第13話 「黙れ、ぴんぴん野郎」

 ラオザム教授が書き終わると共に、数式の誤りがわかった。というか、間違いだらけだ。


「ラオザム教授、このYIって、ヤマシベイモのことですよね?」


「そ、そうだ」


「見せてください」


「こ、これだよ」


 ラオザム教授は、テーブルの上に置いてあった曲がって凹凸のあるクリーム色の植物を見せた。

 葉が。これは。


「これはヤマシベイモではありません」


「な、何だって!」


「これは、ヤマシベイモによく似たのハシリドイモです」


「いや、でも、どう見たってヤマシベに……」


「確かに根の部分だけ見れば、ヤマシベイモにそっくりです。でも、ヤマシベイモは葉がんです」


「そんな、けど……」


「でももけどもありません。『魔法植物全集』を読みましたか?」


「も、もちろんだとも!」


「嘘ですね。読んでいたなら最初に出てきます。気をつけるべき有毒植物一覧が、よく似た無毒のものと共に」


「…………」


「大学でも最初に習うはずです。私みたいに大学に行ってなくてもあの本を読んでいれば、わかるはずです」


「そんなことは……」


「そんなことはあるんです。それが、“今”です。あなたが、全ての事を助手の方に押し付けてきた、悪行の報いです」


「…………」


 もうこの人に構っている暇はない。さっきの数式は色々とヤバすぎた。

 

 YI⌒≡とあった。

 ⌒は加熱、≡は刻む。


 つまり、ハシリドイモを刻んで加熱してまった。ハシリドイモは刻む事で毒素が強まり、火を加える事で即効性を早めてしまう。


 時間と、私の勝負だ。


 毒が全身を周り、昏睡して亡くなってしまうのが先か。私が解毒薬の数式を閃くのが先か。





『頼んだよ』





 ——うん、頼まれた。


 頭脳をフル回転させ導く。ボードに魔法のペンで数式を書いていく。


「す、すごい。これが天才か……」


 後ろからラオザム教授の声が聞こえた気がした。


「イアリちゃん」


「あいよっ」


「ハシリドイモによく似た効能のミチノキソウを採って来て。有毒だから気をつけてね」


「ラジャ!」


 イアリちゃんが走っていく音が聞こえた。


「オネット教授」


「何でも言ってくれ」


「体内で無毒化できるといわれている、バイケイオコジョのふんを取ってきてください。ミチノキソウが揃ったら煎じて飲ませてください」


「タイムリミットは」


「——……」


 がくがくと痙攣けいれんして倒れている助手さんを見た。


「七、いや、五分です」


「わかったよ!」


 オネット教授も走っていく音が聞こえた。


「いや、でも、ボクぴんは——」


「黙れ、ぴんぴん野郎」


 後ろから先生の声がした。


「ミッチェルが、俺の助手がやろうとしている事を、黙って見ていろ」


 先生の言葉を嬉しく思いながら、私は何回も数式を見直し誤りはないか確認し、頭の中で解毒薬をイメージしていた。

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