本文
書きたいシーン
序章のアーシアとレインが街に帰ってきたらアーラムの街が魔族に襲われているところから魔王討伐を決意するまでのシーンです。
買い物を終えてアーランの街の近くまで私達が戻ってきた時はもう日が暮れている時間だった。辺りは暗くなり空には少し星も見えている。今日は天気もいいためきっと夜空が綺麗だろうな。
「あ」
アーラムの街の近くまで来た時、私は微妙な違和感から声をあげた。街の上空だけがやけに明るいのだ。今日は街の行事なんてなかったはず。
「ねえ、レイン。なにか街の様子がおかしくない?」
私はとなりにいたレインに尋ねてみる。彼もどこか様子が変だと感じたのか私の言葉に頷いた。
「確かに。アーラムの街のほうが明るく見えるな」
「今日ってなにか街全体でなにかやるようなことってあったっけ?」
「いいや。特になにもなかったな」
私はなにか嫌な予感がして歩く速度を早めた。私が歩く速度を早めたのに気付いたレインも慌てて歩く速度をあげる。
やがて私は街の近くまできた時、信じられない光景を目にした。
「なに……これ……!」
アーランの街が燃えている。私は目の前の光景に言葉を失った。
「こ、これは……」
私に続いてレインも驚きの声をあげる。彼も目の前の光景に驚いているようだった。
「ま、まさか……魔族なのか……」
「皆は……ミナはどうなってるの!?」
呆然としていた私だがなんとか冷静に現状を理解しようと務める。一番心配になったのは友人のミナの安否だった。
「確かめなきゃ……!」
私はアーランの街に向かおうと足を踏み出す。しかし腕をだれかに捕まれた。
「!?」
驚いた私が振り向くとレインが私の腕を掴んでいた。彼の掴んでいる力が強くて振り解こうとしても無理だった。
「離して!!」
「駄目だ! 今、街に向かえばなにが起こるか分からない! 早急にここを離れるべきだ!」
私の抗議にレインは強い口調で抗議する。しかし私も友人の安否がかかってる。それに街がどうしてこんな状況になっているのか把握しておきたいし。こんなところで油をうっている場合じゃないんだ。
「ごめん、レイン!」
私は先にレインに誤り、思い切り捕まれた方の腕を振ってレインを振り払った。私がここまで激しく抵抗すると思っていなかったのか彼の手はあっさりと私の腕を離してしまう。
「な! 待て、アーシア!」
彼の言葉を聞かず私はアーランの街まで走る。全力で走っているため、息は上がっていたがそれでも足を止めることはしなかった。
入口には誰もいなかった。ただいつも見張りをしていた人達が倒れているのを確認した。体中から血が流れている。
「これって……殺されてる……」
だとしたら異常事態だ。私はなにが起きているか確かめるべく、街の中へ足を踏み入れた。
アーランの街の中に入っても自分の見ている光景が信じられなかった。
「なにこれ……!」
出かける前まで賑やかだったアーランの街は建物が崩壊し辺り一面が火の海になっている。周りを見渡すと犬族の住民の死体が転がっていた。
「ひっ……!」
その光景に私は言葉を失い、再び立ち尽くしてしまう。
この住民の殺害は街をこんなふうにしたものがやったのだろうか。
こんなことを考えている間にも街のあちこちから火の手が上がり、悲鳴が聞こえてくる。その声を聞いて私の意識は現実に引きもどされた。
「とにかくなにが起きてるか、誰がこんなことを把握しないと……! でも本当に誰がこんな酷いことを……!」
アーシアは気を取り直して再び駆け出す。しばらく進むと街の住民が何者かに取り囲まれているのが見えた。
「あれは……」
私はその何者かから発見されないように慌てて物陰に隠れた。
「まさか……魔族!? なんでこんな辺境の街を襲ってるの!?」
そのもの達はあらゆる種族から恐れられているもの達だった。その種族は魔族。彼らはもともと滅んでしまった竜族と同じだったらしいけど、進化の過程でまったく新しい種族になったって聞いてる。
今のこの世界は魔族にあらゆる種族が怯えて生活している状態だ。しかし魔族が住民が沢山いたりする重要な都市を襲うのなら分かるがこんな辺境の街を襲うというのが私は理解できなかった。
(これは街の皆を魔物が襲ってる……!? なんで? この街に魔物に取ってなにか重要なものでもあるっていうの!?)
