど説明が楽だったろうか。


 仕方ないので別の言い方をしよう。


「勘…かな」


「それは当てにならないわね、何か良い方法とかないの?例えば鑑定してもらうっていうのは?」


 鑑定?……かんてい?

かんてい……だと!?


 そうだ、その手があったのだ!


 すぐさま彼女の手からポーションを掠め取る。隣で「何するのよ…」っと言っているが無視だ無視。


 そして俺は精神を統一するようにポーションを握った手に力を込めていった。


 彼女の発言で気がついた。簡単な話だったのだ、鑑定すればこんな事悩まずに済んだのだ。


 ただ鑑定と言っても街の方へ出向かなければならないので、時間が掛かるし費用も掛かる。だから自分で鑑定すれば良いのだ。

それらしき魔法を唱えればいけるはず。


 幸い自分はステータスオープンの魔法を成功させている。自分の身体を鑑定するように、アイテムの正体を鑑定するのも似たようなものだろう。


 似ていて欲しい。


「アイテム分析!」


「えっ!?」


「おぉ!?」


 するとポーションの情報がステータスのように3D化して視覚情報になった。


「凄いわジーク!!」


「ま、まさか本当に出来るとは思わなかった…」


正式名称 魔力快復ポーション(小)

製造 70年前 

価値 銀貨3枚


 魔力回復ポーションっていうのか。

やっぱり青色は魔力を回復する色なんだな。

それと70年前…古すぎでしょ。

熟成されてそう…。


「ねぇ、このポーション銀貨3枚の価値があるの?売りましょ!」


 は、何を言っている?

銀貨3枚って考えたら中々の価値なのだ。

つまりそれほど希少価値が高い可能性がある。またいつ手に入るか分からない以上、大事に保管する必要があるだろう。


「売らないよ!」


 だから絶対に売らない。売りませんとも。


 続いてガラス容器に入った緑色の液体を調べる。だいたい予想はつくが。


体力回復ポーション(小)

製造 72年前

価値 銅貨5枚


 まぁ予想通りって感じだな。

やっぱりRPGにとって緑色は回復の証みたいなもんだからね。これで身体能力強化とか言われたらビビってたわ。


 製造年代は大体一緒か。価値としてはさっきの魔力回復ポーションに比べたらだいぶ下がってるな。


 前に街の方でポーションの店を歩き回った時は確かに魔力ポーションの方が高価っていう印象はあったけど、まさかここまで違うとは。


 銅貨5枚を日本円に換算すれば500円。


 回復ポーションは妥当っちゃ妥当な値段だが、魔力ポーションは銀貨3枚。日本円に換算したら3000円になる。


 つまり2500円も値段の差があるということ。凄いな。


 この世界におけるお金というものは全て硬貨で成り立っている。社会が高度に発達した地球とは違って、この異世界では紙幣などを作ることは難しい。作ったところで偽札が出回るだけだし、物体的価値がある硬貨と比べて、紙幣は紙で出来ているため、お金として価値があると証明できないからだ。つまり金本位制という思想が成熟してないのである。


 そしてこの世には価値の低い方から、小鉄貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨がある。


 小鉄貨が1円だとして鉄貨は10円。

より良い硬貨になるにつれて一桁ずつ価値が上がっていくと思えば良い。


 そういう考えでいくと、体力回復ポーションはあまり価値が無いと言うことになる。逆に魔力ポーションはかなりの価値があるだろう。


 ポーション系はまだチラホラ数はあるが、後で確認しておけばいいだろうか。


 それよりも…。

俺は今日一番で気になった本を手に取る。

それは紫色の表紙をした、見るからに怪しげなもの。ついでに先ほどと同様によく分からない文字付きだ。


 本命である。もしこれが俺の期待するものと一致しているならば物凄い戦力増強に繋がるのも夢ではない。


「アイテム分析。……こ、これは凄い!」


「えっ?」


「一部傷んだりページが抜き取られたりしてるけど、これはデカ過ぎる!」


「なんなのそれ!?」


 やったぁ!!


 思わず走り回って叫んで、踊り散らかしたくなる。


 これなのだ。

これこそが俺が探し回っていたもの。


 死霊系の図鑑だ。


 これがあれば生み出せるアンデッドの数は格段に増やせることができるかもしれない!俺が夢にまで求めないアンデッドの軍団が作れるかもしれない!!


 早速練習だ!

俺がいつも稽古している草原に向かうぞ!!


 エイラの手を無理やり引っ張って、家を飛び出した。


△△△△


「ちょっとここは?はぁはぁ……」


「ここは俺の稽古場所だ、今からエイラには俺の実験台になってもらう!」


 そう、エイラを連れ出した場所は毎日自分が練習している草原のど真ん中だ。


 さっそく先ほど一緒に持ってきたアンデッドの書を手に持ち、アイテム分析の魔法を発動する。


 凄い…凄すぎる。俺は世界を征服できるかもしれない。もちろんそんなことはしないし、できないだろうが。


 図鑑に載ってるアンデッドは二十種類弱。

もしこれを読んで、思いのままにアンデッドを召喚できるなら自分が召喚できるアンデッドの数は格段に増加する。


「行くぞ死霊系召喚、アンデッドベアー!!」


 すると二人の前方に2メートル長はあろう巨大な腐りかけた熊の化け物が現れる。


「――えっ…嘘でしょ?」


「まだまだ終わらん。死霊系召喚、スケルトンアーチャー!!」


 続いて弓を持った10体のスケルトンが出現した。


「すごい、凄すぎる!ステータスオープン」


本命 ジーク

種族 人間 男性

年齢 15歳

職業 村人Lv2 死霊系召喚者ネクロマンサーLv1


体力 14

MP 33

力 13

身の守り 10

素早さ 15

賢さ 21


ギフト

死霊系最強化(一日に回数制限)

死者の怨恨(一日回数制限)

死霊系スキル共有


 職業のレベルが上がってる。何より自分にネクロマンサーの職業が付いた。嬉しい、嬉しすぎる。これで晴れてより自分も禁術師の入り口に立ったのだ。ステータスも全般的に向上しているし、申し分ない。


 これほど嬉しいのはどれほどぶりだろうか。人は感情が湧き上がった時に語彙力が低下するどこかで聞いたことがあるが、今の自分がまさにそうだ。滅茶苦茶嬉しいとしか言いようがない。


「よし!」


 だから思わず草原の中で雄叫びを上げた。


「な、何に喜んでるのか分からないけど、私こんな化け物の相手できないわよ」


 エイラはすっかり怖気付いている。

それも無理はない。彼女は未だに村人Lv1なのだ。


 もちろん、彼女は俺の練習に付き合っているわけでは無いし、しょうがないのだが。


 だけどこの力を何かに試したい。

そうだ!!


「良いこと思いついた」


「なに?」


「ここから少し離れたところに山があるでしょ?あそこで実験をさせてもらおうか」


「あの山って、ヒレル山のこと?

あそこは低いとはいえ危険よ」


「それは俺を舐めすぎだね。

見せてあげるよ、禁術師の力を」

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