第3話 「あまりに小さすぎて、見えなかったよぉ」
「ミチコのこーんなに小さくて、こーんなに可愛い頭のどこに、そーんなたくさんの知識が入ってるんだろうねー」
イアリちゃんは、さらに私を強く抱きしめ、頭を撫で回した。
「だから、私はミッチェルだよ、イアリちゃん」
私は頬を膨らませた。
「アハハッ、ごめんごめん。ミッチー可愛いからさ、ついからかいたくなるんだよねー」
「もーっ」
だけど、実は。からかわれるのは、嫌いではなかったりする。あの人を除いては。
「イアリ、行くよ」
「はぁーいっ。またねっ、ミッチー」
「うん、またねっ」
イアリちゃんは、教授であり恋人のジェン・オネットさんに呼ばれて、研究室に戻っていった。
「……いいなー」
***
私は先生がいる研究室に向かっていた。
ここ『
家具家電付きの、実験道具白衣付き、共同浴場ありな便利な研究所。
教授には一室が与えられ、そこで暮らしている先生も多い。アイファ先生も然り。
そして、研究室は番号が振られてあり、アイファ先生は『第二研究室』。第一は。
「おっとぉ!」
「わっぷ!」
「ごめんよぉ、あまりに小さすぎて、見えなかったよぉ」
「ラオザム、……教授」
……この人だ。
今、曲がり角でぶつかってしまった、金色巻髪で顎髭な、第一研究室教授、ペルゼン・ラオザムさん。
いけないいけない。あまりに嫌いすぎて、教授をつけるの忘れそうだった。
「ごめんねぇ、今度から気をつけるよぉ」
「いえ、お気になさらず」
気をつける気なんて、微塵もないの知ってますから。
「でもねぇ、君が気をつけるべきなんだよぉ? 本当は」
「はぁ」
本当って何。
「小さすぎて見えないんだから、もっとアピールしないとぉ。ここにいますよーって飛び跳ねるとかさ。ぷくくくっ」
「はぁ」
見下したように笑う、この教授の言葉は、右耳から入り、左脳に入る間もなく左耳から抜けていく。
「でも、君のすごさは認めるよぉ。博士号を取ればいいのにぃ。君なら准教授もぶっ飛ばしてすぐ教授になれると思うよぉ?」
「はぁ」
「何であんな、モッサい万年二番手の助手なんかやってるのぉ?」
「…………」
万年二番手、アイファ先生のことだ。
先生は、新薬の開発などで、第二研究室の教授まで上がってきた。だけど、そこから上がれない。
この人がいるから。
自分は動かず、助手たちは捨て駒のように動かし、功績は我が物にする、この人がいるから。
「あ、そうだぁ。ボクぴんの助手になるぅ? 身長も伸ばしてあげれるよぉ?」
「…………」
聞き流すのも、面倒くさくなってきたな。
小さすぎて見えなくて悪かったですね。
でも、私は周りがよく見えているんですよ。
四歳からここにいる、つまり、二十四年ここにいる。あなたよりずっと大先輩なんです。
だから、あなたのこともよく知っています。
あなたは、女性の、それも年下から、口で言い負かされるのが、大嫌いだということを。
なので、そろそろ黙ってもらうために、言い負かしてあげますね?
年下で女の私が。
***
あとがき。
次回、反撃回となります。
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