【第一部】第九章 事件はある日突然に

「ち、違う! 僕じゃないぞ!?」


 ミハエルが慌てて否定する。


「本当でしょうね……?」


 エリスからの威圧が凄い……! ミハエルがたじろぐ訳だ。


 昨晩の祝勝会でのアレンの一言。


「忘れてた! ミハエルとの決闘中、毒針の攻撃を受けたんだった!」


 に対し、


「ミハエルじゃないの?」


 と、エリス。


 あの時、ミハエルにそんなことをする余裕は無さそうだったし、ミハエルとは別方向からの攻撃だったが、念のため当事者に確認しようということになったのだ。



「不自然にアレンの動きが鈍いな、とは思ったさ。でもあの時は僕も必死だったからね。『――ここしかない!』と攻めたわけさ!」


「『攻めたわけさ!』じゃねぇよ!! 普通、全く動けない相手にあそこまで容赦ようしゃなく止めを刺しに行くか!? おかげで走馬灯を見たわ!!」


 アレンからしたらたまったもんじゃない。


「そ、それを言うならソコの動物だっておかしいじゃないか!? 未だに何が起きたかわからないし!」


 アレンに抱かれている狐ちゃんを指差し言う。甘えん坊で、抱いていると機嫌がいいのだ。


 それにしてもミハエルもやはり不満はあったようだ。決闘直後は潔く負けを認めてたのに。あ~ぁ、男の未練がましいのって嫌ぁ~ねぇ。


「まぁ、この感じだとミハエルは違いそうだな」


 そんなカールの仕切りでミハエルへの追求はお開きとなった。



 一応、その後現場も見に行った。『大事なものを落としたから探したい』と施設の鍵を職員室から借りてリング内を調べたが、怪しいものは何も見つからなかった。


 スッキリしないが、これ以上はどうしようもないな。誰が敵かもわからない状況では教官に相談もはばかられた。この件の追求は一旦取り止めることにする。



 狐ちゃんが来てから数日が経った。気が付けば、いつも一緒にいる。


 食事も、風呂も、就寝も……。一応言っておくが、風呂は身体を洗ってあげる必要があるからだし――面倒だから一緒に入る――寝床は専用のものを用意してあげてるんだが、いつの間にかアレンの布団の中で一緒に寝てるのだ。


 召喚って普通、『呼んだ時以外は元いた場所に帰るんじゃないの?』と思わなくもないが、これが召喚かもわからないし、アレンは気にしないことにした。


 気のせいか、狐ちゃんはこの短期間で大きくなってる気がする……成長期なのかもな。深く考えちゃダメだ。



――この時は、まさかあんな事件が起きるとは知る由も無かった。



 事件は突然起きた。休日の朝だった。


 いつものように、早すぎず遅すぎずの時間に起きたアレンの目に、信じられないものが映っていた。


 少女――幼女に近め――が隣で寝ている。


 あどけない、凄く整った顔立ちをしている。髪は黄金色のキレイなセミロングで、なぜか裸だった。


 アレンは思わず自分の服を手で触ったが、特に異常は無い。


 そして、少女の頭にっぼいのが付いている。視線を巡らせると、しっぽも見つかった。


 欲求不満なのかな俺、とアレンは二度寝に入ったが――



「アレン、起きてる?」


 ドアがノックされる。なんか、エリスっぽい声だ。

 

 心臓がバクバクしてきた。布団を被る。俺は何も悪くない! ……はず。


 再度、ドアがノックされた。



――そして、悲劇は起きた。


「ふにゅぅ……う~る~さぁ~い~!」


 それは、睡眠を妨げられた少女の抗議だった。


 ドアの外に一瞬、静寂が訪れる。そしてすぐ様、ドアを開けようとするガチャガチャ音に変わった。



「今すぐドアを開けなさい。破壊するわよ?」


 物騒なことをおっしゃってる! 違う、これはきっと違う……。アレンは現実逃避しながら両手で耳を塞いだ。


 ふと、物音で覚醒した少女とアレンの目があった。少女は凄くいい笑顔でアレンの胸元に抱きついてきた。



――エリスがドアをこじ開けて部屋に入るのは同時だった。


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