時の国編 エピソード4 時の国セントラル・時計台の街
荷物を受け取り、時の国スカイ&ベイポートでマーカスさんとアメリアさん二人と合流した。ここから、時の国での捜査が始まる。
「ここからは専用テレポートキーで時計台の街探偵団の事務所へ向かいます。私がキーを預かってますのでこの魔法陣の中へ、服の裾もはみ出さないように入って下さい」
マーカスさんが出現させた魔法陣の中に服を押さえながら慎重に入る。
「行き先、時計台の街探偵団事務所、ポート開始」
眩い光に包まれた。距離があるのか三人だからかいつもより少し長めに感じた。光が消えると、目の前に複数人の探偵たちがいた。ロイヤルブルーの制服だ。
「長旅お疲れ様でした。時計台の街探偵団事務所へようこそ」
広い!スパイ映画とかでよく見る秘密の場所っぽい趣とハイテクを感じる大きなモニターや通信機がたくさんある。
「イエッサー、シャン・クルーご一行。私は今回のヴィラン事件担当のウィリアム・ウッドと申します。ヴィラン滞在の報告を受け、空、陸共に警備と魔法結界をはっているためそう簡単には移動できないでしょう。ひとまずご安心を。プライベート飛行艇を所持するヴィランとは少々生意気ですが、飛行艇は報告を受けた場所から動いていません。しかし、中にヴィランはいないようで…私としたことが、いつ見逃したのか、しかし、この街にまだ奴が潜んでいるのは確かです。いただいた情報から特定できないか勢力をあげて捜査しています。」
会うなり饒舌に説明をしてくれた。
「ブルーベルは、手下にされている女の子は無事ですか」
「その子は無事です。ヴィランの飛行艇の中で大切に守られているようで、特殊な術にかかっていてこちらも姿が確認できるだけで近づけずに困ってはいます」
「無事なら良かった」
「本格的な捜査は明日からになりますが、警戒はしておきましょう。ヴィランの弱点がまだ掴めていないのでまずはそこを突き止め、早く作戦を練りたいところです」
「詳しくありがとうございます、ウィリアムさん。私はマーカス・アボット、こちらはアメリア・デイビーズです。私マーカスは自分の持ち場へ戻りますが、二人をどうぞよろしくお願いします」
しばしウィリアムさんとマーカスさんの上司っぽい話が続いたのち、部屋に案内された。俺たちは時計台の街探偵団事務所内にある宿泊施設でお世話になるそうだ。
「やっぱり移動すると少々疲れますね。引き続き一緒に頑張りましょう」
アメリアさんの明るい声には不思議と励まされる。
「では、私はこれで。二人の健闘を祈ります」
マーカスさんはそう言ってポートを使って帰っていった。部屋に入りほっと一息つく。
「ひとまず、ブルーベルが無事で良かった」
束の間の安堵をして、今日は眠りにつく。
ある少年の視点___時の国時計台の街、シンボル大きな時計塔の上
今日は新月、あまり好きな夜じゃないけど夜風を感じて見る夜景はやっぱり好きだ。それにしても、真珠の街の探偵くんはやっぱり追いかけて来ちゃったな。三日月だと武が悪そうだったから戦わないであげたのに親切って伝わらないものだなぁ。あの可愛い手下さんに一仕事してもらったら、ちゃんとお家に返してあげないと。
朝、いつもよりは目覚めが良かった。ブルーベルの無事を知れたからかもしれない。支度を整えて捜査室へ向かう。
「おはよう、シャンくん、アメリアくん。紅茶でもいかがです?」
「おはようございます。俺はコーヒーを飲んできたので大丈夫です」
「いいんですか?私いただきます!」
俺は断ってしまったが、アメリアさんは嬉しそうにいただいていた。
「さて、ヴィラン捕獲作戦だが、まずは対象の情報を集めなくては打つ手がない状態です。今どこにいるかも不明なため足取りをつかむために各エリアで聴き込みと張り込みをします」
アメリアさんと俺は観光地でもあるメジャーなエリアを担当することになった。裏路地や地図に乗っていない細かいところは現地の探偵団が担当するそうだ。
「行きましょうか!相棒シャンくん!」
「はい!」
担当エリアに向かう途中でアメリアさんがパン屋を見つけて「張り込みにはこれ!」とあんぱんを俺の分も買ってくれた。国際探偵団に所属するほどなので英才なのだろう。明るくお天馬かと思いきや、経験が浅い俺に色々教えてくれてしっかり先輩をしてくれている。
「探偵たるものエネルギー補充は必須!朝ご飯はしっかりとるべし」
と言いながらあんぱんをほおばっている。
「ハハハッ。アメリア先輩って面白いですね」
思わず笑ってしまった。もっと気が張ると思っていた張り込み調査だがアメリア先輩のおかげで和む。
「シャンくんってちゃんと笑うんだね。良かった」
「え?」
「ブルーベルちゃんが囚われの身になってけっこう堪えてるみたいだったから。頑張れよ、王子様」
「王子様って、俺たちはそんなんじゃないですよ」
たわいのない会話をしていたら、見たことのある少年が俺の前を横切った。ロイヤルブルーの探偵服を着ている。エンブレムが付いてないのでまだ見習いか学生か。
「アメリアさん、この辺って確か探偵学校があるエリアですよね」
「そうだねー。お世話になってる時計台の街探偵団の人たちもその学校出身の人多かったはず。ロイヤルブルーの制服かっこいいよね」
