第7話 歓迎会
「なぁ、斗真。ちょっといいか」
午後の授業も終わり、掃除の時間に俺は祐樹に呼び止められた。
「どした? 部活サボるのがやっぱり怖いのか?」
今日はこの後。放課後に桜葉さん、じゃなかった……えーと、み、瑞希の歓迎会を行う予定だ。カラメルと祐樹も、部活をサボる予定だ。
「いや、それは全く問題ないんだけど」
そこは逆に罪悪感を持てよ。
「斗真って、瑞希のことが好きだったりする、か?」
しれっと自然に名前呼びになってるし。卑怯だぞ、俺なんかまだ慣れてないってのに。イケメンかよ。
「俺なんかには高嶺の花だから考えることもなかったわ」
「お前のそれ、やめた方がいいぞ」
祐樹は、いつもネガティブな俺に対して、こんな感じに注意する。
だってしょうがないじゃん……
改めて俺は、
「で、本題は何だ?」
と質問する。
「実は俺、1年の頃からさ、ずっと瑞希が好きだったんだ。でもチャンスはないと思ってた」
人と関わらないことで諦める男子も多かった。
「けど、お前たちのおかげでビッグチャンスが来た。だからさ、よければ手伝ってくれないか?」
祐樹にとっては超絶大チャンスが急にきた、ってわけだ。
友達になれて、名前で呼ぶ距離感になれて。
こんな最高なことはないだろう。
「要するにお前と、み、瑞希をくっつければいいんだな? まぁ、一応助けるけど期待はすんなよ」
確かに2人ならお似合いだし、友達の恋を応援したいってのもちろんある。
俺に出来ることは少ないかもしれないが、協力はしたい。
「本当か! 流石親友だぜ。でも、本当にいいのか?」
「気にすんな。友達同士が結ばれるのはいいことだ」
そもそも“彼女”という存在を諦めている俺にとっては関係ない。
「そうか! じゃ、これからよろしくな! あっ、お前早く呼ぶの慣れた方がいいぞ、恥ずかしがってると余計変だから」
誰しもがお前みたいだと思うなよ。俺は一回羞恥心を捨てないといけないんだから。
こうして俺は祐樹の秘密を知り、助けることも約束した。
後は、上手くいくことを願うだけだ。
「それでは、斗真軍の新メンバー加入ということで、かんぱーいっ!」
「おい、カラメル。なんで俺がリーダーなんだよ」
放課後、俺たちは学校の近くの焼き肉屋に来ていた。夕食を兼ねての歓迎会だ。
ちなみに席は、俺とカラメル、祐樹と瑞希がそれぞれ座っている。瑞希とカラメルが、怪しそうにしていたけど何とか押し通した。
そこら辺は、ちゃんとやる男なんで、私。
まぁ仮に付き合えた時は、なんか奢ってもらうけど。
「私、こういうのも初めて。皆、ありがとう」
「瑞希がそんな気にしなくてもいいーって! さぁ、食べ放題だから注文しよ!」
「じゃ皆注文したいの俺に言ってくれ、まとめて注文するから」
「流石仕事ができるね、祐樹」
こういう時に引っ張ってくれるカラメルと祐樹は本当に頼もしい。
「斗真君、こういうのって、何注文したらいいの?」
と、瑞希が聞いてくる。ちなみに羞恥心は無事捨てれました、おめでとう。
「俺はとりあえずタン塩かなぁ。最初はこれだろ。カルビとか胃もたれするからな」
「お前は何歳だよ」
はっ、これだから女しか見てない祐樹はダメなんだよ。
タン塩イズ最強。タン塩イズパーフェクト。
「あとは適当に野菜とかご飯とかも色々注文しておこうよ」
カラメルさんよくわかってるぅ!
「うわ、そうだこいつら野菜とかご飯食べる派閥なんだった」
はっ、これだから食べ盛りの高校生男子の祐樹はダメなんだよ。
サブがいてこそのメインなんですわ。
「流石っす、カラメルの姉貴」
「おうよ」
俺とカラメルは良く好みが合う。
「瑞希、は分からないだろうし、後はカルビとかハラミとかを適当に注文して、よし、これでいいな。注文っと」
と、祐樹がまとめて注文し、
「とりあえず男2人でドリンク取ってくるよ、何がいい?」
と面倒くさい提案をしてきた。
「うわっ、祐樹それジェンダー差別だぞ」
だから差別がなくらないんだ! 男だけに仕事を任せるな! ふん!
