第6話

 犯人が捕まった、その一報が四課にもたらされたのは、事件から五日目の朝になる。

 朝、登庁した四課の面々が顔を揃えたところに、課長がやって来るなり言った。

「捕まったのは〈能力者〉ですか」とユニスは聞いた。

「いや、一般の男だ」

 それを聞いて、ユニスだけでなく四課全体が、気が抜けたように空気が弛緩した。

「やっぱりおれたちの出る幕じゃなかったってことか」とトバがユニスたちの思いを代弁するように言った。

 そして事件のことは忘れ去られようとした。

 ところが、午後になって犯人の捕まった経緯と、犯行の動機が報告書で送られてくると、事態は急変することとなった。

「どうやら我々の管轄にかかわってくる事案かもしれん」課長はそう言うと、「諏訪、ユニス。二人は加害者宅へ向かってくれ。ナオミ、トバ、お前たちは被害者の部屋をもう一度調べろ」と指示した。

 諏訪の車の助手席に滑り込んだユニスは、思わず呟いた。「まさかこんな形で繋がるなんて」

「なんだ。なにか知ってるのか」ギアをドライブに入れながら諏訪は、聞いた。

「いえ。ただ昨日たまたまこの事件についてナオミさんと雨宮さんから教えてもらったばかりだったんです」

 諏訪はなるほどと頷くと、アクセルを踏んだ。

 田所浩平の殺害を自供した男は、そもそも昨夜のうちに任意で取り調べを受け、今朝になって自供を始めたのだったが、そのきっかけとなったのが一本の電話だった。

 男は昨日の昼、とある場所に電話をかけた。電話を受け取った人物はその内容に不審を抱き警察に連絡。警察は逆探知を用意して電話を待ち受けると、さっそく男から再び電話がかかってきた。

 電話先はあるコーヒー店の番号だった。逆探知を成功させるとすぐさま捜査員が向かい、男はあっけなく逮捕されたのだった。

 捕まった当初、男は沈黙を守り、なにも供述しようとしなかった。その間に警察が男の自宅を家宅捜査したところ、血痕が付着した衣類が押収された。調べてみると、それは路地で刺殺された被害者の血痕とわかり、事実を突きつけられた男は翌朝、つまり今日、観念して自白したのだった。

 それにしても、まさかこんなかたちで犯人が捕まるとは、捜査員も思っていなかっただろう。事情聴取を行っていた捜査員が一番に驚いたに違いない。なにしろ彼らが捜査していたのは、密室で亡くなった会社社長の事件だったのだから。

 思いがけない逮捕の経緯に驚きつつも、そこまではあくまで四課としては管轄外の話である。しかし突如これが四課として見過ごせない事件になったのはそのあとのこと。男が供述した犯行動機だった。

「犯人は、亡くなった会社社長から殺しの依頼を受けていたってことですか」

 報告書を読んだユニスは思わず声が出た。

「そうだ」と課長は答えた。「そして、その殺しのターゲットになっていたのが、田所浩平、五日前の朝我々も念のため捜査に加わったあの〈能力者〉だ」

 男は犯行動機について、ある人物から依頼されたと述べた。当初、男は依頼主がだれなのか知らなかった。しかし男にとってそんなことはよくあることで、要は金さえ用意すればなんだってやるたちで、依頼人は男の要求通りの前金を用意したから仕事を引き受けただけだという。

 田所浩平を殺すにあたり、男は念入りに下調べをしたのち、依頼主と犯行日の相談をして、結構日を決めた。それが十二月五日になる。

 ただし、当初決めた場所は雑居ビル裏手の駐車場で、時間も十一時二十分だった。それは被害者の財布から発見されたメモと一致した。つまりあのメモは、依頼主か被害者、どちらが取り決めたのかはわからないが、とにかく互いに会うつもりで約束した日時と場所だったということだ。そして依頼主はそれを逆手に取って、男にその場所で襲わせるつもりだったということになる。

