第6話 「だぁ!」

「はははっ、相変わらずクロウくんは発想とか、色々と飛び抜けているねー」


 爽やかな笑顔で、涙を指で拭いながらやってきたのは。


「オネット教授……」


 イアリちゃんの恋人で、第三研究室教授のジェン・オネットさん。

 薄茶のクラウドマッシュヘアで、根元からパーマをかけている。ボリューム感とエアリーな髪型に、オレンジ色の瞳が優しげな、とーっても爽やかな、爽やか教授だ。


「さすが、天才ベビー」


「……その呼び方、いい加減やめません?」


「いやぁ、だって忘れられないよ。あの時の衝撃は」


 そう言って、オネット教授は壁に貼ってある『ラボ新聞』の切り抜きを指した。

 魔法で色褪せていないけど、ペンを持って笑う赤ちゃんの写真の記事だ、二十数年前の。そこにはでかでかとこう書かれてある。


『神の子か!? 謎の天才ベビー現る!』


 謎の天才ベビー、当時、まだ生後六ヶ月だった私のことである。

 六ヶ月だったので、なーんも覚えていないけど。赤ちゃんの頃から私はズバ抜けていたらしい。


 生後一ヶ月でハイハイをし、三ヶ月でつかまり立ちをした。五ヶ月目には歩いていた、らしいのだ。


 そんな私、家がラボから近かったため、ヨチヨチふらふらとやってきたらしい。

 そして、当時。古代人が書いたと思われる、万能薬の数式が書かれた書物が見つかり、大騒ぎしていた。


 けど、誰も解けず頭を悩ませていた。ところに、私はヨチヨチやってきて、ボードに書かれてあった数式を見て、落ちていたペンを拾い。



『だぁ!』



 と、言って、落書きをするように数式を床に書いて解いてしまったらしい。

 そして、周りが唖然としている中、『キャッキャ』と、言って、一人で笑っていたらしい。


 ……私からすれば。天才というよりは、得体の知れない恐ろしい赤ちゃんだ。

 それにそもそも、この“天才”。私は自分を天才だとは思っていない。

 ただ人より少し、植物と数字が好きなだけ。人より少ーし。


 そして、物心がついた三歳の時。またラボに遊びに来ていた私は、数式の書かれたボードの前を、ぶつぶつと独り言を呟きながら、ウロウロしていた先生の渋い顔に惚れた。


 そして、現在に至る。


 一歳にも満たない頃の出来事を、何故こんなに詳しく知っているかというと。

 ラボに入った四歳の時、オネット教授が今みたく涙を拭きながら笑って。


『君はね、一億年、いや、一不可思議年に一人の逸材だよ。あのアイファにあんな顔をさせる人、初めて見た』


 と、語ってきたからである。


 まぁ、もちろん。記憶にない私は。


『はぁ』


 としか、言いようがなかったんだけど。



***


 あとがき。


 恐怖のベビーミッチェル(笑)


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