最終話 先生×私=

 まぁ、そんなこんなあり、刺激的な日々を過ごしている。


 そんな中、時々ふと思う。

 


 この世界に、私に解けない数式があるとするならば、それが“恋”だ。



 誰と出逢い、誰を好きになり、結ばれるかすら“わからない”。


 結ばれた先も、何が起こるか“わからない”。


 両親みたいに伝染病にかかり、亡くなるかもしれない。


 私みたいに、脳に普通とは違う部位があり、奇跡なんて起きず、亡くなるかもしれない。


 別れるかもしれない、愛する人に先立たれるかもしれない、子供ができないかもしれない。



 でも、そうやって、“マイナスの予測”で、怯えていたら、幸せは掴めない。



 一人でも、幸せかもしれない。


 でも、私はやっぱり、誰かといたいな。



 目が覚めて思ったんだ。


 ずっと傍にいてくれたことがわかった苦しげな先生だったり、ボロボロ泣きながら抱き締めてくれたイアリちゃんだったり、それを穏やかに見守ってくれているオネット教授だったり。


 みんなと、こんなにあったかい人たちと、ずっと一緒にいたいな、って。



 先生はあの後、話してくれた。


 私が眠っていた二年間。色々な事を思い出し、後悔していたと。


 過去を悔やんでも仕方ないと、人はよく言うけれど。


 私はそうは思わないんだ。後悔って、それだけ自分を見つめ直せる事なんだ。後悔ばかりはよくないけどね。


 だから、情けなくないですよ! と、先生に言ったら、



『——お前には敵わねぇよ』



 と、かっこいい笑顔をいただいた。


 

 敵わないのは私も同じだ。



 ラオザム教授の助手さん事件や、パンデミックの時、みんなに指示を出したけど、誰かの上に立つのは向いてないなと実感した。


 そんな私に比べると、先生はすごい。


 あの時以来、教授や助教、それに、このラボを目指す若い人たちがひっきりなしにやってきて、先生に教えを乞う。


 その度に先生は『あー……』と、いつものように面倒臭いオーラ全開で頭をかく。


 でも、優しいから、みんなを引き連れ、よくフィールドワークに行く。その際、



『それは有毒だ、触るな』



『どいつもこいつも俺から離れるな! 勝手に植物を採るな! 俺に聞いてからやれ!』



 と、ビシバシ指示を出していく。


 そんなかっこいい先生を見ているのは、とっても目の保養だ。


 やっぱり先生は上に立つ素質がある、敵わないなーと思った。


 それは、所長も同じらしく、この間、廊下ですれ違う際に、



『次の所長はねー、シューラーくんがいいと思っているんだー』



 と、ニコニコしながら言われた。可愛かったので「そうですねー」と、同意しちゃったけど、所長になったら助手でいられないから、後で先生に代わり、お断りしてこようと思う。



 そんなわけで、敵わないと思っている二人が出会うと、何が起こるか。


 私と先生の場合は、色々あったけど恋が生まれた。


 三歳からの想い、ようやく叶った。


 でも、これもある意味、奇跡だと思う。


 だって、あの時もあの時も、死は覚悟していた。


 いつだって、“わからなかった”。


 私がいつまで生きていられるか、なんて。


 だから、脳の大きさが左右対称になった、今も生きている、初恋叶った。


 ぜーんぶぜーんぶ、奇跡だ。



 それに、“わからない”って、怖いけど面白い! そう思った。


 だから、恋って面白いんだ。



「おチビ! 何やってんだ! 行くぞ!」


「はーい!」



 むふふふー。これから先生とデートなんだー。今日は何を奢ってくれるのかなー?



「お待たせしましたー」


「何ボーっと妄想してんだ」


「妄想じゃないですっ、瞑想って言ってくださいっ」


「どっちも同じだろ」


「違いますー。ま、それは置いといて。今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」


「ジャポネっつー変わった国の料理を出す店だ」


金星糖キンセイトウといい、先生ジャポネ好きですよね」


「まぁな。だが、金星糖はどこかの国の人間がジャポネに持ち込んだらしいぞ」


「ほへー……。でも先生、あの国の服、好きですよね?」


「楽だろ、あれ」


「あの国の木製の靴? も、好きですよね?」


「面白ぇだろ、あの音」


「……先生って、何気に単純な理由で好きになりますよね?」


「好きになんのに、複雑な理由はいらねぇんだよ」


「えー、じゃあ私はー?」


 自分を指して、40センチぐらい差がある先生を見上げてみた。


「あー……、小さくてタイプだから」


 先生は頬を赤く染めると、頭をがっしがっしとかいた。


「小さくてタイプ……。むふふー、私おチビでよかったー!」


 コンプレックスが先生の一言により一瞬で消えた。

 嬉しくなり、先生の大きな手に自分の右手を重ねた。離されるかと思いきや、長くてきれいだけど、傷だらけの指を絡めてくれた。


「ねぇ、先生」


「あ?」


「背丈も差があり、歳も親子ほど離れている私たちが出会うと、何が生まれるか“わからなかった”けど、恋が生まれましたよね?」


「まぁ、そうだな」


「恋って、難しくて面白いですよねっ」


「——そうだな。“わからねぇ”から、人は悩み葛藤する。その先で掴めた幸せは、計り知れねぇほどデカい」


「でも私っ、“わからない”ままで終わらせたくないんですっ。だから、これからずーっと、私と一緒に、恋という世界で一番素敵で難解な数式を解いていきましょうね!」


「——ああ、望むところだ!」






 fin.




 ***




 あとがき。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 お話はこれで終わりで、次の『本当のあとがき。』にて、本当の本当に終わりとなります。


 本当のあとがき。では、その後の四人や、詳細プロフィールを書く予定です。

 よければ、最後までお付き合いください(ぺこり)

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