 だが、男はその手前の路地で犯行に出た。そっと背後から近寄り、足音を聞きつけたのか被害者が直前で振り返ったものの、犯人は気にせず素早くナイフを突き刺した。

 とはいえ、計画が失敗したわけではない。むしろ男の犯行は完璧だった。実際、事件を担当した一課は男が逮捕されるまで犯人の目星はまったくついておらず、ましてや逮捕された男は捜査線上に一切上がっていなかったのだ。もしそのまま潜伏していれば逮捕は困難を極めたことだろう。なにせ被害者と犯人のあいだにはなにひとつ接点はないのだから。

 その男が、なぜ捕まるようなヘマをしたのか――

 それは、ひとえに男が依頼主を知らなかったせいだ。もし知っていれば、その日に依頼主もまた死んだことがわかったはずだ。

「哀れというか、間抜けというか」

 報告書を読んでいたトバがそう感想をもらしたが、ユニスも同じ気持ちでいた。

 もし男が依頼主がすでに死んでいることを知っていればこんなことにはならなかった。なにせテレビやネットで連日、依頼主の社会的立場とその事件の異様性から、死亡のニュースが大きく取り上げられていたのだから。

 しかし、男は知らなかった。だから、五日経っても一向に成功報酬の受け渡しについて連絡してこないことに苛立ち、痺れを切らして依頼主に電話をかけてしまった。それが会社社長、桧山慶一郎のプライベート用の携帯電話とは知らずに。

 そしてその電話に出たのが、娘婿だったことも。

「おい、いつになったら金を用意するんだ」男は開口一番、相手に向かって脅したという。

 娘婿の功績は、そこで機転を利かしたことだった。というのも、娘婿は突然死として社長の死を処理しようとする警察にずっと不審を抱いており、社長は何者かに殺されたと頑なに信じていたのだ。

「悪いもう少し時間がかかる、改めて連絡してくれ。そのとき詳しく金の受け渡しを伝える」

 電話の声を聞いた娘婿は、その言葉の不気味さと醜悪で威圧的な声に、社長の事件に関係していると直感的に思ったそうだ。

 実際は、事件にかかわっていることはかかわっていたが、それは社長が被害者としてではなく、加害者としてだったが。

 ともあれ娘婿はすぐに警察に事情を伝え、警察は逆探知の準備を行った。そこに律儀にも男は言われたとおりに電話をかけてきたのだった。

 そのあとに起きたことは、すでに述べたとおりである。

 こうした具合で〈能力者〉殺害の事件については、犯人が捕まったということで決着はついた。

 しかし、会社社長の事件はまだ解決されていない。犯人逮捕によって、却って疑惑が浮上した。そしてそこに〈能力者〉が関与するのであれば、四課としても見過ごすわけにはいかなくなったということだ。

 なぜ桧山慶一郎は田所浩平を殺さなければならなかったのか、それはまだわからない。しかし事実として殺しを依頼した以上、それだけの事情があったからにほかならない。裏を返せば、田所浩平は殺されるほどのなにかを桧山にしたということになる。その桧山は生前、命を狙われているかのように周囲を警戒していた。そして実際、死んだ。心臓麻痺による突然死ではあるが、もしそれがそうではなかったら。いま桧山の命を狙うものがいるとしたら、それを密室の書斎で実行できる人物がいるとすれば、〈能力者〉である田所浩平の可能性は十分に考えられる。

 諏訪の車は、桧山慶一郎宅へと飛ばした。


 書斎は事件当時のまま保持されていた。割れたガラスの破片はさすがに片付けられていたが、割られた窓ガラスはそのままだった。

「帰るときは一言声をおかけください。一階のリビングにいますので」ユニスたちを案内した娘婿が、去り際に言った。大きな体をしていたが、顔が憔悴しきった様子で、ひどく縮こまっているようにユニスには見えた。

