第15話 はじめての外食
引っ越しを終え、スラムのねぐらから持ってきた荷物を整理していると、時刻はお昼時を過ぎ、夕暮れちょっと前、そんな頃合いになりました。
「お引っ越しも終わったし、ちょっと早いけど、ご飯を食べませんか?」
おにぃ「そうだな。今日は色々あったから、いつもより腹減ったかも」
「今日はスラムからの脱出記念に、特別に、奮発しちゃおうよ!」
ねぇね「賛成~!」
おにぃ「お~!」
「それじゃあ、ハンターギルドの食堂で、お食事してみませんか?」
ねぇね「え? 食堂でお食事? 私たち、食事させてもらえるの?」
おにぃ「大丈夫だろ。なんたってオレたち、ギルド会員になったんだぜ!」
「そうです。きっと大丈夫です。」
「それに、お金は余裕があるでしょ?」
おにぃ「えぇ~っと、今数えるから、ちょっと待ってくれ・・・」
おにぃ「えっと、小金貨1枚と小銀貨6枚と大銅貨1枚と銅貨7枚あるぜ」
(う~んと、合計で10617リルかな?)
「それだけあれば、きっと余裕だよね?」
「今日はお祝いに、ぱぁ~っと、いきましょう!」
ねぇね「そ、それもそうね。それじゃあ、食堂に行きましょうか」
ということで、本日2回目のハンターギルド。
でも向かう先は、入って右手奥のバーカウンターみたいな方です。
時間がまだ夕方前ということもあるのか、その食事処的な場所の近辺には、お客さんは誰もいませんでした。
(ハンターギルド内全体でも、この時間、ほとんど人がいませんね)
そんなことを思いながら3人でバーカウンターに近づいていくと、クロっぽいエプロンをかけた、顔にナナメに大きな傷をつけた強面の男性が声をかけてきました。
強面「よう、坊主ども。見かけない顔だな。新人か?」
おにぃ「はい。今日、登録したんです」
そう言って、首にかけた登録証を強面の男性に見せるおにぃ。
ねぇねとワタシも同じように登録証を見せます。
強面「登録ほやほやかぁ、頑張れよ。新人は歓迎するぜ」
ねぇね「あ、ありがとうございます」
強面「それで? なにか注文するのか?」
おにぃ「はい。登録の記念に、なにか食べたいと思ってきました」
強面「そうかそうか。それじゃ、これがメニューだ」
そう言った強面さんからメニューを受け取ったおにぃですが、あまり字が読めないおにぃはそれをねぇねにスルーパス。
メニューを受け取ったねぇねは、
ねぇね「う~ん、よくわからない」
という結論になりました。
そこでワタシが、
「あの、マスターさんでいいですか?」
強面「ん? ああ、みんなにはそう呼ばれている」
「それではマスターさん、おすすめとか、ありますか?」
マスター「おすすめか? 日替わりメニューがおすすめだが」
マスター「ちなみに、今日の日替わりは、ボアステーキセットだ」
「おいくらですか?」
ねぇね「日替わりは5リルって、メニューに書いてあるわ」
マスター「そうだ。日替わりは5リルだな」
「ねぇねとおにぃ、日替わりでいい?」
おにぃ「ああ、いいぜ」
ねぇね「私も」
「それじゃあマスターさん、日替わりを3つ、お願いします」
マスター「ん? おチビも一人前食べるつもりか? かなり量が多いぞ?」
マスター「というより、お前ら3人なら、2人前で充分だと思うぞ?」
「2人前の注文でもいいんですか?」
マスター「ああ。残されるよりよっぽどましだ」
「それじゃあ、日替わり2人前でお願いします」
マスター「それじゃ、10リルもらうぞ。料金前払いだ」
おにぃ「これで、お願いします」
ねぇね「します」
こんな感じで初めての外食の注文を終えたワタシたち3人。
カウンター近くのテーブル席に腰を下ろしてお食事が運ばれてくるのを待ちます。
(マスターさん、見た目と違ってとっても親切ですね~)
(3人いるのに2人前の注文でいいだなんて)
(普通、利益にならないようなこと言わないよね)
そんなことを考えていた矢先、
マスター「お待ちどうさん」
早速、マスターさんがお料理を運んできてくれました。
(早っ。お料理メッチャ早っ)
ちゃんと3人分のお皿に分けられているお料理は、ステーキっぽいモノをメインに、サラダとスープ、そして見慣れた硬い黒パンがひとり2個付いていました。
(これで2人前? 物凄く量が多いんですけど・・・)
そんな感想を抱いているワタシをよそに、ねぇねとおにぃは既にガッツキ始めていました。
おにぃ「むぐむぐもぐもぐ」
ねぇね「もぐもぐはぐはぐ」
ワタシも負けじと食べ始めます。
(いただきます!)
「あ~ん。もぐもぐもぐもぐ・・・」
(ん~! おいしぃ~)
(お肉の脂が・・・、旨味が・・・)
はじめて食べるステーキの味に、言葉では表現できない喜びを感じます。
硬いパンもスープに浸してやれば旨味を吸って柔らかくなり、なんとも幸せの味になります。
しばらく無言で食べ進めるワタシたち3人。
ねぇねもおにぃも、そしてワタシの目からも、自然と涙が零れ落ちていました。
そんなガツガツとした上品さの欠片もないその食事風景は、少し離れたカウンターに戻った強面のマスターに見守られながら、しばらく続くのでした。
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