【第一部】第二十五章 事後処理と取り調べ
“
――いや、
ある者は壁につっこみ、また、別のある者は植木に顔からつっこんでいる。その誰もがピクリともしない。
「殺してもよかったんだけど、聞き出すこともあるだろうから、一応手加減しておいたにゃ」
(それでこれか。――いやはや、味方でよかった)
少しやっかいなことになりそうなので、稲姫と琥珀に獣化してもらった。
――稲姫は狐、そして琥珀は“猫”になる。
◆
騒ぎを聞きつけた教官や生徒達が集まってきた。
「こ、これは一体何事ですか!?」
女性教官の一人が大声で当事者の俺達に問いただしてくる。さて、どう説明したものかね。
「この不審者達が集団でいきなり襲い掛かってきたので、応戦して無力化しました。すみませんが、この者達の拘束にご協力頂けますか?」
正直に説明しながら、アレンは動かない不審者達を拘束しつつ一か所に集め出す。ヒモがないので、奴らの衣服をちぎって手足を縛りつけた。カールやエリスも俺にならい、奴らの拘束を始めてくれた。
「――な!? そんな非常識なことがあるわけないでしょう!?」
そう言いたい気持ちはわかるが、今はそれどころじゃない。
「事情聴取には後で応じます。今はそれよりも、不審者達の拘束が優先です」
それでも女性教官は動こうとしなかったが、一部の生徒達が協力を申し出てくれた。
「――な!? 貴方達、動かないで!」
生徒達を止めようと女性教官が制止の声をかけるが、邪魔されちゃたまらない。
強引に排除するわけにもいかないし、どうしたものか――
「私、この怪しい人達が集団で彼を襲うところを見ました」
「俺も……」
生徒の何人かが気まずそうに手をあげて名乗り出てくれた。一部の生徒には見られていたようだ。
こんな
目撃者の申告を受けて、女性教官は手伝わないまでも、邪魔はやめてくれた。それでいい。アレンはクレアの元へと向かった。
◆
「うぅ……ん……」
クレアが目を覚ましそうだ。急いで手足をヒモで縛って拘束する。両手は後ろ手に。
操られていただけに思えるが、確証は無いのだ。もう、一切の油断はしない。ヒモで縛り終えると同時、クレアが目を覚ました。
「あ……れ……? ここは?」
見慣れぬ景色に戸惑っているようだ。そして身じろぎし、手足を拘束されていることに気づく。
「へ……? なにこれ!?」
混乱してるようだ。必死に手足をゆすっている。しかし、ヒモはビクともしない。
「気がついたか」
クレアに声をかけると、クレアはようやく俺に気づいたようだ。
「え!? アレンくん!? ちょっ……これ、アレン君がやったの!?」
「落ち着いて聞いてくれ。まずは状況を説明するから――」
「や、やだ! こんなところでこんなプレイ……するならもっと落ち着ける場所でして……」
そう言って頬を赤く染める。――アレンは別の意味で危険を感じた。
「ずいぶんと元気そうね?」
エリスがいつの間にかアレン達の近くに来ていた。腕を組みながらアレン達を見下ろしている。
――何かエリスの背後にオーラのようなものを感じる。とりあえず、速やかにクレアも仮面の不審者達の近くに運んでおいた。
教官の呼んだ自警団が来るまで、そうしてアレン達は不審者達を残さず拘束するのだった。
自警団が来てからは、アレン達当事者と目撃者の生徒が自警団本部に連れて行かれた。自警団員の一部は現場検証で残ったようだ。
◆
――自警団本部にて――
「で、あの集団に襲われる理由について、何か思い当たることは?」
「ありません。仮面をつけてて顔もわかりませんし、あんな怪しい知り合いはいませんよ」
自警団員もあの連中を
魔法もあるのでそれだけで判断はできないが、仮面をつけた怪しい集団が皆武器を持っていて生徒達が素手であれば、やはり向こうが疑われるだろう。
当事者なのでアレンにも取り調べはするが、こちらに同情的だった。自警団員が「だよねぇ」とため息をつく。
「でも、いくらなんでも自衛にしてはやりすぎじゃない? 壁にめりこんでる人もいたよ?」
「いきなり命を奪われかけたんです。手加減はできませんよ」
その後もいくつか質問をされるが――
取り調べ中に別の自警団員が入ってきて、アレンを取り調べている担当に何やら耳打ちする。
「じゃあ、今日はもう帰っていいよ。遅くまで悪かったね。また聞きたいことが出てきたら呼び出すかもしれないけど、こちらも仕事だから悪く思わないでね」
それだけ言うと自警団員はアレンを解放してくれた。
◆
本部の外に出ると風が気持ちいい。外では先に出ていたカールとエリスがアレンを出迎えてくれた。
どこに潜んでいたのか、稲姫と琥珀も狐と猫の姿で合流する。アレンは抱っこを要求してくる稲姫を抱き上げつつ――
「遅くなって悪かったな」
「一番の当事者だもの。仕方無いわよ」
「俺らもコッテリ質問攻めだったけどな」
カールの茶化しに皆で笑い、夜道を寮まで歩いて帰る。こんなことがあった直後だからだろう。自警団員が何人か、遠くから自分達を尾行しているのを気配で感じていた。稲姫と琥珀に人化はしないよう、念のため注意しておいた。
「じゃあ、やっぱりアレンに襲われる覚えは無いのね?」
「自警団員にも聞かれたけど、さっぱりだよ」
稲姫がソワソワしており、アレンの顔をちらちらと見てくる。何かを伝えたそうだ。でも、外はマズいから部屋で落ち着いた時にでも聞くとしよう。
やがて寮につき、アレン達はそれぞれ部屋に戻ることに。もう、すっかり遅くなってしまった。でも、稲姫が無事で本当によかった。琥珀には感謝してもしきれないな。
――もう二度と離さないとばかりに、アレンは稲姫をしっかりと腕で抱きかかえながら部屋へと戻るのだった。
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