【第一部】第二十七章 稲姫の記憶 後編【一】別れ
カグラと出会ってから1年が経った。
夏には川に行って遊んだり、魚を釣って焼いて食べた。
秋には稲穂の収穫を村人と一緒にやり、おいしいごはんをご馳走してもらった。
冬には雪だるまを作ったり、おもちを焼いて食べた。
大切な思い出がたくさん出来た。
――そして、その日は突然やってきた。
◆
「嫌でありんす!」
カグラが「まいったな」と、困ったように頬をかいているが、絶対に嫌だ!
「また会えるよ」
そう。カグラが、お別れの挨拶に来たのだ。
「オレの一族が色んな地を
そんなの知ったことじゃない。カグラがいなくなるなんて考えられない!
「なら、わっちもついて行くでありんす」
「その気持ちは嬉しいけど、村の人達が困っちゃうだろ?」
村の人達が自分のことを頼りにしてるのは知っている。穀物がここまでよく実っているのは、うぬぼれではなく、自分の力が大きいこともわかっている。村の人達が大事だ。でも――
「また会いに来るからさ」
「……つぎはいつ来るでありんすか?」
カグラが言い辛そうに言う。
「四年後に――」
「カグラのばかぁ!!」
耳をふさいで、神社から走って逃げ出した。
◆
神社から一心不乱に走って逃げた。これ以上、あんな悲しいことは聞きたくない。
山の中を夢中で走ってきたからか、ここがどこだかわからない。疲れてその場にへたり込む。辺りはすっかり暗くなっていた。
「カグラのばか……」
また涙が溢れてくる。お腹がすいた……喉もかわいた。『ぎゅ~っ』とお腹が鳴る。
どこからか、川のせせらぎが聞こえてきた。水を飲めないかと思い、ふらふらと向かう。川に着くと、水を手ですくい、口に運ぶ。
――すると、不意に背後の草むらから音がした。野生動物だったら怖いが、もうどうでもいいやという気分になっていた。――でも、それは野生動物じゃなかった。
「探したよ」
カグラだった。落ち着いてるように見えるが、服や身体が汚れ、肩で息をしている。必死に自分を探してくれたのだろう。それを見て、また涙が
「渡したいものがあるんだ」
カグラは近づいて来て、
「これって……」
カグラがいつも肌身離さず身につけているものだった。気になってカグラの首元を見ると、首飾りはしてある。
「これは、うちの一族に古くから伝わる石を首飾りにしたものでね。大昔、神様とうちのご先祖様が友好の証として、石を二つに分けてお互いに持つようにしたんだ。どんなに離れていても、お互いを感じられるようにって」
カグラはそう言って、自分の首飾りの石を手に持って、それと並べて見せた。
「オレの石とペアになってるのがこの石なんだ。これを稲姫にもらって欲しい」
そう言って、手渡そうとしてくる。
「――けて」
「ん?」
カグラが聞いてくる。
「かけて欲しいでありんす」
うつむきながらお願いする。
カグラは優しく微笑みながら後ろに回り込み、わっちの首にそれをかけてくれた。
「キレイ……」
石を手に取り眺める。それは、薄青い神秘的な輝きを放っている。
「これがある限り、オレ達は必ずまた会えるよ。そういう伝承なんだ」
――主様がそう言うと、周囲にホタルがたくさん現れ、わっちらを祝福するように辺りを明るく照らしていたでありんす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます