第9話 「来るなぁ! 変態!」

「せんせー!」


 勢いよく第二研究室のドアを開けた。先生は。


「…………」


 オール無視! でも、めげない!


「先生ってばー、お風呂に入りましょうよー」


「入らん。時間の無駄だ」


「海藻教授って言われてるんですよー? いいんですかー!?」


「言わせておけばいい」


「じゃあせめて! シャワーだけでも浴びてっ、髭とか剃りましょうよ!」


「…………」


 ダメだ、先生はぶつぶつ数式ゾーンに入った。


「そうだ!」


 入浴が時間の無駄にならなきゃいいんだ!


「わかりました! ちょっと待っていてください!」


 研究室の保管庫に行き、ある植物を二つ切らせてもらった。

 そして、それを奥の風呂場に持っていき、まず浴槽を洗い、お湯を張った。半分くらいお湯がたまったところに、持ってきた植物二種をさらに細かく切り、またお湯を入れた。


 すると、みるみる泡立っていき、一瞬で泡風呂の完成! ちょちょいとおまけの魔法もかける。うん、頭の中で描いた数式通りだ!


「よし! これなら!」


 急いで先生の所に戻り。


「先生! バンザーイしてください!」


「はぁ?」


 と言いながらも、ちゃんと両手を上げてくれる先生、可愛い!

 今の内に先生の白衣を脱がし、ヨレヨレのシャツも脱がした。


「スタンダップ!」


 そして、強引に脇腹を掴み立たせた。


「おチビ、何をっ……」


「先生の行進だー!」


 ぐいぐいと先生の背中を押して、脱衣場まで連れていった。

 そして、鍵を閉め、認証魔法をかけた。


「おい! おチビ! 開かないぞ! 何した!」


「ふっふっふー。認証魔法をかけました! もう脱衣場のドアは、私の指紋を認証しないと開きません!」


「はぁ!?」


「諦めて! お風呂に入ってください! あ、ちゃんとお風呂に入ったかどうかもわかるように、浴槽には検知魔法をかけてありますからね! 人間の体温や皮膚を検知して、私に知らせが来ないと、出してあげませんから!」


「くっそ……」


 ドアの向こうから、服が擦れる音が聞こえる。くそー、透視魔法もかければよかった。先生の裸が見たい!


「うあ……、泡風呂か……」


「ただの泡風呂じゃないですよー? 一石二鳥、いや、三鳥風呂です! まぁまぁ、入ってみてください! きっと気に入ると思いますよ!」


「何が三鳥風呂だ……」


 ドア向こうで肌色になった先生が、風呂場のドアを開け、閉める音がした。

 そして、すぐに。


「なっ、何じゃこりゃー!」


 先生の悲鳴が聞こえた。おかしいなー? 喜びの声が聞こえるはずなのに。ま、いっか。


 ドアノブに手をかけると、指紋模様が光って広がり、ガチャリと回せるようになった。

 脱衣場のドアを開け、風呂場のドアも開けた。


「おチビ! 風呂に何入れた!」


 お風呂場に、下半身泡だらけの先生が赤い顔をして立っていた。


「何って、脱毛効果があるゼニケタムと、洗浄効果があるアワルヤシの実を入れ、ちょーっと、促進魔法かけただけですよ」


「ちょっとじゃねーだろ! 見ろ! 足毛ツルッツルだぞ!」


 泡が落ちてお目見えした先生の両足は、毛が一本もなくツルッツルだった。


「いいじゃないですか、毛の処理の手間が省けて」


「よくない! 気づくの遅かったらアソコの毛まで全部ツルッツルになるとこだったぞ!」


「……少しは、抜けたんですか?」


「は?」


「アソコの毛」


「少しな」


「——見せてくださーい!」


 先生に飛びかかろうとし。


「来るなぁ! 変態!」


 全力で風呂場から逃げられた。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る