第20話 「クロウ教授」(ジェン視点)

 そして、今のようにアイファは項垂れたんだ。


「わははっ! そうだな! 卑怯でやかましい馬鹿な助教の元で働いたと、後でみんなに言いふらせ!」


「……そんなこと言いません。あんたみたいな、教授になりたかったんだ……。クロウ


「教授! やはり甘美な響きだな!」


「……思わなかったんですか」


 アイファはぽつりと言った。


「何をだ」


感染うつるかもしれないって、あの時……」


「思ったさ」


「じゃあ、どうして……」


「——ふむ。アイファ・シューラー、ジェン・オネット」


「はい」「はい!」


 落ち着いた声で名前を呼ばれ、僕らは姿勢を正した。


「俺の、だ」


「……はい」「……はい」



 僕らは、叫びたかった。



 「最初で最後なんて、言わないでください! もっとたくさんのことを、教えてください! 教授!」と。

 でも、言えなかった。ディック先輩の瞳は、僕らより、真っ直ぐで輝いていたから。


「人間は、“負のかもしれない”で、予測で、生きてはならない」


「…………」


「確かに予測は大切だ。予測して用心することはいい事だと思う。だが、それでは、何も動けない時もある。“感染うつる、かもしれない”“死ぬ、かもしれない”、そうやって怯えていたら、救えるものも救えない」


「…………」


「だから俺は、“正のかもしれない”で動くようにしている。“助けられる、かもしれない”“治せる、かもしれない”、とな」


「…………」


「だから、お前たちにも、そうやって生きてほしい」


「……俺への解剖依頼も、“正のかもしれない”ですか」


 アイファはさらに項垂れたんだ。


 “正のかもしれない”と、言われたら、もう覚悟を決めるしかないから、何か最後の、一押しが欲しかったんだと思う。

 でも、ディック先輩は、そうは言わなかった。


「いいや。“正のしてくれる”、“正の確信”だ。お前なら、アイファなら、俺たちを解剖し、このやまいの、数式を解いてくれるというな」


 と、ディック先輩は自信満々で誇らしげに、わざとらしく胸を張って言ったんだ。


 その言葉にアイファはゆっくり顔を上げ、ディック先輩を見ると。


「……本当に、ずるいですよ、あんた」


 嬉しいのに悲しい、そんなぐちゃぐちゃな顔で笑い、涙を流したんだ。



***



 あとがき。


 次回、さらにシリアスと切ない激化な(苦笑)新章です。


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 お星様↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330649549967232#reviews

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