1章 激動の体育祭編
第8話 体育祭と君とあなたと
「どういうことだ……」
朝起きて、あれは夢ではなかったのか? と、昨日来ていたメッセージをもう一度確認する。
「なんで俺と2人なんだ? あっ、でもそうか。カラメルと祐樹は部活あるもんな。なーんだそういうことか」
まぁそれならおかしい所はない。
けど一つ気になることがある。祐樹が言っていた“あの事”が引っ掛かっていた……
「おはよーっ!」
毎度のごとく、登校するとカラメルが元気よく寄ってくる。
「あぁ、おはよう」
「昨日は楽しかったね! っていうか、あの週末の件なんだけど……あれでよかった?」
と不安そうに聞くカラメル。
「ちゃんと分かった、って返信しただろ。街で買い物とゲーセンと色々食べ物巡りだっけ? 10時に河原町駅集合だろ?」
「う、うん! じゃあよろしく!」
そういって、他の女子のところに向かっていった。
全く、気にしすぎなんだよ、あいつは。
「おはよう、斗真君」
「あぁ、瑞希か。おはよう」
カラメルが去ったタイミングで、今度は瑞希が話しかけてきた。
「私には返信してくれなかったんだ。へぇ~」
と嫌味っぽく言う瑞希。
「うるせぇ。どうしたらいいか分からなかったんだよ。で、どうかしたのか?」
また行きたいところでもあるのだろうか。
「うーん、遊びたいというか……どちらかというと、話したい、かも」
俺はその言葉で祐樹のことだと察した。
瑞希の心の中に何があるのか、知りたい。
「分かった。放課後な」
「うん、よろしく」
安心したような表情を見せる桜葉さん。
やっぱり“あの事”が引っ掛かるな、と思いつつ。
午前中の授業は爆睡している間に終わり、昼休み。今日も4人で集まる。
「ふわぁぁあぁ……よく寝た」
午前中は寝てるだけで終わってしまった。
「斗真、ずっと寝てるよね。ちょっかいしても起きないし」
席は出席番号順なのだが、俺とカラメルは、“あ”と“か”という程よい距離感なので、隣の席だ。
仲が良い奴が近くにいるのはありがたい。授業を真面目に受けてなくて困っても、助けてくれるからな。
「お雨、本当1番前でよく寝れるよな」
祐樹がそう言うが、ちっちっち。これだからまともなイケメン男子は。
「はっ、これだから悪知恵の働かない祐樹君は。いいか、今日は水曜日だ? 午前の3教科の授業は?」
と逆に質問する。
ちなみに俺ら4人は文系なので、授業は全て一緒である。
「えーと、現代文、英語表現、生物基礎だな」
「今日の現代文は、先生がほとんど本文を読むだけ。英語表現と生物基礎も今日はただ先生が喋ってるだけ。よって導きだせる答えは?」
もう、わかるよね? という顔をして改めて質問する。
「寝れる、ってことだ」
「そういう事だ」
ただ、問題演習がある時などは注意だ。いつ当てられるかビビって寝れないからな。
俺はビビりだから、リスクが完全にないときしか寝れない。たまに、猛者みたいなやつもいるが。
「斗真君、ちゃんと授業は受けないとダメだよ」
「あっ、はいすみません」
なんか、瑞希レベルの人に行くと凄いちゃんとしなきゃって思える。まぁ、2日でその気持ちはなくなるんだよ。三日坊主もびっくりの二日坊主である。
「それで午後は体育祭についてか。えーと今年はどんな感じだっけ?」
と、俺はカラメルに質問する。生徒会として手伝っていて、詳しいと思ったからだ。
「まず、2年生はパフォーマンスがあるね。ダンスだったかな」
「うわ、そうだ! マジ最悪」
俺らの学校の体育祭は最初にパフォーマンスがある。
1年生はないが、2年生はフォークダンスのような男女で踊るダンスってのが恒例だ。3年生はクラスごとに自由にパフォーマンスをする。
「そんな事言わなくても私がリードしてあげるから、ね?」
「助かるー! やっぱり異性の友達は最強だわ」
こういう時に異性の友達、って本当に良いと思う。
うっ、小学生の時にキモがられた記憶が……
「……」
瑞希が何か言いたそうな表情でこっちを見ている。
「どうした瑞希? 組む人がいないなら俺が組むよ」
祐樹も気になったようで、これはチャンスだと話しかける。
「あ、ありがとう」
「後、競技は最低1種目ね。大繩跳び、20人21脚、100m走やリレーの陸上部門に玉入れ、後は私たちの生徒会種目があるよー!」