 社長を殺した犯人を捕まえたと思ったら、その社長が殺人を依頼していたことが明るみになって、家族としてはショックだったことは想像に難くない。話では社長の妻は寝込んでしまい、娘婿の妻であり、一人娘がその看病にあたっているという。家の周りにはマスコミが集まっている。娘婿は家族を気にかける一方で、会社の今後についても考えなければいけない立場に置かれて心労は計り知れない。

 書斎まで案内するあいだに、娘婿はユニスたちのほうを振り返ってこう訊ねた。

「本当に社長が、殺人を依頼したのでしょうか」

「まだはっきりとはわかりません」ユニスが返事に窮していると、諏訪が口を開いた。「証拠が出揃うまで待っていてください」

「もし証拠が出揃ったら、それは……事実だということですよね」

「証拠が出揃うまでは、我々からはなにも言えません」

 去っていく娘婿の背中を見ながら、ユニスは胸が痛んだ。

「可愛そうですね」ユニスは思わず言った。「家族に罪はないのに」

「余計なことは考えるな。犯人を捕まえることだけに専念すればいい」

 そう言うと、諏訪はメガネをかけ書斎を調べ始めた。

 しかし――調べるといっても、なにを調べていいのやら。

 この書斎からは反応は検知されていない。検知されていない以上、この部屋では能力は使われていないという、絶対的な事実があるだけだ。無論、侵入することだけなら、〈能力者〉なら可能だが。

 だが、ネックとなるのは、やはり殺害方法だ。

 心臓麻痺。

 うまく密室に侵入したとしても、どうやって心臓麻痺で殺せるのか。能力を使って心臓麻痺で人を殺せる〈能力者〉がいたとしても、それだと今度は書斎に反応がないことが問題になる。能力を使って殺したならば、必ず犯行現場である書斎には痕跡である反応が検知されるはず。

 言うまでもないが、この書斎にはドアと窓以外に侵入口はない。秘密の抜け穴のような仕掛けはない。そしてここに出入りしたことのあるものは、三人だけ。被害者と、その妻、そして娘。鑑識が指紋や髪の毛を採取して、この三人だけが検出された。娘婿は入れてもらえなかったらしい。もちろん指紋や髪の毛を残さずに侵入した人物がいるかもしれないが、いずれにせよ、姿を消す〈能力者〉と同じで、結局侵入したところでどうやって殺したのかという問題にぶち当たるだけだった。

「なにか思うことはあるか?」

 書斎内になにか異常はないか、手分けして調べたが、これといってなにも発見できずに、ユニスは半ば途方に暮れたところで諏訪から声をかけられた。

「害者――この害者は、田所浩平のほうですけど、彼は操作能力者です。もし彼が殺したとするなら、なにかを操作して殺したということになりますよね」

「なんだと思う」

「たとえば害者――桧山慶一郎を操作したとしたら……」

「田所の能力値はB-だ。人を自在に操るとしたらせめてA+でなければ不可能だろう」

「ええ」

 田所では人を操ることはできない。自殺に見せかけて殺すことは不可能だ。仮に操れたとしても、ではどうやって心臓麻痺で殺せるというのだろう。

「正直なところお前はどう思う、この事件を。田所を含めて〈能力者〉がかかわっていると思うか?」

「私は……かかわっていると思います」

「桧山が殺しを依頼しているからか」

「桧山はおそらく、田所に脅されていたのではないでしょうか。関係者の証言では田所は最近金回りがよかったという話もありました。おそらく、桧山を脅迫して現金を脅し取っていた」

「おれもそう思う」と諏訪は言った。

 意見の一致に、ユニスは少し嬉しかった。

「でも、脅されていたとしても、命の危険性まで危ぶむような怯え方をするでしょうか。書斎もわざわざリフォームまでして。ということはです、つまり、桧山はただ脅されていたわけではなく、命も一緒に狙われていた。そして桧山は、それを真に受けていた。真に受けるだけの根拠を田所が示したのか、それとも桧山はなにかを知っていたのかもしれません、田所なら人を殺すことができると」

