永遠の国編 エピソード13  祝福

―――――ブルーベルの視点

 街を散策していると、素敵なチョコレートのお店を見つけた。カラフルな包装紙に包まれて店内はキラキラとしている。量り売りのブロックチョコレートなんかもある。

「わぁ。綺麗! ラッピングとか色合いとか、お花のブーケの参考になるかも」

 お店に入ると、店員さんが試食のチョコレートをくれた。

「美味しい!」

「おいしい!」

 同時に無邪気な声が聞こえた。

「あなたは!」

「こんにちは、ベルちゃん!」

 ヴィランの少女が横でチョコレートの試食を頬張っていた。警戒して身構えた。

「まーまー。何もしないから落ち着いて。シャン先輩に連絡するのもいいけど、捕まらないよーだ」

「私に何の用?」

「わたしとお話ししたいんじゃないかと思って」

 リンくんとの話しを思い出した。“祝福”のことやお母さんのことを聞いてみようと思ってたんだ。

「何もしないと約束して! 破ったら探偵団に突き出してやるんだから」

「これ買ってくれたら約束する!」

 チョコレートボックスを指差して満面の笑みを浮かべた少女に少し拍子抜けした。本当にこの子は悪い人なのだろうか、と緩みそうになる自分を感じた。

 街並みを歩きながら、チョコを頬張る少女の様子を見ていた。

「ベルちゃんは自分のお願い事おぼえてる?」

「? お願い事? いつも碧の国一番のお花屋さんになるって思ってるけど」

「お母さんのお願い事は知ってる?」

「え? お花屋さんが繁盛することかな? そういうの話したことないかも」

 少女が前に来て得意げに言う。

「ベルちゃんが外の世界に出て、夢を持って大きく羽ばたいて欲しい!」

「へ?」

 そういえば、お母さんは「学校に行きたくないのか」とか「留学は興味ないか」とかきいてくることが時々あった。

「これから叶いそうだね!」

「でもっ私は花屋ボアロを継いで碧の国一番のお花屋さんにしたいの!」

「そのための世界旅行でもいいじゃない。世界中のお花屋さんを見て周ることも勉強になると思うなー。とにかく! “祝福“は早い者勝ちなの!」

 意気揚々と話している少女を見ていると、心を許しそうになるけれど、自分がされたことを思うと声に力が入った。

「どうして、あんな酷いことしたの?」

 少女はため息まじりに言った。

「だーかーらー。願いを叶えるためには代償を払わないと! そういうもんでしょ」

「その“祝福”をするために、お母さんを抜け殻にして私を攫ったの? そんなこと誰も望んでなかったよ」

「わたしって優しいほうだよ。元に戻さない奴らが多い中、ほら!」

 胸元の青い石に手を当てるとパァッと光が広がって、その中にお母さんが笑顔でお店で働いてる姿が映っている。

「ご両親には探偵団側から連絡もいっているし、わたしからもお手紙出してるから。今のベルちゃんの様子を知って嬉しいと思うなー。それに、営業損失が出た分は保証したしお店もちょっと豪華にしてあげたの!」

 呆気に取られて言葉が出なかった。

「これあげる!」

 少女がノートとペンを手渡した。

「わたしの魔法が込められてるの! お母さんと話したくなったら使ってみて。顔が見たければモニターの絵を描けばいいの! 国が違っても関係なし! 通信制限もなし! お金もかからない! えっへん!」

「本当にそんなことできるの?」

「このわたしを疑ってるの? 失礼しちゃーう。試しに何か書いてみてよ!」

 疑う要素しかないんだけどな、と思いつつもノートとペンを使ってみることにした。

〈お母さん、ブルーベルです。元気にしていますか?〉

書いた文字が消えていき、返事らしき文章が浮かび上がった。

〈元気です。そっちはどう? 今永遠の国にいるんでしょう〉

「わっ! お母さんの文字!」

 四角い枠を描いてみた。しかし、何も起こらない。

「あれ? モニターの絵を描いたのに何も映らないよ」

「電源ボタンがないと画面がつけられないでしょ」

呆れたような顔で少女が言ったので、四角い枠の真ん中に丸を描いて押してみた。すると、お母さんの顔がドアップで映った。

「お母さん!」

「え? あら? ブルーベル?」

 驚いた表情で私を見ている。活き活きとしていて、明るくて前向きないつものお母さんだった。無事を確認できてほっとしたのか涙がこぼれた。

「良かった。本当に…… 戻って良かった」

 しばらく夢中になってお母さんと話していた。お店のお花を育てる設備が良くなって飼育が難しい種類も取り扱えるようになったとか、魔法デバイスの供給があってギフトデリバリーの予約と配達がスムーズになったとか、色々と教えてくれた。

「ブルーベル、ごめんね。あなたが提案したギフトのデリバリーサービス、そんなの損をするだけだなんて言ってしまって。あの時はどうかしてたわ」

「いいの。お母さんが元気でいいてくれたら、私はそれでいいからね」

「シャンさんがくれたノートに日記をつけるようになって、それから徐々に元気が出てきたのよ。魔法ってすごいわね。今もそのノートでお話ししているわ」

「そうだったんだ! やっぱりシャンってすごいね!」

「お礼を言っておいてね。レディってシャンさんのお知り合いかしら? きっと探偵団の方よね? ここまでしてもらってお礼を言いたいのだけど、連絡先がわからないのよ」

「レディ? シャンに聞いてみるね」

「お願いね。じゃあ、元気に世界を旅するのよ」

「うん!」

 丸を押すと映像通信が終わった。夢中で話していたから、少女の存在をわすれていた。

「あっ! ごめんね! 夢中になっちゃって……」

 あたりを見回しても誰もいなかった。

「名前ききそびれちゃった」

 水面に映る街並みを見ながら不思議な気分を味わっている。

「なんだかリンくんに似てるな、あの子」

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