とカラメルが付け加えて説明する。
「去年は生徒会種目何だっけ? パン食い競争だっけ?」
生徒会種目は年々変わる特別な競技だ。
「そうそう! 今年はクラスの代表による生徒会特別レースだよ~!」
「何だ、それ。かなり力入れてるな」
「まぁ、3年生が主に考えるんだけどね。今年の先輩はこういうの好きな人多いし。競技の内容は男女がペアになって色んな障害物を越えていくレースだよ」
「うわ、なんだその地獄みたいなレースは」
カップルとかならいいにしろ、全く絡みのない男女とかだったら地獄だな。まぁ、そういう人は出場しないと思うが。
注目されすぎて、俺は恥ずかしさで全身燃えてしまいそうだが。
「えぇ、面白そうじゃん! 斗真、一緒に出ようよ?」
「俺、死んじゃうよ。クラスでもいくつかカップルいるんだし、そいつらに任せておけよ」
「えぇ、面白そうなのに」
全くこいつは……
「瑞希、どうした?」
また何か言いたそうな瑞希が気になって、話を振る。
「えっ、いやあの、私……運動できるからリレーとか出ないとなって、思ってただけだよ……」
「別にそれは強制じゃないから、どうしても嫌なときは言ってね」
「カラメルさん、ありがとう」
と言いつつ、まだ何か言いたそうな表情をしていた瑞希がとても気になった。
その後、午後のホームルームは予想通り体育祭についてだった。まずは説明が行われた。
そして、その次にメンバー決めで、最後にパフォーマンスについて、という流れだ。
男子と女子に分かれてメンバーを決める。男子は祐樹が、女子はカラメルがまとめていた。
「あっ、リレーは俺出るわ。斗真は、どうするんだ?」
祐樹は、メンバー表に記入しながら俺に聞く。
「俺は玉入れだけって決めてますから。よろしく」
他の男子から、おいおい~! と言う声が上がる。
俺は運動が苦手だから、こんなもんでいい。はい、平常運転。
「まぁ、斗真らしいな。了解」
祐樹は優しいから強要したりはしない。
相変わらず人には恵まれてるな、俺。
その後もメンバ―は順調に決まっていき、残す競技は生徒会種目だけとなった。
「誰か出たい人とかいるか?」
祐樹が男子全体に聞く。
「うーん、彼女はいるけどなかなか出るっていったらね」
「ちょっと恥ずかしいかなぁ」
「くじ引きでいいんじゃね? 恨みっこなしで」
などと声が上がり、くじ引きでいいかというムードが流れ始める。
まぁ、確率は低いし、誰も自分のところに来るとは思ってないだろう。
大丈夫大丈夫。
「あ、あ、あの俺です……」
はい、フラグ建ててすみませんでした。ごめんなさい。こういう時に引き当てるのが俺なんです。
「斗真、大丈夫か? もしどうしても無理だったら変わってもいいぞ」
祐樹は優しいので気にかけてくれる。
「いや、くじ引きで決まったし……なんか変わっても色々言われそうだし」
なんか変われない雰囲気だし、最悪、瑞希かカラメルなら大丈夫だし……と思っていると、
「すると、男子は決まった? ちょっと、女子は時間かかっちゃって」
女子代表のカラメルが寄ってきた。
「そっちの生徒会種目って、斗真なの!? じゃあ私が出てあげようかな~」
ああ、助かる、と言いかけた時だった。
「私が出るよ」
そういって、手を挙げたのはカラメルでも瑞希でもなく――
「えっ、久遠さん? いい、の?」
カラメルも動揺するのも無理はない。
「うん、いいよ。安佐川君とも面識あるし、なかなか目立つの嫌な人もいるでしょ」
カラメルみたいに少しサバサバしているようなショートカットの女子で、男子からの人気はまあまあ、といったところか。
「えっ、でも本当に?」
カラメルはまだ動揺している。というか俺もこの状況が分からず、動揺しているにだが。
「いいよいいよ気にしないで。安佐川君もいいでしょ?」
「い、いいけど」
別に断る理由もないので、押される形で了承のの返事をしてしまった。
「じゃあ決まりで。よろしく~」
また新たな問題というか、変化が起きた。
久遠さんは、いったい……
日常はどんどんと、俺たちを気にせずに変化していく――
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