【第一部】第十五章 稲姫の記憶【四】“御使いの一族”

――“御使みつかいの一族”


 神々とえにしを結ぶことで力を授けられ、人知を超える超常的な力を振るう一族を人々はそう呼び、神の御使いとして崇めてきた。


 それこそ、神に対するのと同等に。


 一族は一つ所に定住せず、定期的に各地を巡り、そこに住まう神々との縁を結びなおし、時には邪神や悪霊の成敗に携わってきた。


 一族の証として、腕に特徴的な紐を結ぶ。階級により色は異なるが、左右二色の色分けという点は共通だった。カグラも、左腕に、黄と緑の二色に色分けした紐を結んでいた。


「まだオレ――私は、一族の中でも見習いなので、そんなにかしこまらないでください」


 立ち上がって礼を取る村人に、頭をかきながらカグラは言う。


「カグラってもしかして、エライんでありんすか?」

「だから、偉くないんだって……」

「いえ、例えお若くても、御使いさまであることには違いありません。まことに失礼しました」


 キヌがまたお詫びを始めそうなので――


「あ、あぁ~……じゃあ! 謝罪の代わりに、オレが稲姫に会うのをこれからも許してほしい――です」


 そう言うと、カグラはわっちを見る。これから気兼ねなくカグラに会えるなら、わっちもとても嬉しい。


「それはもちろんでございます。ですが、それだけではこちらの気がおさまりませんので、どうか、おもてなしをさせてください」


 そう言うとキヌは、わっちとカグラを本殿に案内し、食事をご馳走してくれた。


 カグラは本殿がめずらしいのか、まわりをキョロキョロと見て落ち着きがない。「オレが入っていいのか?」と、不安そうだ。



「うまい! お料理、上手ですね!」


 配膳された料理を食べ始めてからは、カグラもキヌの料理にご満悦だ。


「そうでありんす! キヌはお料理上手でありんす!」


 キヌの料理がほめられて、わっちも嬉しい。


「お粗末様です」


 キヌはそう言うと、わっちらにお茶を入れてくれる。熱いからふ~ふ~して冷ますのが大変だけど、このお茶もとてもおいしい。


 そうして、最初の騒動が嘘のように、おだやかで楽しいひと時をカグラやキヌと過ごした。



――その日を境に、神社に張り付いていた村人も村に帰り、カグラも数日毎にだけれど、気兼ねなく遊びに来てくれるようになった。

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