考え事をしているとまた悲鳴が聞こえてくる。魔物達が捉えた街の住民達をいたぶっているようだ。アーシアは思わず耳を塞いでしまう。
「なんでこんな……」
目の前で繰り広げられる光景に恐怖を感じて身動きが取れなくなりそうになる。それでもここから逃げなければ自分も殺されてしまうことは分かった。
「逃げなきゃ……!」
生き残ることだけを考え、すくむ足を奮い立たせてその場からすぐに逃げようと動く。しかし動いた時に別の場所にいたある人物が私の視界に写った。
その人物は尻餅をついて動けないようだった。遠目に見るとよく分からないが体が震えているように見える。襲われそうになっている人物の目の前には獲物を見つけたといわんばかりに目を輝かせている魔族がいた。
「ミナ……!! 嘘でしょ……!!」
その姿を見て私は青ざめる。思わず彼女の姿を見て届くはずもないのに彼女のほうに手を伸ばしてしまった。伸ばした手は虚空を彷徨い、空を切る。それと同時にミナの胸を魔族の腕が貫いた。
「……ああ……!! 嫌だ、なんてことを……」
危うく大きな声を出しそうになったのを必死に抑える。恐怖で体が震えて動くこともできなかった。魔族に胸を刺されたミナはそのまま力なく地面に倒れ込み、そのまま動かなかった。どうやらあの一撃が致命傷となって死んでしまったようだ。
「ミナ……ミナ……なんで、なんで!」
友人が目の前で殺されたのになにもできない自分に悔しさを覚えるがどうにもできない。自分にはなんの力もないのだから。
「うう……」
ただ呻くことしかできない自分がひたすらに情けない。それでも今はこの場から逃げなければ自分もミナと同じ運命を辿ってしまう。それだけはなんとしても避けなければいけないことだ。
「ごめん、ごめんね、ミナ」
誰にも聞こえないくらいの声で私は謝罪を口にする。
「ミナの分も生きなきゃ……」
そうだ。悲しいけど今は自分が生き残る方法を考えなきゃ。気持ちを奮い立たせて私は逃げるために行動を開始する。
魔族達は目標にしていた人間を一通り狩ったのか次の標的を探しているようだった。早くここから逃げないと見つかって殺されてしまう。もし襲われることになったりでもしたらこっちは私一人のため、圧倒的に不利な状況で彼らと退治しなけれは私は焦りからその場からとにかく離れることしか考えられなくなっていた。
「あ!」
それがよくなかったのだろう、気付いた時にはもう遅かった。逃げることばかり考えていたせいで立てかけてあった道具に気付かず、それを倒してしまった。地面に倒れたそれは盛大に音を立てて魔物達の注意をこちらに向けてしまう。
「しまった……!」
気付かれてしまった私はそのまま全力で駆け出す。私に気付いた魔物達は一斉にこちらを追いかけてきた。
「はあ、はあ……あっ!」
私は全力で走って逃げていたが石に躓いてしまい転んでしまう。転んだ私を見逃してくれるほど魔物達は甘くない。容赦なく転んだ私に襲いかかろうとする。
「ひっ……いや!」
私は自分の死を覚悟して目を瞑る。しかし、いつまで経っても私に魔物が食いついてくる気配はない。おそるおそる目を開けてみると襲いかかってきた魔物達が吹き飛ばされて地面を転がっていくところだった。
「大丈夫か、アーシア!」