「私はオレンジジュースが良い! 瑞希は?」
「私は烏龍茶でいいよ、ありがとう」
「なんで俺まで……」
結局、駆り出されちまった。サラリーマンの気持ちがよくわかるなぁ。
「まぁ、いいじゃないか。これだと2人で話せるし」
「とりあえず、席は隣にしといたから自由にやれよな。もう、あとは任せるわ」
「了解」
と、少し席に戻る。ちなみに、俺はオレンジジュース、祐樹はコーラだ。
俺は炭酸飲料は飲めないし、お茶もなんか損した気分になるので、いつもオレンジジュースを飲む。やっぱり好みは、カラメルと同じだ。
「さぁ、焼きますか! 鍋奉行もいないし、適当にやっちゃうね」
「流石振り分け大臣、頼りになります」
カラメルは、こうして肉を焼いて上手く振り分けてくれるので、振り分け大臣という異名を持っている。
それからは食べながら、くだらない雑談をしたり、談笑したりした。
「もうすぐ体育祭だねぇ」
カラメルが思い出したように話し出す。
「明日はホームルームあるし、そこで色々決めるのかね。楽で助かるわ」
ただの静かでアクティブじゃない俺にとってあの時間は楽すぎる。
勉強しないで授業終わるの最高ですわ。
「私は色々、引っ張る役だから大変だ」
「俺もだわ」
祐樹とカラメルは、俗にいう”一軍”だし運動もできるので引っ張る役割で大変だろう。
ちなみに俺は、この前に金魚の糞と言われてることを知り、傷ついたのは皆に内緒にしておこう。
「はいはいはい、お疲れさん、お疲れさん」
これが上手い生き方なんですわ、と煽るように言う。
「「うっざ」」
「私は初めて楽しそうになりそうで、楽しみ。斗真君もそういわずに頑張ろ?」
「えっ、まぁそうだな……今年は頑張ってみる、か」
そこでそれは卑怯だよ、お嬢様。
それからは、
「タン塩が肉の中で最強なんだわ、マジで」
「でも牛の舌だぞ?」
「はい出たそういう奴! だから祐樹はダメなんですぅ!食べ物は味重要なんですぅ。そこのところ分かってないねぇえぇぇえ!」
「じゃあ、虫は? 最近、話題になってるけど」
「あれは、食べ物ではありません」
っていう話だったり、
「それで、斗真君が無視したんですよ
「ひどくね!? おい、最低かよ、斗真」
「仕方なかったんだよ! てか瑞希も、話してんじゃねぇ!」
などと、くだらない話をした。
歓迎会も終盤。そろそろ終わりの時間だ。
「あぁ、食べた食べた。最後何頼む?」
カラメルが、シメは何にしますかと聞いてくる。
「そりゃあ、アイス一択でしょうよ」
「だよねぇ、斗真!」
ここでも一緒な俺とカラメルは、前世は家族だったのかもしれない。
「俺はお茶漬けかな」
という祐樹。
「いや、お前も米食べるんかい」
「それはノーカンだろ」
何がだよ。八、これだからすぐ意見がブレる若者の祐樹君は……
「瑞希はなんにするっー?」
ほら、話を振るカラメルさんを見習いましょう。
「じゃ、じゃあ私もアイスで」
「了解ー! あっ、注文しといて。ちょっと、トイレ行ってくるね」
「あっ、私も」
と女子2人がトイレに行き、男2人に。
「それで、どうだ?」
進捗はどうだ、と問いかける。
「やっぱりかわいいわ」
いや、感想かい!
それって、あなたの感想だけですよね?
「それだけかい。まぁでも、4人だしな。そんな話せなかったか?」
「そうなんだよなぁ。何とか2人で話したいんだけど」
「じゃあ、俺がカラメルと2人で話しているから、その時にでも何か誘えば? それに帰りの時でも話すときはありそうだし」
「ナイスアイディアだわ、助かる。何とか頑張るわ」
と作戦が決定したところで、ちょうど女子2人が帰ってきた。
「お待たせ! あ、アイスもう来てるね」
「ところでさ、カラメル」
あ、これは2人の話、と言いつつ声を少し小さくして、カラメルに話しかける。
感謝しろよ、チャンスは作ったぞ?
「うん?」
「そういや2人で遊ぶ話どうなった?」
「覚えてたの!? てか本当にいいの?」
いやお前行く気なかったんかい! しまったな、こっちが話題選びをミスってしまった。
「お前が誘ったんだろうが。まぁ、その気がないならいいんだけど」
「いやいやいや! そんなことないよ。ただ、結局断れるというか、無理なんだろうなって」
なんでだよ。むしろ断れるとしたら俺の方だろ。
「まぁ、お前とは仲良いし、本当によかったらだけど」
「全然だよ! えーと今週末でもいい?」
「了解。また詳細はメッセージ送ってくれ」
「うん、了解」
と、話し終わって祐樹の方を向いてみると、祐樹は小さくガッツポーズをしていた。どうやら、成功したみたいだ。
「今日は楽しかったね! またこういうのもしようね」
「カラメルの言う通りだな。俺と、カラメルは電車だから。祐樹と瑞希はまた明日な」
こうして楽しい歓迎会は終了した。
帰り道もビッグチャンスだし、祐樹ならきっと上手くいったはずだ。
ただどうしても気になった俺は、帰った後に即連絡した。
しょうがないじゃないか! 人のプライバシーは気になるんだよ!
通話にて。
「おう、斗真どした?」
「上手くいったか?」
「おうよ! 誘えたぜ!」
「お、やっぱり上手く行ってたか。やるな」
「そういうお前こそだろ。なんかそっちこそ、カラメルと良い感じじゃねぇか」
「あいつとは、そんなんじゃねぇって。で、どうやって誘ったんだ?」
「俺たちも2人で遊んで、親睦を深めましょう的な」
「レクリエーションか」
「うるせぇやい。でも告白はまだ早いから、仲良くなってからだしな」
「まぁ、それはそうだな。でもな。懸念点というか、不安な点があるんだ」
「懸念点?」
「帰りの時を考えて、斗真とカラメルが話している時に後で話がある、と伝えたんだ」
「まるで告白するみたいだな」
「まぁ、でもそう言うしかなかったからな。でも、瑞希は少し暗い顔をしたのが気になって」
「暗い顔?」
「遊びに誘ったときは明るい感じで安心したけど……」
「まぁ、上手くいってるなら何よりだ。じゃあな」
こうして祐樹との通話を終えた。
暗い顔、というのが引っ掛かった。やっぱり少し男にトラウマでもあるのだろうか。まぁモテるし、ない話ではない。
さぁ、寝るかと思ったときに携帯の通知がまた鳴った。
「何だ、また祐樹か?」
そこには2つのメッセージが。
一つはカラメルの遊びに行くことのメッセージ。
そうしてもう一つは――
「斗真君、明日2人で遊びませんか?」
瑞希からのメッセージだった
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