第6話 変わっていく日常
「その音で俺の幸せの時を止るんじゃねぇ!」
いつものやかましく鳴る目覚まし時計を止め、今日もなんとか身体を起こす。
朝は本当に怠い。
今日も何一つ変わったことはない。着替えて、朝飯食って、ニュース見て。
あ、かに座最下位じゃねぇか。最悪だ。
そして家族に行ってきます、と言って外を出る。
ちなみに俺のお母さんは専業主婦、父さんは公務員だ。桜葉さんの家庭とは違って普通の家族です、はい。
その後、いつも通り電車に乗り、高畑駅で降りる。
そこから少し歩いて学校につき、教室に向かう。
教室に入ると、祐樹とカラメルが近寄ってきて。
ほら、いつも通りの――
「おはよう、安佐川君。あっ、唐沢さんも」
いつものロングヘアーでなく、長い髪を結んでいて、ポニーテールの1人の女の子は、俺たちに笑顔で挨拶をした。
あれ? なんかおかしくね? いつもの日常と違うな?
「ちょちょちょっと、出ようかなぁ!? あっ、祐樹には説明するから」
と俺は、とりあえずカラメルと桜葉さんを連れ出す。
「あのなぁ、急に話しかけてきたら不自然だろうが! そこはな、ちゃんと順序ってもんがあってだな」
何もいきなり話しかけてくる奴がいるか。
クラスが凄い雰囲気になったじゃねぇか。
「でも変わった方がいいって言ったのは斗真じゃん」
いや、あのそれは正論なんですけど、カラメルさん。
「いや、まぁそうなんだけど。なんか視線が痛いというか、怖いというか」
「はぁ、しょうがないなぁ。斗真は私がいないとダメなんだから」
「おっ、流石カラメル」
いつも本当にお世話になっております。
こうしてカラメルが上手く誤魔化してくれたおかげで、少しざわざわとしていたクラスの雰囲気が落ち着いた。俺とカラメルが話していることは、周知の事実だし、カラメルと桜葉さんなら何もおかしくない。
ただ変わった桜葉さんに戸惑っている人も結構多い、といった感じだ。
幸い、午前中はテストなので助かった。
ただ、テストは集中できなくて散々だったのは言うまでもない。
え? 勉強不足? そこ黙ってなさい。言っていいことと悪いことがあるぞ。
昼休み。何とか質問攻めにあう桜葉さんを連れ出し、祐樹とカラメルと4人で食べることに。適当に空いてた空き教室に避難した。
「どこでも人が寄ってくるな。まるで人が虫のようだ」
「斗真、ふざけない」
あっ、はいすみません……
と、カラメルに説教されて、落ち着いたところで
「それで改めてこれはどういう状況なんだ?」
と祐樹が話を切り出した。
「実はまぁ色々あってな。偶然桜葉さんと仲良くなってさ。タイミング的にもイメチェンというか」
とざっくり説明する。色々都合もあるしな。
「まぁ、また詳しいことが気になったら斗真を詰めるといいよ」
「お前、2時間も詰めやがって」
昨日の夜にカラメルに2時間みっちり詰められた。
それはもう、取り調べというかもはや恐喝だったのでは?
「その代わりに私とデートできるからいいでしょ」
それは、俺を雑用係にするだけじゃないのかね?
「えと、とりあえずよろしくお願いします」
「あっ出た、桜葉さんの雰囲気変わる奴」
桜葉さんは、まだ俺たちのことを気にしているのだろうか?
ついツッコんでしまった。
「斗真、ツッコミたくなるのは分かるけど、それは嫌われるよ」
「あっ、はいすみません」
カラメルは再び俺に注意をして、桜葉さんに
「桜葉さんも好きなように絡んでくれたらいいから! とりあえず瑞希って呼んでいい? 私は、カラメルって呼んでね」
と笑顔で優しく喋りかけた。
「あっはい……わかりました」
桜葉さんは、カラメルのあまりの距離の詰め方に少し驚く。
いや、その気持ちはよくわかるぞ。祐樹は最初から意気投合していたから化け物かと思ったけどな。
住む世界が違いましたよ。
「もう、何でそんな急に冷たくなるの」
カラメルが不思議そうに言うので、
「お前がガツガツしてるのが問題じゃないのか?」
と、俺が思ってることを言うと
「おい、今なんて言った?」
いや、冗談じゃないですかぁ、やだぁ。
そんな怖い目でこっち見ないでぇ。
「誠に申し訳ありません。どうかお許しくださいませ」
やっぱこいつ、天使じゃなくて悪魔だわ。
カラメルとの絡みの後、桜葉さんに
「とりあえずまだ慣れないんだろうけど、すぐ慣れるよ。祐樹とカラメルもいい奴だから仲良くしてやってくれ」
改めて紹介と、フォローを入れておいた。
「ありがと、安佐川君」
ホッと安心したかのようにクスッと笑う桜葉さん。
「あれ? なんか雰囲気違くない? 祐樹、これどういうこと? 」
「なんか似てるからな、あの2人」
「言われてみれば確かに」
「そこ、話しているの聴こえてるぞ」