「レイン!」
魔物を吹き飛ばしたのはレインだった。彼は剣を構え、私を守るように魔物達と私の間に立ち塞がる。
吹き飛ばされた魔物達は再び立ち上がるとレインに狙いを定めたのか彼に襲いかかった。レインはそれをすべて軽い身のこなしで躱し、的確に剣を振るってすべての魔物を絶命させた。
「す、凄い……」
彼の鮮やかな戦闘に私は思わず溜息を漏らしてしまう。レインの戦う姿は初めてみたがこんなに強かったなんて知らなかった。
「とりあえず怪我はないようで安心した」
魔物達を殺したレインはこちらに歩み寄ってきて私の状態を確認する。
「よかった。大きな怪我はなさそうだ。それはそうとどうして一人で勝手な行動をした! 下手をしたら死んでいたかもしれないんだぞ!」
レインの凄まじい剣幕に私はたじろいでしまう。
「ご、ごめんさない……!」
レインが止めるのを無視して勝手に街のほうに向かったのは私だ。なにも言い返せず私はかすれた声で謝罪してうな垂れる。
「……すまない、怒鳴るのはよくなかった。とりあえず、無事でよかった。とりあえずここを離れよう。このままここにいたらまた魔物達に襲われてしまう」
そう言ってレインは私に手を差し伸べてくる。私がその手を掴むと彼は力強く手を引いて私を立たせた。
「それじゃ、行こう。とりあえずこの街を出るぞ」
この街に戻ってきた時と違い、私には彼の手を振り払う気力が残っておらず、糸が切れた人形のように彼に手を引かれるままとなっていた。
*
あの後何度か魔族に襲われながらも街のはずれまで逃げてきた私達は一旦休憩をとっていた。
「ねえ、レイン」
「なんだ?」
「さっきの魔物達はどうして街を襲ったの? こんな穏やかでなにもない街をさ、なにか彼らにとって重要なものでもあったの?」
私はずっと疑問に思っていたことを彼に尋ねる。結局魔族がアーラムの街を襲った理由は分からないままだった。
「……奴らの狙いは……君だ、アーシア」
「……え……?」
私はレインが言ったことが理解できず、間の抜けた声をあげてしまう。
「わ、私? なんで? 私を魔族が狙う理由が分からないよ。私は魔族になにか手を出した訳でもない、特別ななにかが備わっているわけでもないのに? なんで私が狙われているの!」
頭が混乱して私はレインに強く当たってしまう。第一私が魔族に狙われる理由が分からない、私は特に魔族に狙われるようなことはしていないんだから。それに彼の言っていることが本当なら街の皆は私のせいで魔族に襲われ、命を落としたことになる。
「アーシア、落ち着いてくれ……というのは無理かもしれないが話を聞いて欲しい。それは君の種族が関わっているんだ」
「種族? なんで今その話をするの? 私が今まで聞いてもその話ははぐらかしてきたくせに!?」
私の強い言葉にレインは顔を一瞬しかめるも私を見つめて話を続ける。
「……本当にすまない。だがどうしても隠す必要があったんだ」
彼の真剣な様子に私も思わず黙ってしまう。
「ねえ、じゃあ教えて。私の種族ってなんなの? 私は何者なの?」
「君は……竜族の末裔だ」
「竜……族……」
その種族はもう10年以上も前に魔族によって滅ぼされたはずだ。私も竜族には会ったことがない。その滅ぼされた種族が私……?
