初めての戦い

 それから俺は毎日、寝る間も惜しんで魔術の勉強に励んだ。朝早くから農作業や家の手伝いをし、夜遅くまで魔術書を読む、そんな生活を繰り返して行く。


 大変だと言えばそれまでになってしまうが、それでも異世界で夢を叶えるため、燦然と輝く未来のためと思うと、大した苦ではなかった。それに元の世界でも毎日のように夜更かしをしていたし、農作業に至っては、この家に来る前からしていたので平気になっていた。


 今日は珍しくすることもなかったので、家から少し離れた平原で魔法の実践練習をしていた。


「出でよ、炎!」


 右手に力を込めてそう唱える。


 ………。


 しかし炎はおろか、火の粉すら発生しない。


「おかしいなぁ、これであってるはずなんだけど…」


 石の上に置かれた魔術書を見返す。


 えーっと…。左右または両方の手に力を込め火をイメージし、手から打ち出す。


 やっていることはこれであってるはず。

なのに何回やっても発生しない、どういうことだ?


 何やり困るのは、誰も指導してくれる先生がいないことだ。手の動かし方や想像の仕方が違う、なんて指摘されればわかりやすいのだが、生憎そんな人はいない。


「どこかに魔術詳しい人いないかな〜?」


 この本によると火や水は魔法の王道で、すべての起源であり、これを学ぶことは魔法の基礎を学ぶ、と書いてある。

が、俺には全くできない。


 水ならば多少生み出すことはできたが、火に至ってはさっぱりだ。


 やはり何か方法がおかしいのだろうか。

とりあえず別の魔法を試す。


「ステータスオープン!

…やっぱりこの魔法は使えるな」


 ジークの目の前には3Dのように映像が写し出された。それは自分のステータス強さであり、自分について事細かく書かれている。



本名 ジーク

種族 人間 男性

年齢 15歳

職業 村人Lv1


体力 10

MP 25

力 11

身の守り 7

素早さ 12

賢さ 16


ギフト 

死霊系最強化(一日に回数制限)

死者の怨恨(一日回数制限)

死霊系スキル共有


 こんなふうに3D化して見えるようになるのだが、よく分からない点も多いのだ。


 ……名前や種族、年齢なんかは合ってるけど、職業だったりギフトについては全く分からないな。今は村人っていう職業だけど、どうやったら魔法使いだったり戦士に変更できるんだ?


 この世界に冒険者組合や神殿はあるみたいだけど、そこに行けば変更できるのか?それともこうやって学び続ければ、いつか村人から魔法使いに変わるのか…?


 ダメださっぱり分からん。


 ステータスオープンという魔法は、この魔術書によると、組合や神殿の装置でしか使えない。この魔法を唱えられる者は希少、なんて書かれてあるが、なぜ自分は使えるのだろうか。


 試しにエイラにも魔法詠唱をさせてみたが、彼女は炎魔法は簡単に生み出せて、水魔法はからっきしだった。


 そしてステータスオープンも全く現れなかった。人によって得意不得意があるのだろうか?


 負け惜しみではないが、そもそも自分は禁術使いを目指しているのだ。最悪火属性や水属性魔法なんぞ使えなくとも全く影響はないのである。


 ……多分。


 カァーカァー。


 日本でもお馴染みの鳥、カラスが夕焼けの空を飛んでいく。


 もう夕方になってしまった。

今日は早く帰った方がいいだろう。


 それに分からないことだらけだが、おじさんに聞けば何か知ってるかも知れない。まだこれで落胆するのには早いだろう。


 誰もいない平原の田舎道を歩いていると、ジークが恐れていたことが起きる。


 魔物が現れたのだ。数は5匹、犬の見た目をした赤い目で、剥き出しの牙が特徴であるデビルウルフという凶悪な魔物だ。


 やばっ、どうする!?これはどうしたらいいんだ!?剣もなければ魔法も使えないぞ!


 デビルウルフに囲まれ、吠えられる。

たまに村に出るためにこの魔物の恐ろしさはよくわかっている。


 とにかく獰猛で、人間を恐れず襲ってくる危険な魔物だ。噛まれればこの犬の持っている魔法の毒により、早く処置をしなければ死んでしまう。


 ええい!ままよ!こうなったら、まだ唱えたことすらないけど元の世界で見たラノベの魔法を使ってやる!


「死霊召喚、いでよスケルトン」


 そんな事を唱えても、反応などある訳が……あった。


 え!?まじで!?


 ジークの周囲の地面から5つの青い光が発生し、地面が盛り上がるようにしてスケルトン、骨の化け物が5体出現する。


「うぉ!?やばいぞこれは!?

俺がアンデッドを生み出した?」


 思わず周囲のデビルウルフも距離をとって警戒してくる。


「まぁそんなことはさておき、生み出したからには命令するまでだ。行け!スケルトン、この獣を殺せ!」


 その命令でスケルトン達は動き出す。

そうしてデビルウルフとスケルトンの戦いが始まった。デビルウルフが噛みつこうとスケルトンに飛びかかるが、スケルトンはそんなことをお構いなしにに殴りかかる。


 吹っ飛ばされたデビルウルフは再度スケルトンに襲い掛かろうとするが、横にいる別のスケルトンにサッカーボールのように蹴っ飛ばされる。


 結構強いぞ!?スケルトンっていったらRPGでは雑魚中の雑魚。なのに動きは早いは、打撃も強力だ、これは勝てるかもかもしれない!


 ジークはその中で一人棒立ちをしていると、横からデビルウルフが襲い掛かってきた。


「まずい!」


 咄嗟に左手を突き出した。すると噛まれる直前に、自分の左手から闇の炎が出て、デビルウルフを吹き飛した。


 はっ…?


「なんだこれ?」


 左手に発生した闇の炎を観察する。

どういうことだ、まさか自分が作り出したとでもいうのだろうか。


「ふっふっふ…はっはっは!

これが闇の力…」


 思わず厨二病みたいなセリフが出てきてしまう。しかしこれは嬉しい誤算だ。


 まさか自分に闇の力が使えるとは。

これでこの世界の目標である禁術使いへの一歩近づいた。


 そんなこんなで辺りを見返すと、スケルトンが残り4匹のデビルウルフを倒したようだ。

こんなにスケルトンが強いとは想定外だ。


「ご苦労諸君、君たちは土に還りたまへ」


 スケルトンの頭に右手を置いて一言、そのまま両手を叩くとアンデッドは即座に掻き消えた。

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