「田所は以前に殺人を犯した。そしてそれを桧山は知っていた」

「だから桧山は書斎をリフォームした。だけどそれだけでは安心できず、ついには殺される前に殺してしまおうと、殺し屋に依頼をして先手を打った」

「殺される前に殺す――相当追い詰められなければ至らない発想だな」

「はい。桧山の行動を説明すると、この推理が一番理に適っていると私は思います」

「ところが、折角殺し屋が田所を殺したにもかかわらず、自分も同じ時間に死んでしまった」

「そこです。同じ時間。これを偶然だと思いますか? 殺したい相手を殺したと思ったら、ほぼ同時刻に自分も死んでしまう。これは驚くべき天文学的な確率ではないでしょうか。私は偶然とは思えません」

「……できすぎているな」

「田所自身かどうこうとまでは敢えて断言しませんが、少なくとも〈能力者〉がかかわっていると私は思います。一般人が、この密室で桧山を殺すことは到底無理です」

「しかしこの書斎からは反応は検知されなかった」

「そのうえ密室で、しかも心臓麻痺」

 ユニスはその場に坐り込んだ。その姿を、諏訪は静かに見つめていた。


 娘婿の事情聴取も行った。最近の桧山慶一郎の様子から、亡くなった日の夜のできごとなど詳しく聞いた。

 だが聞き出せたことは、すでに一課から回された報告書と変わりなかった。

 桧山の健康面に関しても、人間ドッグの受診で診断された以上のことは家族も知らず、とくに桧山が心臓を悪くしていたというような様子も見なかったと。だからこそこれは病死ではなく、なにかしらの事件であると家族は主張するのだった。

 田所浩平について聞くと、娘婿は家族を代表して、そんな男のことはこれまでに一度も聞いた覚えはないと断言した。

 それを裏打ちするように、日記、アルバム、経歴等々と一課は桧山と田所の接点について血眼になって調べているようだったが、未だに接点は見つかっていない。

 桧山慶一郎の自宅には一時間ほど留まったものの、新しい発見には至らなかった。

 自宅をあとにする際、娘婿が見送りに来たが、なにかわかりましたか、という問いかけに、捜査中です、と諏訪は淡々と答えた。そんな彼の隣で申し訳なさそうに俯いているユニスを見て、娘婿はため息をついた。

「いちいちそんな顔をするな」

 車に戻ったとき、ユニスは諏訪に叱られた。

「すみません」

 諏訪は車のエンジンをかけようとして、その手を止めた。

「事件が解決しないのは、自分だけの責任だと思ってるんじゃないだろうな」

「え?」

「それは違う。おれたちは組織だ。警察という組織の一員だ。もし事件が解決しないのであれば、それはおれたち警察組織の責任だ」

(もしかして、私慰められてる?)ユニスは自分の耳を疑った。しかしいまも頭の中でこだまするその声は、諏訪の声に間違いない。

「報告は、なにもありません」

 諏訪は車を走らせながら、メガネで課長に報告した。ユニスもメガネをかけ、課長に通話回線を繋げた。

「課長、ナオミさんたちからはなにかありましたか?」

「二人からの報告はまだなにもない。向こうも難航しているようだ」

「そうですか」

「我々もそちらに手伝いに向かいましょうか?」

 諏訪が聞くと、

「そうだな……いや、いったんこっち戻って来てくれ。改めて捜査会議を開く」

「わかりました」

 報告を聞いたユニスは、通話回線を切ろうとした。そのとき――

「課長、証人が現れました」

 飛び込んできた声は、ナオミだった。

 ナオミはグループ回線で報告してきた。四課の全員に聞いてほしい情報が入ってきたということだろう。

「証人というのは?」課長が聞いた。

「事件当日、害者の部屋に滞在していたという人物です」と今度はトバの声が聞こえた。

「本当か。だれなんだいったい」

「害者の飲み仲間です」ナオミに変わる。「事件のあった日、その男は害者の家を訪ねたそうです。そのときに妙なことが起きたそうで、部屋から逃げ出したらしいんです。その後害者が殺されたことは知っていたそうですが、警察に厄介になるのを恐れてなかなか言い出せなかったと。でもようやく今日意を決したようで、そこにたまたまいた私たち見て警察だと思ったらしく近寄って来まして、そこで色々と話を聞くことができました」

