【第一部】第二十六章 まどろみの朝
――アレンの部屋――
――ちゅん……ちゅん……、ちち……
窓の外から暖かな光が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「う……、ん……」
アレンが半ば無意識に寝返りを打つと、顔にとても気持ちのいい何かが当たる。とてもやわらかくて……あたたかい。思わず、顔をぐにぐにとうずめる。
「ふにゃん♪」
なにか声が聞こえる……うずめた顔に何か少しかたい突起もあたっている。
「ふにゃにゃ……」
うずめている何かがふにふにと動く。それもまた気持ちよく、そのまま眠り続けるが――
「むぅぅ~……、コハクちゃんばっかり、ず~る~い~!」
ばふっと何かが背中に張り付いて来た。びっくりして思わずアレンは目を覚ました。
「――ん? なに? あ……」
アレンが目を覚ますと、目の前は一面、キレイな肌色だった。とても柔らかいものが顔に押し付けられている。
おそるおそる目線を上に上げると、見慣れぬ美少女の顔が――いや、昨日再会し、思い出した過去の記憶にある少女の顔があった。
胸元に抱きかかえる様、少女の両腕でアレンの頭がロックされている。少女の顔はとても幸せそうだ。
「う……ん、……ふぁ~」
目の前の少女も目を覚ます。上半身を起こしてバンザイし、伸びをしている。おかげで、さっきまで当たっていたやわらかいものが目の前で強調される。――思わずじっと見てしまう。
「あ、ご主人! おはようにゃ♪」
少女がそう笑顔で俺に朝の挨拶をする。アレンも回らない頭で「おはよう……」と返すのだった。
◆
「不覚だった。あまりにも気持ちよくて、まどろんでしまうとは……」
もしこれをエリスに見られていたら、今頃俺はこの世にいないだろう。そう思えるくらい、俺はあの時、没頭してしまっていた。アレンは顔を洗いながら、少し前の出来事をそう振り返る。
「ご主人~! ごはんできたにゃよ~♪」
顔を洗い終え、アレンは琥珀に呼ばれてダイニングテーブルに向かった。
そこでは、琥珀がエプロンをつけ、フライパンで作った炒め物を皿によそいテーブルに持ってきてくれている。稲姫は椅子に座り、嬉しそうにしっぽをパタパタと振っていた。
テーブルの上にはパンにスープ、サラダ、そして
「「「いただきます!」」」
3人で手を合わせ食事を始める。特に炒め物がおいしい。冷蔵庫に入れてた普通の食材なのに、作る人でこんなに変わるものなのか……どことなく懐かしい味でもあり、ふと、涙が出そうになる。
「とても美味しいよ」
「やっぱりコハクちゃんのお料理が一番でありんす!」
アレンと稲姫が琥珀の料理をべた褒めする。
「にゃはは! 照れるにゃ~♪」
まんざらでも無さそうに琥珀は笑い、アレン達は楽しい食事のひと時を過ごすのだった。
◆
今日は休日だった。昨日の襲撃の疲れもあったので、休みなのはありがたい。――でも、そうだな。
「なぁ稲姫。昨日、何か俺に話したそうじゃなかったか?」
食事を終え、一服つき始めたころ、稲姫に話をふってみる。稲姫はビクンと反応し――
「昨日の襲撃者が何者か、わっちには予想がついてるでありんす……」
稲姫は狐耳をしゅんとさせながら、
「やっぱりそうだったか……よければ、聞かせてくれないか?」
少し迷ったそぶりを見せた後、稲姫がうなずいた。
このまま話を聞いてもよかったのだが、昨日巻き込んで迷惑をかけてしまったカールとエリスにも声をかけてみた。
二人とも、二つ返事ですぐに部屋に来てくれた。足りない椅子はカールの部屋から拝借した。琥珀が皆にお茶とお茶請けを配ってくれ、聞く準備が整った。
「じゃあ、稲姫、聞かせてくれ」
――稲姫が、過去の出来事を語り始めた。
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