第31話 「それが答えなんじゃないかな」(アイファ視点)

 見えなくなった背中。残された式。


 空中に光る式を見て、俺は項垂れた。



 わかる、わけがない。



 人を愛することが怖くなり、恋をするのを諦めた俺に、わかる、わけがない。


「……なぁ、ジェン。教えてくれよ……、恋をしているお前なら、わかるのか? 俺は、もう、何も、わからねぇよ……」


「“わからない”、それが答えなんじゃないかな」


 ジェンは俺の肩に手を置くと、光る式を見上げた。


「わからない、が、答え?」


「うん。アイファとクロウくんのように、僕とイアリも」


 ジェンはミッチェルが書いた式の隣に、ジェン×イアリ=?、と魔法ペンで書いた。


「“わからない”。アイファとクロウくん、そして、僕とイアリは、悲しいけど親子ほど歳が離れている。年齢からいって、僕が先に亡くなるのは必然だろう」


「…………」


「でも、どうなるか“わからない”、先輩方の伝染病のように、イアリたちが先に死ぬかもしれない。親子ほど歳の離れた僕らに、いつか嫌気が差すかもしれない。恋に正解なんて、きっとないのさ」


「…………」


「でも、僕らは惹かれあってしまった。残りの人生を、二人で送りたいと思ってしまった。……何が起きるかわからない。だから、恋って面白いし素敵で、僕はいくつになってもしてしまうんだ」


 照れくさそうだけど、幸せそうなジェンの横顔が助手時代の俺たちと重なり、走馬灯現象のように思い出が蘇ってきた。














『なぁ、アイファ。ディック×ジョーリー、この式の答えは何だと思う?』













 


『そんなの簡単じゃないですか』


『ほほぅ、では書いて見せよ』


『……』


『ふむふむ、俺×ジョリー=妊娠、と。まぁ! アイファさんったら破廉恥ハレンチ!』


『気色悪い声を出さないでください。ぶっ飛ばしますよ?』


『まぁ! アイファさんったら怖い! でも、ジョリーさんも見てくださいなっ、この答え』


『どれどれ……、まぁ! アイファさんのエッチ!』


『……劇薬を飲みたいんですね? 先輩方』


『まぁまぁアイファ、落ち着いて』


『わははは! 劇薬は勘弁してほしいぞ! そしてこの答えは、人間の摂理から言えば。これの答えはな、こうだ』


クエスチョン、ですか?』


『そう、“わからない”だ。お前の書いた通りジョリーは妊娠したが、子を授からなかった、かもしれない。うるさい俺に愛想を尽かして、ジョリーが出ていく、かもしれない』


『ああ、その手があったわね』


『ジョリー! 俺を見捨てないでー!』


『見捨てないわよ。あなたみたいなやかましい人に付き合えるの、私ぐらいだろうから』


『わははっ! 確かに! で、だ。このように、この先、何が起こるかわからない。だから、恋は面白いんだ。いいか、二人共。いつまでも恋する心を忘れるな?』


『…………』『はい』


『アイファ、返事は!?』


『はいはい』

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