「その男の身柄はどうしている」

「一課のほうにすでに渡しておきました。向こうでも事情聴取が行われていると思います」

「そうか」

「それでナオミさん」とユニスは会話に割り込んだ。

「あらユニス、そっちのほうはどうだった? なにか新しい発見はあった?」

「残念ながらなにも。それより、その男の証言の内容を教えて下さい」

「いいわ。それじゃあ、ええっと――その男は害者の飲み仲間で、事件のあった日の夜も、飲みに誘おうと害者の部屋を訪ねたそうなの。時間は午後十時五十五分」

「亡くなる直前ですね」

「ええ。でも、そのとき害者は不在だった。たぶんその時間にはもう害者はメモに書かれた場所に向かっている最中だったのでしょうね。そうとは知らずに男は、部屋の電気が点けっぱなしだったこともあってすぐに帰ってくるだろうと思い、害者の部屋で待つことにしたらしいわ。

 ちなみにだけど、害者はやっぱり金回りがよかったそうよ。ちょうど二ヶ月ほど前から」

「桧山の様子が変わり始めた頃ですね」

「そう。きっと二ヶ月前に害者は桧山を脅して金をもらっていたのかもしれないわね。その頃から金回りがよくなった害者に、酒を奢ってもらったり、金を貸してもらったりするようになったらしいわ。害者の部屋を訪ねた男は、だから飲みに誘おうというよりも、酒を奢ってもらおうと思って訪ねたそうなの。

 男は害者の帰りを待った。そのとき、部屋の中で異変が起きたっていうの」

 ユニスはナオミの言葉に集中した。

「突然、猫が暴れだしそうなの。悲鳴のような、いつもとは違う鳴き声を上げながら、猫はその場でのたうち回った。男はびっくりして立ち上がるも、なにもできずにただその姿を見ていたそうなの。すると今度は水槽で、それまで元気に泳いでいた熱帯魚が一匹、また一匹と、水面に浮かび出した。もちろん猫もそれまで元気にしていたって男は言ってるわ。餌をやってそれを食べたから間違いないって。猫の解剖報告書にも、食べたばかりで消化されていないキャットフードが胃に残っていたってあるから、間違いないと思うわ。そしてまもなく猫が静かになると、床に仰向けになったまま動かなくなった。熱帯魚もみんな残らず水面に浮かんでいた。ちなみに猫の死因は、いまもはっきりしていないわ。熱帯魚も、その水質に異常は見つからなかったって報告がある」

 ユニスも、ナオミの話を聞きながら、メガネで素早く猫の解剖報告書と、水槽の水質報告書を引っ張り出して見ていた。

「さらに、男は部屋にある時計を見たらしいんだけど、その時計までもが止まっていたそうなの。男は時計を持っていなかったみたいで、部屋にあったその時計で時間を確認していたらしいから、動いていたのは間違いないって。その時計までもが止まっていた。

 男は急に静かになった部屋に恐れをなして、部屋から逃げるように飛び出した。

 以上が男から聞いた証言。報告書は戻ったら私がまとめます」

「よろしく頼む」課長が言う。

 ユニスは、頭の中で、男の証言内容を想像していた。猫が突然暴れだし、熱帯魚が水に浮かび、そして――時計までもが。

 猫、熱帯魚、時計、それらが一斉に止まった、そう、まるで、死んでしまったように。

「まるで大きな古時計だね」

 雨宮の声がなんでもないことのようにぽつりと呟いた。

 だが、ユニスはそれを聞いた瞬間、頭の中に、タクシーの中で聞いたピアノの旋律が蘇り、そして――

「そうだったんだ」

 犯人がわかった。

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