第4話 いいんですか?

「確かに、私はいつでも博士号を取れます。博士論文はもうできているんです、に」


「お、おお。さすがだねぇ」


「でも、いいんですか? で。困るのは教授ですよ?」


「ど、どういうことだい」


「私が博士号を取ったら、助教飛び越え教授です。そしたら、第一研究室は私のものになります」


「むむぅ……」


「第一研究室、快適らしいじゃないですか。家具家電は高級品、防音防火防寒。実験道具は壊しても使い放題。いいですよねー、いいなー。あー、論文を形にしたくなってきたー」


 私はペンを走らせ、論文を書く真似をした。


「き、き、君はまだ! 助手がいいね! うん、それがいい! 天才助手! いい響きだ! じゃ!」


 ラオザム教授はきびすを返すと、手と足を同時に動かして研究室に戻っていった。


「ふんっだ! 私はね! 誰かの上に立つよりもっ、先生の傍で先生のお手伝いをしたいの! それが生き甲斐なの! 博士号なんて本当は少しも興味ないよーっだ!」


 ぷんぷんずんずんと、私は第二研究室へ向かった。



 ***



 第二研究室のドアを、ガチャリと開けた。

 先生は。


「違うな、こうじゃない、こうだ」


 胡座をかいて分厚い魔法植物書を読みながら、床にペンで数式を書いていた。


「——……」


 横顔素敵! 瓶底眼鏡の脇から見える真剣な瞳も素敵! 痺れる! 

 先生のどこがモサいんだか!


「…………」


 気づかれないよう、足音を立てないようにそろりそろりと先生に近づき。


「ばぁ!」


 にゅっと先生の顔と本の間に顔を出してみた。


「……いや、これも、違う。これもこれも」


「…………」


 私、アウトオブ眼中。


 だけど、これ日常茶飯事。こういう時は。


「先生、ここはこうじゃないですか?」


 先生の手に自分のを重ね、ペンを動かし、式を書き換えた。


 ⊿∃=∈2∝°∧∫∟を。


 ⊿∃=⊃2∝°∧∫¬に。


 すると。


「…………」


 こっちを向いてくれた。数式の謎が解けた時、こっちを向いてくれる。


「……またおチビに負けたか」


 先生は頭をがっしがしと掻いた。あーあ、髪がさらに海藻になっちゃいますよー。


「別に勝負してないじゃないですかー」


「そうだが」


「はいっ、ではっ! 謎は解けたことですし! お風呂に入りましょう!」


「入らん」


「入ってくださーい! また“加齢藻”って言われてもいいんですかー!?」


「構わん」


「もーっ! はっ! そうだ!」



『盛ればいんじゃね?』



 、お色気作戦で一緒に入ればいいんだ!


「先生! 待っていてください! お風呂に入りたくなるようにしてきますからー!」


 私は第二研究室を飛び出した。



***


 あとがき。


 ミッチェルは、女版ガリ◯オ、湯◯教授を目指しています(笑) ……冗談です、彼女はあこまでクールでもないし、事件も解けません(苦笑)


 次回、回(笑)


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