俺と桜葉さんは、人生が楽しめないという共通項を持っていって、ある意味似ていた。
けど、桜葉さんはどんどん新しい世界を知って、人生を楽しんでいくのだろう。
そうしたら、俺はどうなるのかな……
「じゃあ、改めまして歓迎会でもどう? どうでございます? どうでござんしょう?」
カラメルは本当こういうの好きだよな。まっ、あいつらしい。
「カラメルさんやい。丁寧に話そうと意識しすぎて訳分からなくなってるぞ」
「ふふっ。やっぱり2人の絡みは面白いね」
「あっ、瑞希が私でも笑った!」
「そんな悲しいセリフある?」
なんだ、その子供に全然好かれなかった親戚の人みたいなセリフは。
「いや、ごめん、つい。やり取りが面白くて」
「桜葉さん、そんな面白かった?」
俺はつい、うれしくてテンションが上がってしまう。
「お前ら2人がお笑い好きなのが原因なんだよ」
祐樹が言うように俺らはお笑いが好きだ。
だから相手と話すときは、なぜかコメディアン魂が出てきてしまう。
「それを言うなら祐樹もだろ」
むしろお笑いが嫌いな人はいないだろ? と返すが、
「テレビにネット番組、動画サイトまで駆使してる奴らに言われたくねぇよ」
「な、なに! それが普通ではないのか!」
なんてこった、最近の子はそんなにお笑いを観ないらしい。
これがジェネレーションギャップってやつか? あ、同い年だったわ。
「カラメルさんも安佐川君も本当に面白い。楽しいよ、私」
その言葉は俺に向けて、もう大丈夫、と伝えているような気がして、凄く楽しんでるように見える。
そうだ、君は“そっち側”の人間だ。
「もう、さん付けいらないのに」
相変わらずカラメルは不満そうだったので、
「だから好きにさせてやれよ」
と言うと、
「斗真は保護者なの? でもなんか名前とか呼ぶのって好きなんだよねぇ。距離感近い気がするから」
確かに言われてみれば、保護者目線だったなぁ。あれ? キモくね?
「まぁ、でも最初から名前で呼んできた奴が良く言うよ」
「斗真の言う通りだ」
やっぱり分かってくれる同性の友達が最強だわ。祐樹、マジ親友。いぇい。
すると、桜葉さんは悩みながら
「うーん、でもその方がいい、のかな? えーと、祐樹君に斗真君?」
と爆弾発言。
「「グハァッ!」」
俺と祐樹はあまりの可愛さにやられてしまう。
「あっ、どうしよう!2人が倒れちゃった……」
「すぐ起きるから心配しなくていいよ、瑞希」
「はっ、ここはどこ? ユートピア?」
あれ? 俺、意識失ってた?
「天国では?」
祐樹も倒れてたようで目を覚ます。
「ちょーいちょいちょい。私との差酷くない?」
怖いっ、怖い! 笑顔で詰めてこないで!
「まぁ、それはキャラとかもあるしな! なっ、斗真!」
いや、キラーパスするなよ祐樹。マブダチ解消な。
「別にお前のことが可愛くないなんて一言も言ってないだろ。気にしすぎなんだよ、お前は」
「ふーん? なら私は可愛いってこと?」
「いや、そりゃまぁ人気はあるし、可愛いと思うぞ」
「!?」
あれ? カラメルが動かなくなったぞ?
「あーあ、斗真。カラメルがショートしちゃった。お前、すぐ言うからなぁ、そういうこと。羞恥心はねぇの?」
「いや、それはめっちゃあるけど、分かり切ってることだしさ。俺が言っても別に何も得するわけじゃないし」
祐樹の言う通り、羞恥心が全くないわけではない。
だけど俺なんかに言われても嬉しくないだろうし、事実を述べてるだけだから別に大丈夫と思うのだが。
「これだからなぁ、うちの斗真は。同じ男としても、びっくりしちゃうよ。桜葉さんもそう思うでしょ?」
「えっ、ま、まぁそうですね。えっち、です」
「なんでだよ!」
皆言い過ぎじゃない?
昼食を食べ、教室に帰ってる最中にケロッと戻ったカラメルが、
「てか相変わらず男2人は桜葉さん呼びなんだ」
いや今言うか、それ。
「いきなり名前呼びは男にはきついんだよ」
ハードルってもんがあってだね、カラメルさんよ。
そもそもお前を呼ぶのに慣れるのも半年かかったんだぞ。
「そうなの、斗真君?」
や、やめろ! そんな悲しそうな目でみるな!
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……み、瑞希」
はぁ、言えた……俺は、やればできる子なんだ……
「よろしくね、瑞希さん」
「あっ、ずるいぞ祐樹! てめぇ!」
さん付けは卑怯だろ! この裏切り者が!
こうして永遠にこの時間が続けばいいのに、と思う。
けど日常なんか目まぐるしく変わる。
一日一日頑張って生きていくしかないのだ。
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