「待って……私が竜族の末裔……?」
「すぐに理解できないのは無理もないさ。混乱しているだろう」
「う、うん。なにがなんだか分からない」
「そうだろうな。そしてお前はその滅んだ竜族の王女だったんだ」
「!?」
今度こそ私は言葉を失ってしまう。次の言葉を紡ぐのにしばらく時間がかかってしまった。
「王……族……?」
「そうだ。君は竜族の王族の末裔だ」
「ちょっ、ちょっと待って! 私が王族!? 滅んだ竜族の!?」
訳が分からない。私が滅んだと言われていた竜族の王族? まるでどこかの小説を読み聞かされているような現実身のない話に私は混乱していた。
「そうだ。かつて魔族が竜族を滅ぼした時、君の親であった王は生まれたばかりの君を隠すことにして、古い友人であった私に君を託したんだ。私は魔族から逃れてこの辺境までたどり着いて君を育てた。魔王は生き残った竜族を殺そうと世界中を魔族の部下に調べさせていたからね」
レインは私に淡々と説明を続けていく。ただその淡々とした様子はどちらかと言うと自分自身を落ち着かせるためのもののようだった。
「それじゃ今日街が襲われたのは私が竜族ということが魔族に知られてしまったからなの?」
そう、今日魔族がアーラムの街を襲った理由が竜族の抹殺のためなら、私の本当の種族が割れてしまぅたら周りの人にも迷惑がかかる。
「分からない。ただ竜族の生き残りがいるということで街を襲ったのは確かだろう。魔族達を率いていたものがそう言っているのを聞いたからな」
「……」
私は今、レインから聞いた話をまだ受け止めきれていなかった。しかしレインの言ったことが本当なら一つだけ確かなことがあった。
それは今日アーランの街が魔族に襲われ、滅ぼされたのは私が原因ということだ。街の皆やミナが殺されてしまったのもすべて私が原因。まだ魔王は私が竜族の生き残りと特定したわけではないようだけど。それでもこのまま私が生きていたらまた今日のような悲劇を生んでしまう。
気持ちを落ち着けるために私は瞼を閉じ、深く息を吸い込む。
脳裏に浮かんでくるのは街の皆の悲鳴、そして友達だったミナの最後の姿だった。嫌でもあの時の記憶が思い浮かんでくる。
私とレインにしばらく無言の時間が流れる。やがて私のほうから口を開いた。
「ねえ、レイン。それじゃさ、私の両親を殺したのも今日私の生活を壊したのも全部魔王が原因だってこと」
「そう……なるな」
彼は私の質問に躊躇いがちに質問に答える。その理由は分からなかったけど今の私がこれからのことを決めるには充分な返事だった。
「じゃあさ、私やるよ。皆の敵を取る」
「アーシア?」
「お父さんとお母さんが私を残してあなたに育てさせたのはなにか理由があるんでしょう?」
「……そうだな、魔族を倒しうるのは竜族の者だけだ。事実竜族が滅ぼされた後の世界は魔族に対抗できる者がおらず、他の種族が魔族に支配された世界となった」
「そっか、それでお父さんとお母さんはレインに私を託して育てさせたんだね」
私はレインの顔をじっと見る。話を始めると自分の気持ちがはっきりしてきた。もう私の心には恐怖はあっても迷いはなかった。
「私は……正直、この街が好きじゃなかったよ。それでもレインやミナたいなよくしてくれた人も居たから大事な場所だった。だから私からそれを奪った魔王と魔族は許せない」
「……」
レインはなにも言わない。ただ黙って私の話を聞いているだけだった。
「それに私のお父さんとお母さんを殺して自分の同族を殺したのもそいつらだって知ったらさ……私は魔王に二回も人生を狂わされてることになる。だから滅ぼすよ、魔王を。それが私の使命でもあるんでしょ?」
「……そうだ、お前の両親はお前が魔王を打ち倒すことを望んでいた」
レインは私の言葉に頷いた、ただその表情は険しいものだった。どこか私の言葉に思うところがあったのだろうか。まあ、今はそんなことは重要じゃない。
「それじゃ、行こう。今日から魔王討伐の始まりだ」
私は冷たい声でレインに告げると歩きだす。燃えている街のほうを振り返ることはもうなかった。歩いていく私をレインはしばらく見守っていたけど溜め息を一つつくと私に付いてきた。誰かに見守られることもなく私達は育った街から旅立っていく。
こうして私の魔王討伐のための旅は始まった。
竜の娘の英雄譚 司馬波 風太郎 @ousyo
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