【第一部】第十四章 稲姫の記憶【三】村人に警戒されるカグラ
「ふ~ん♪ ふ~ん♪ ふぅ~ん♪」
「あら? お稲荷様、今日はご機嫌ですね」
カグラが遊びに来た翌日。いつものようにキヌが村からお世話に来てくれている。縁側で足をぷらぷらしながら鼻歌を歌っていると、キヌが声をかけてきた。
「キヌ! これからわっちのことは、“稲姫”と呼ぶでありんすよ!」
そう。昨日、カグラにつけてもらった名前だ。これからはそう呼ばれたい。
「急にどうされたのですか?」
キヌは笑顔で境内の掃き掃除をしながら聞いてくる。
「昨日、お友達ができたでありんす! それで、この名前をつけてもらったでありんすよ!」
友達ができた喜びと合わさり、とても嬉しい。キヌにも喜んでもらいたかったのだが――
「誰がそんな不遜なことを」
キヌは掃き掃除の手を止め、怒った顔でそう聞いてきた。
「村の子供がそんなことを言ったのですか?」
キヌが近づいて来て、わっちの肩をつかむ。
「ち、違うでありんす! 村の子供ではござりんせん。――キヌ、どうしたでありんすか!?」
いつもと違う、怒ったキヌにどぎまぎする。まるで、村の子供がわっちにオイタをした時のようだ。
キヌは、はっとしたようにわっちの肩から手を離し――
「も、申し訳ございません。ご無礼をお許しください」
頭を下げて掃き掃除に戻って行った。
◆
そんなことがあってから、村人が神社に何人か常にいるようになった。クワやスキなどの農具を持って、辺りを警戒している。
いつもは放置すぎるくらい放置なのに。カグラが遊びに来にくくなると嫌だ。
村人に何度も帰るように言ったが、「お稲荷様の御身をお守りさせてくだせぇ」と言って、引き下がらなかった。
この日も、翌日も、カグラは神社に来なかった。村人が張り付いているからなのかなと思うと、すごく悲しくなる。
だけど、とある日――
◆
「うわっとっと!」
前と同じ草むらからカグラは現れた。何かにつまづいたのか、おっとっと、という感じでバランスを崩している。
「カグラ!」
嬉しくて思わず大声で呼びかける。すると、神社にいた村人が農具を持ってわっちの前に集まってきた。
「お稲荷様、お下がりくだせぇ! ――この
村人達はカグラに向けて農具を構える。その先にいるカグラはきょとんとしている。
「え~っと……」
困ったように頬をかきながらカグラが近づいてくるが――
「止まれ!」
農具を構える村人の大声で、「困ったな」と、カグラは歩を止めた。
「や、やめるでありんす! カグラは遊びに来ただけでありんすよ!」
わっちから村人達に言っても、構えた農具を降ろさない。言うことを聞かず、「お前たちこそ不敬じゃないか!」と腹が立ってくる。村人に大声で抗議しようと口を開きかけた、ちょうどその時――
「お、お待ちください!」
拝殿を掃除していたキヌがこの事態に気づき、急ぎ走り寄ってきた。
「ど、どうかご無礼をお許しください!」
そう言うと、地面に膝をつき土下座した。――
「お、おみゃあ、何しとるんじゃ!」
いきなり始まったキヌの突飛な行動に、農具を構える村人たちが動揺してキヌに怒鳴る。キヌは顔を上げて村人達をにらみ――
「見てわからんのですか! この方は<
キヌがそう言った途端、村人達の顔が急激に
「し、知らんかったとです! お許しくだせぇ!」
急な事態にポカンとする。当のカグラはというと――
「断りも入れずに来てしまったこちらが悪いです。どうぞ顔をお上げください」
焦って村人を立たせようとするが、「いいえ! こちらが悪ぅございます!」と、なかなか顔を上げない。カグラが困ったようにこちらを見るので――
「お主達! いい加減に顔を上げて立ち上がるでありんす! カグラが困ってるでありんすよ!」
わっちがそう怒鳴ると、村人達はやっとのことで顔を上げて立ち上がったのでありんす。
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