【第一部】第十五章 稲姫の記憶【四】“御使いの一族”
――“
神々と
それこそ、神に対するのと同等に。
一族は一つ所に定住せず、定期的に各地を巡り、そこに住まう神々との縁を結びなおし、時には邪神や悪霊の成敗に携わってきた。
一族の証として、腕に特徴的な紐を結ぶ。階級により色は異なるが、左右二色の色分けという点は共通だった。カグラも、左腕に、黄と緑の二色に色分けした紐を結んでいた。
「まだオレ――私は、一族の中でも見習いなので、そんなにかしこまらないでください」
立ち上がって礼を取る村人に、頭をかきながらカグラは言う。
「カグラってもしかして、エライんでありんすか?」
「だから、偉くないんだって……」
「いえ、例えお若くても、御使いさまであることには違いありません。まことに失礼しました」
キヌがまたお詫びを始めそうなので――
「あ、あぁ~……じゃあ! 謝罪の代わりに、オレが稲姫に会うのをこれからも許してほしい――です」
そう言うと、カグラはわっちを見る。これから気兼ねなくカグラに会えるなら、わっちもとても嬉しい。
「それはもちろんでございます。ですが、それだけではこちらの気がおさまりませんので、どうか、おもてなしをさせてください」
そう言うとキヌは、わっちとカグラを本殿に案内し、食事をご馳走してくれた。
カグラは本殿がめずらしいのか、まわりをキョロキョロと見て落ち着きがない。「オレが入っていいのか?」と、不安そうだ。
◆
「うまい! お料理、上手ですね!」
配膳された料理を食べ始めてからは、カグラもキヌの料理にご満悦だ。
「そうでありんす! キヌはお料理上手でありんす!」
キヌの料理がほめられて、わっちも嬉しい。
「お粗末様です」
キヌはそう言うと、わっちらにお茶を入れてくれる。熱いからふ~ふ~して冷ますのが大変だけど、このお茶もとてもおいしい。
そうして、最初の騒動が嘘のように、おだやかで楽しいひと時をカグラやキヌと過ごした。
――その日を境に、神社に張り付いていた村人も村に帰り、カグラも数日毎にだけれど、気兼ねなく遊びに来てくれるようになった。
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