第23話 「最強すぎるだろ……」(ジェン視点)

 数日経っても中々ラボに来ないアイファが気になり、僕は二人の家に向かった。


 家に着き、ドアノブを回すと鍵は開いていた。


 リビングからクロウくんの泣き声が聞こえ、嫌な予感がして靴を脱ぎ捨て走ったんだ。



 リビングにいたのは、ヒカイト助教を抱き、抜け殻のようにビクともしないアイファと、泣いているクロウくんだった。



 それからだよ、アイファが寝食を忘れて研究の鬼となったのは。

 そして、恋をするのが怖くなったのは。



 ***



「……ミッチーはそれから」


「僕の知り合いに預けた。ラボも僕らの仕事も知らない人にね。これで、クロウくんとはお別れだと、思った。でも、血は争えないね。ここを見つけて彼女はやってきた、そして」


「あの、万能薬の数式を、解いたんですか……」


「うん」


「…………」


「辛かったと思うよ、アイファは。ヒカイト助教を亡くした痛みがまだ消えてない内に、クロウくんはやって来てしまったから」


「……辛い、なんて、もんじゃねぇ」


 アイファはまた項垂れた。


「地獄だ……」


「……ミッチーの脳の違いにはいつ」


「その日に検査したよ。そして、すぐにこのラボから離れてもらおうと思った。でもね、彼女は小さい時からパワフルで感受性豊かだった。捕まえようとすれば逃げ、捕まれば泣き喚いた」


「アハハッ……、チビミッチー可愛い」


 イアリは涙を拭きながら笑った。


「うん、可愛いね。今と全然変わらない。そんなあの子だから、苦渋の選択だけど、自分の助手にするという道を選んだんだ、アイファは」


「……割ったみたいだ」


 アイファは泣きたいのを我慢し、無理に笑ったみたいな笑顔を見せた。


「足して二で割ったみたいだ、あいつは、ミッチェルは……。あの二人の……」


「ミッチーのご両親……」


「ああ……。頑固で豪快なディック先輩、活動的なジョリー先輩……。そんなの、最強すぎるだろ……。最後まで、あの二人はずるい……」


 嬉しそうに、でもどこか苦しそうに懐かしみ、アイファは静かに涙を流した。

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