第16話 「名乗るほどの者ではない!」(ジェン視点)

 僕らは学生の時、このラボに入所するためにフィールドワークをしていた。


 その時、ある村に立ち寄ったら。


「これは……」


 たくさんの人が、亡くなっていた。皮膚を白くさせて。


 その村に昔からある伝染病だった。

 病名も病因も治療法もわからない。

 ただ、はっきりしていたことは、皮膚が白くなって固まり、やがて、筋肉が動かなくなる。という事だった。


 当時、まだ学生の僕らは、たくさんの亡くなった人々と、苦しむ人を前に、ただ立ち尽くす木偶でくぼうだった。


 そんな僕らに声をかけてきたのが。


「おい! そこの二人!」


 クロウくんの父親、ディック・クロウ先輩だった。


 土や草で汚れた白衣を着て、片手に植物、もう片手で空中に数式を書きながら、先輩は近づいてきた。


「この数式にある植物を採ってきてくれないか!? ダッシュで!」


 そして、さっきのクロウくんのように頼んできたんだ。


「え……、僕たち、ですか?」


「そうだ! だってお前ら、同じ匂いがするぞ! あのラボを目指す同じ匂いがな!」


「あのラボって……、あなたは……」


「名乗るほどの者ではない! 俺は『マジアプランツェラボM・P・L』の第二研究室助教! ディック・クロウだ!」


 自分を親指で指し、何故か自慢気なディック先輩に。


「痛ぁ!」


「名乗ってるでしょ! バカやってないであなたも動く! 時間との勝負なんだから!」


 すねりをしたのが、小さくてパワフルな、クロウくんの母親、ジョリー先輩だった。


「脛! 痛い所! 反則!」


「うるさい! 後で唾でもつけてあげるから今は動くの!」


「はい!」


 小さくて元気で聡明。クロウくんは、ミッチェルくんは、ジョリー先輩の生き写しだと、今ならわかるよ。


 こうして僕とアイファは、尻に敷かれている、ディック先輩の書いた数式にある植物を探しに行ったんだ。



 ***



「……植物は、見つかったんですか?」


「うん、見つかったよ。僕らでも知っている植物だったからね」



 ***



 そして、すぐにディック先輩に渡したんだ。


「でかした! 青年!」


「うわっ」


 大きな手で僕たちの頭を撫で回すと、植物を村にあった擦りこぎで擦り、薬包紙に分け。


「これを飲ませるんだ!」


「オッケー!」


 ジョリー先輩に渡した。

 ジョリー先輩は寝込んでいる人や、座り込んで弱っている人に薬と魔法瓶の水を飲ませた。

 すると、人々の皮膚は元の肌色を取り戻し、筋肉も動くようになった。村の人は安堵し、先輩方に泣きながら感謝を伝えていたよ。


「すごい……」


「そうだろう! もっと褒めてくれていいんだぞ!」


「このやまいの薬の数式を、閃いていたんですか……?」


「いいや!」


「え?」


「ただ、似たような症状の病の、薬の数式を知っていただけだ! それを試したら見事に的中! さすが俺! わっはっは!」


 そう言って腕を組み豪快に笑い、ディック先輩は後ろから倒れ。


「疲れた! 寝る!」


 いびきをかいて寝てしまったんだ。

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