【第一部】第九章 事件はある日突然に
「ち、違う! 僕じゃないぞ!?」
ミハエルが慌てて否定する。
「本当でしょうね……?」
エリスからの威圧が凄い……! ミハエルがたじろぐ訳だ。
昨晩の祝勝会でのアレンの一言。
「忘れてた! ミハエルとの決闘中、毒針の攻撃を受けたんだった!」
に対し、
「ミハエルじゃないの?」
と、エリス。
あの時、ミハエルにそんなことをする余裕は無さそうだったし、ミハエルとは別方向からの攻撃だったが、念のため当事者に確認しようということになったのだ。
◆
「不自然にアレンの動きが鈍いな、とは思ったさ。でもあの時は僕も必死だったからね。『――ここしかない!』と攻めたわけさ!」
「『攻めたわけさ!』じゃねぇよ!! 普通、全く動けない相手にあそこまで
アレンからしたらたまったもんじゃない。
「そ、それを言うならソコの動物だっておかしいじゃないか!? 未だに何が起きたかわからないし!」
アレンに抱かれている狐ちゃんを指差し言う。甘えん坊で、抱いていると機嫌がいいのだ。
それにしてもミハエルもやはり不満はあったようだ。決闘直後は潔く負けを認めてたのに。あ~ぁ、男の未練がましいのって嫌ぁ~ねぇ。
「まぁ、この感じだとミハエルは違いそうだな」
そんなカールの仕切りでミハエルへの追求はお開きとなった。
一応、その後現場も見に行った。『大事なものを落としたから探したい』と施設の鍵を職員室から借りてリング内を調べたが、怪しいものは何も見つからなかった。
スッキリしないが、これ以上はどうしようもないな。誰が敵かもわからない状況では教官に相談も
◆
狐ちゃんが来てから数日が経った。気が付けば、いつも一緒にいる。
食事も、風呂も、就寝も……。一応言っておくが、風呂は身体を洗ってあげる必要があるからだし――面倒だから一緒に入る――寝床は専用のものを用意してあげてるんだが、いつの間にかアレンの布団の中で一緒に寝てるのだ。
召喚って普通、『呼んだ時以外は元いた場所に帰るんじゃないの?』と思わなくもないが、これが召喚かもわからないし、アレンは気にしないことにした。
気のせいか、狐ちゃんはこの短期間で大きくなってる気がする……成長期なのかもな。深く考えちゃダメだ。
――この時は、まさかあんな事件が起きるとは知る由も無かった。
◆
事件は突然起きた。休日の朝だった。
いつものように、早すぎず遅すぎずの時間に起きたアレンの目に、信じられないものが映っていた。
少女――幼女に近め――が隣で寝ている。
あどけない、凄く整った顔立ちをしている。髪は黄金色のキレイなセミロングで、なぜか裸だった。
アレンは思わず自分の服を手で触ったが、特に異常は無い。
そして、少女の頭に
欲求不満なのかな俺、とアレンは二度寝に入ったが――
◆
「アレン、起きてる?」
ドアがノックされる。なんか、エリスっぽい声だ。
心臓がバクバクしてきた。布団を被る。俺は何も悪くない! ……はず。
再度、ドアがノックされた。
――そして、悲劇は起きた。
「ふにゅぅ……う~る~さぁ~い~!」
それは、睡眠を妨げられた少女の抗議だった。
ドアの外に一瞬、静寂が訪れる。そしてすぐ様、ドアを開けようとするガチャガチャ音に変わった。
「今すぐドアを開けなさい。破壊するわよ?」
物騒なことをおっしゃってる! 違う、これはきっと違う……。アレンは現実逃避しながら両手で耳を塞いだ。
ふと、物音で覚醒した少女とアレンの目があった。少女は凄くいい笑顔でアレンの胸元に抱きついてきた。
――エリスがドアをこじ開けて部屋に入るのは同時だった。
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