第10話 正面から堂々と


ねぇね「こんにちは~」


おにぃ「買取お願いしま~す」



今日は朝から例の親切な町のお店にはちみつを売りに来ました。


しかも、お店の正面から堂々と入店してです。


(なんだか、やっと人間らしくなった気がするよ)


そんなことを思いながら、店内を見渡します。


小皿やカトラリーといった小物類、根菜や小麦といった主食類、いろいろなモノが雑然と並べられています。


カウンター奥の棚には、小さな壺類がこちらは整然と並べられており、きっと高級品なんだろうと想像できる扱いの違いでした。


(あの壺の中身はお塩とか? 香辛料とか? 蜜もあの中にあるのかな?)


そんなことを思っていると、いつものふくよかな女性と、こちらもふくよかな男性が現れました。


女性「あら、いらっしゃい」


ねぇね「こんにちは」


おにぃ「今日も蜜を持ってきました」


女性「昨日の今日で、また採れたのかい?」


おにぃ「採れたというか――」


「わぁ~、そうです! 毎日採りに行っているのです!」


おにぃが余計なことを口走りそうでしたので、慌てて会話を遮るワタシ


(危ない危ない。おにぃにワタシのスキルのこと、ちゃんと口止めしとかなきゃだった!)


そんなことを考えていると、


男性「ん? この子らか? 最近蜜を持ってくるスラムの子供ってのは」


女性「そうなの。でもスラムっぽくないでしょ?」


男性「あぁ。身ぎれいにしているようだね」


ワタシが男性をじっと見つめていると、その視線に気づいたのか、ちょっと屈んでワタシに話しかけてくれる男性。


男性「私はこの店の店主でジョシュア。隣は妻のジェーンだ」

ジョシュア「君達が持ってくる蜜はとても良いモノだったので気になっていたんだよ」

ジョシュア「利益をもたらしてくれるお客さんは大歓迎だよ」


そう言って、ワタシに笑いかけてくれました。


(ワタシたちがスラム出身と知っていてこの対応、この人はイイ人みたいですね)

(それじゃあ、こちらも、それに見合った対応をさせていただきましょう)


ということで、おにぃにサインを送るワタシ


ワタシのサインを見たおにぃがおもむろに取り出したのは、



【はちみつ ブレンディッド 1200g】


のビン。


中身は2回の買い取りで200gほど減っていますが。


約1000gのはちみつを、透明なガラスビンごと買い取りに出してしまおうということです。



これは、朝、スラムのねぐらで3人で話し合ったのです。


「お店の正面から入って、あからさまに対応が悪ければ、そのまま何も売らずに帰りましょう」

「逆に、とても対応が良ければ、残りのはちみつ、ビンごと全部売っちゃいましょう」


ねぇね「え? ビンごと? このビン、とっても珍しいと思うよ?」


おにぃ「そんなことして大丈夫か? 危なくないか?」


「だから、お店の人の対応次第なのです」

「大丈夫と思えるほど対応が良ければ、ビンごと売る」

「対応が悪ければ、その場では売らずに、また今まで通り、裏口に戻るだけです」


おにぃ「それなら、問題ないな」


ねぇね「そうね」



こんな会話を朝、しておいたのです。




ジョシュア「こっこれは、もしかして、ガラスビン、なのか?」


「そうです。その中に、今まで売りに持ってきていた蜜が入っています」


ジョシュア「こっこれを、全部売ってくれるのか?」


「はいです。おいくらで買い取ってくれますか?」


ジョシュア「ちょっちょっと時間が欲しい。コレをもう少し調べさせくれ」


「もちろんです。お気がすむまでどうぞ」


そんな感じでビンを調べ始めた店主のジョシュアさん。


女将さんのジェーンさんもビックリ顔です。


ジェーン「あんたたち、凄いモノ持ち込んできたね~」

ジェーン「こう言っちゃアレだけど、盗品とかじゃないだろうね?」


「それは神に誓って」


ねぇね「私も誓います」


おにぃ「それはおチビが――」


「わぁ~、商売のネタは明かせないのです!」


またも余計なことを言いそうになったおにぃを遮るワタシ


ジェーン「そりゃそうだね。盗品なら、こんなに堂々と売りに来やしないだろうし」

ジェーン「そもそもこんな透明なガラス、ここいらじゃ見たことないもんね」

ジェーン「疑ったりして悪かったね」


そんな会話をしていると、


ジョシュア「待たせてすまなかったね。とりあえず――」


ということでお値段の説明がありました。


中身のはちみつは、今まで通りの買い取り率で、1g2リル。


1001gだったので、2002リルになりました。


そしてビンの方は、


ジョシュア「こんな透明で、表面が滑らかなガラスは見たことがないよ」

ジョシュア「しかも、ピッタリと閉まる金属製の蓋までついてるなんて」

ジョシュア「本来ならもっと凄い金額がついてもおかしくはないだろうけど、うちの店ではこれが精一杯だ」


ということで、買取のお値段は、10000リルを提示されました。


1万リル、元の世界では1万ドルぐらい? 約120~140万円ぐらいの価値がありそうです。


(うひょ~、ただのガラスビンに凄い金額ですね~)


もちろんワタシたちに否はありません


おにぃ「そ、それでお願いしまっす」


ねぇね「お願いします」


買取の合計金額は12002リル。


小金貨1枚と大銀貨2枚と銅貨2枚を受け取ったワタシたち3人


手持ちの合計金額は12120リル。


小金貨1枚と大銀貨2枚、小銀貨1枚と大銅貨1枚と銅貨10枚が手持ちの全財産です。





注釈:

大金貨 100000リル

小金貨 10000リル

大銀貨 1000リル

小銀貨 100リル

大銅貨 10リル

銅貨 1リル



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る