【第一部】第三十五章 “縁結び”

――神盟旅団しんめいりょだん本部――


 団長に連れられ、神楽カグラ稲姫いなひめ琥珀コハクは本部内敷地しきちを移動する。向かう先は離れたところにある<おどう>だった。


「これはこれは団長殿。此度こたびはどの様なご用向きですかな?」


 お堂に近づくと神主かんぬしさんから声をかけられた。


「うむ。急に来てすまない。この神楽と稲姫殿の“えにしむすび”をお願いできるか?」


 名を呼ばれ、神楽と稲姫が前に出る。


「おお! それはおめでたいことでございます。――では、神楽殿、稲姫殿。こちらに……」


 神主に案内され、お堂の中に入る。団長と琥珀も入ってきた。



「わぁ……」


 お堂の中には、ある人間の男と、稲姫の様に人化した神獣の女性が手を取り合い、微笑ほほえみながら見つめ合う像がまつられていた。それを初めて見る稲姫からしても“人と神の絆”を思わせる素晴らしいつくりだった。


「この像は、我らが一族の祖先と、縁を結ばれたお方をかたどったものでございます」


 そう言いつつ神主は、儀式ぎしきの準備を進める。


「お二人とも、この輪の中に入り、手をつないでください」

 

 像が祀られた場所の前には、円形になわかれていた。その中に神楽と稲姫が入り、対面でお互いに手を繋ぐ。


 それを見届けると神主は、そばに置いていた麻袋あさぶくろの口を開き、中に入っている灰色の粉を輪の外にまいていった。


 団長と琥珀は少し離れたところで見守っていた。神主は灰色の粉をまきおえると、大麻おおぬさを振りながら祝詞のりととなえ始める。――神楽と稲姫は目をつむった。



「――――――」


 神楽と稲姫には祝詞の言葉までは理解できなかったが、祝詞が進むにつれ、二人を取り囲むようにまかれた粉が光を放つ。


綺麗きれい……」

「ほう……」


 琥珀が、そして団長が、思わずといったように感嘆から言葉をもらす。


 それに気付き、神楽と稲姫が目を開けると――


 黄金こがね色に輝く粉が舞い上がり、辺りをキラキラと照らしていた。

 


「――――はっ!」


 神主は祝詞を唱え終えると、大麻を大きく振りぬく。すると――


 黄金色の光が一際ひときわ強く輝き、霧散むさんした。


「お見事でございました。これほど見事な“えにし”を見るのは、私も初めてですよ」

「これは嫉妬しっとしちゃうにゃぁ」

「うむ、見事だ。まさか、これ程とはな……」

 

 神主が、琥珀が、団長が、三者三様さんしゃさんように神楽と稲姫をたたえながら近づいてくる。


 稲姫のしっぽがご機嫌きげんれている。


「わっちと神楽なら当然でありんす!」

「はは……」



――腰に手を当ててドヤ顔を決める稲姫と、照れくさそうにする神楽を祝福するように、黄金色の光がはらはらとい落ちるのだった。

 

  

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