第35話 ……ああ、もう、いいかな。
「…………」
目が、
目を、開けているのも辛い。目を、閉じていても痛い。今すぐ地面でのた打ち回りたい、それぐらい痛い。
これが、脳を酷使した代償か。
頭の左側はいつもズキズキする痛み。右側は圧迫されたようにダラダラ続く痛みと頭の重さ。
左側が酷い時は吐き気があり、時々みんなに隠れて嘔吐していた。
右側が酷い時は目眩があり、医務室でこっそり横になっていたりしていた。
それが今、全部来ている。全部。
おまけに抉られるような目の痛み付きだ。
『脳を酷使しすぎて死んじゃうかもしれないねー!』
……かもしれない。
こういう時こそ、“プラスの予測”でいなきゃなのに、ここまで来ると、“マイナス”に退化してしまう。
今度こそ、“死ぬ、かもしれない”、と。
でも、まだダメだ。
まだ、倒れちゃいけない。
イアリちゃんが、先生が、そして、オコジョさんたちも。大好きな人たちが駆け回っていてくれている。
本当は私も、今すぐ駆け出してみんなの所に行きたい!
けど、できない。
自分の体だ、よくわかる。
多分、一歩でも動いたら、意識が飛ぶ。
今、私は、気力だけで立っている。
だから、ここで目を閉じて、じっと待とう。
大丈夫、イアリちゃんも先生も、大好きだから声を聞けばわかる。
二人が戻ってきて。
「何とかなったよ! ミッチー!」
「何とかなったぞ! おチビ!」
って、言ってくれるのを聞くまでは倒れちゃダメ。
うん、できるよ。
あ、遠くから足音が聞こえる。私に向かってくる足音が二つ。
「何とかなったよ! ミッチー!」
ありがとう、イアリちゃん。
さすが、私の大親友だ。
手伝えなくてごめんね。
「何とかなったぞ! おチビ!」
ありがとう、先生。
さすが、私の大好きな人だ。
いい歳なのに、走り回させてごめんなさい。
……ああ、もう、いいかな。
もう、眠ってもいいかな。
お母さんもお父さんも、「よくやったミッチェル」って、きっと褒めてくれるよね。
あの時、両親は、『アイファを頼む』って言ったけど。
もう、大丈夫だよ。
私が出会う前の、かっこいい先生だよ。今だってかっこいいけどさ。
その先生が、また恋をしてくれたんだ。
これって、かなりの前進だよね。
恋ってさ、世界で一番難解で面白くて、素敵な数式なんだ。
本当に何が起こるかわからないんだ。
誰と出逢うかもわからないんだ。
こんなに素敵な恋をしないって、損だと思うんだ。
それを、また始めてくれた。
こんなに嬉しいことはない。
私にやっと振り向いてくれたけどさ。
別に、私じゃなくてもいいんだ。
恋という、世界で一番、難しくて、きれいな、数式を、先生と、解きたかった、けれど。
普通じゃない脳の私は、それこそこの先、どうなるか、“わからない”、からさ。
今だって、わからない、から、さ……。
いつまで、立って、いられ、る、か……。
だ、から、先生、素敵な、恋、を、して、ね……。
「——ミッチェル!」
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