「あの少年、見たことがある」
「おーい、少年、ちょっといい?」
アメリア先輩が俺が言うなり早速話しかけている。チョコレート色の髪に、ルビー色の瞳の綺麗な顔立ちの少年だ。
「お疲れ様です。先輩方。何かご用ですか」
「君は探偵学校の学生でしょ。ロイヤル・ディテクティブ・アカデミー?」
「そうですけど」
「おぉ!将来有望だねー。優秀な子たちが探偵を志してくれてお姉さん嬉しいよー」
「君を碧の国、真珠の街の本屋で見かけた記憶があって話しかけたんだ」
その少年は『パール・ブルー』を出して見せた。
「これを買った時ですね」
ニコッと笑顔で続けた。
「僕、髪色と瞳の色が追ってるヴィランに似ているとかで最近よく探偵団の方に捕まるんです。その上、真珠の街に観光に行ったこともあって踏んだり蹴ったりですよ」
途中少しむくれた表情になって俺を見た。
「実はこれ、学校のホリデー中の課題だったんです。〈キーを手に入れろ〉っていうミッション。嘘じゃないですよ。ほら、学生証」
「ヴィランくんだったら探偵学校に入学できないから疑ってないよー」
アメリア先輩は左目をチカッと光らせ、渡された学生証をチェックして俺に「本物だ」って合図した。少年が首元につけている青い石が気になった。
「その首元の青い石は何だ?」
「あぁ、これは勲章みたいなものですよ。事件に貢献すると授与されるんです。ほら、あの生徒も左胸に付けてるでしょ。貢献内容によって色が違うみたいです。僕はネクタイに付けましたけど」
少年が指差す人物には同じデザインの白色の石が付いていた。
「探偵団の要である時の国特有の風習で、事件に貢献してくれた人たちに宝石をあしらった勲章を授与するって聞いたことある!国際探偵団員としてもお礼を言うよーありがとう」
「足止めして悪かった。君と仕事ができる日を楽しみにしているよ」
その少年は「どうも」と言って学校がある方向へ歩いて行った。
「リンウッド・アオウルって名前だった。暖かい国出身なのかな?」
「苗字がそれっぽいですね。まぁ時の国には色々な国出身の方たちがいますからね」
「探偵学校っていっても流石に学生証は真名だったし、変身魔法を使ったってヒーロー属性になれるなんて聞いたことないもの」
「そうですよね」
俺は少しのなんとも言えない違和感を抱えつつもアメリア先輩の言葉に納得した。
「こんなに聞き込みをしても目撃証言ひとつ得られないなんて…そのヴィラン幽霊かなんかですか」
「ウィリアムさんからも飛行艇内の動きは無いそうで、あったとしても魔法でブルーベルへの食事が出されたとかくらいです」
大きな観覧車がキラキラと輝いて回っている。何百人とここのエリアを通る人々を観察しているがあの少女も女の姿もない。似たような子もいたが、声をかけると別人だった。もう一人の相棒、クロ十五号も上空に旋回させて探させたが収穫はなしだ。
「クゥー…」
クロ十五号が弱々しく鳴いてもうすぐ消滅しそうだと告げる。
「ありがとう。助かったよ」
クロ十五号にお礼を言うと霧のように消えた。魔法の調子が良いと二日くらいは具現化できる。
「おっ変身してる女の子発見!」
アメリア先輩が目を輝かせて言う。目線の先には黒髪の少女が歩いている。
「ちょっといいですか。探偵団の者ですが…」
声を掛けるなり黒髪の少女は走り出した。
「逃すかっ」
アメリア先輩が魔法を放つとロープのようなオレンジ色の光が少女の足をひっかけた。
「痛っ」
オレンジの光のロープはすぐに黒髪の少女の手足を縛った。アメリアさんは《真実の目》を使える珍しい魔法使いでもある。
「あなたの正体あばいてやる!嘘はつかない、正直でいたい欲は人一倍強いのよ!」
アメリア先輩の左目が輝き、黒髪の少女の身体中に呪文となったスペルが浮き出る。
「! ブルーベル!」
黒髪の少女の姿がブロンド色に変わり、その姿はヴィランの手下にされたはずのブルーベルだった。
「あなた何をしろと言われたの?」
アメリア先輩がブルーベルの顔を両手で持ち上げ目を見ながら訊いた。
「私は…ロ、ロイヤル・ディテクティブ・アカデミーの…オープンキャンパスに…行かないと…そこで向上心や正義感が…人一倍強い子を…探してくる」
「あなたに指示をしたヴィランは今どこにいるの?」
「……知らない」
アメリア先輩が魔力を強め、ブルーベルの顔をグッと近づけて見つめる。
「もう一度訊く、あなたに指示をしたヴィランは今どこにいるの?」
「知らない! 私はずっと青い薔薇が咲いた場所に居て、気がついたらここに立ってて、頭の中で声が聞こえたの」
「わかった。とにかく私たちと事務所へ向かいましょう。手足は縛ったままだけど、許してね」
アメリア先輩が時計台の街探偵団事務所にエンブレムで連絡を入れる。その間、上着を羽織らせて怯えているブルーベルをなだめながら肩を寄せる。
「服の裾もはみ出さないように入って下さい」
アメリア先輩の陽気な声と共に魔法陣が展開される。
「行き先、時計台の街探偵団事務所、ポート開始」
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