第35話 招かれざる客


 フローベールから早馬を走らせ、丸一日。ギャスパールの手配で途中の村々で馬を交換しながら、アランは不眠不休で領土に帰るべく帰路を急いだ。

 すれ違う領民は皆、口を揃えてアランの帰りを祝ってくれた。怪我の有無を問う声に、フローベール領の惨状を憂う声、シヴィル領は平穏そのものだったという声、ひとつひとつに簡潔に返事をしながらも古城を目指した。


「アラン様、お疲れ様です。フローベール領はどうでしたか?」


 馬から降りるとローレンスが駆け寄ってきた。心配そうな口調だが、その表情は困惑に満ちている。「どうした?」と問いかけると一層と顔を歪ませた。


「あの手紙はなんだ? 姫になにかあったのか?」

「……いいえ」


 ややあって返ってきた言葉に首を傾げる。春子関係でなければ、なんだというのだろう。


「そういえば姫はどこに? 昼寝の時間はまだのはずだが」

「……侍女とご一緒です」

「侍女?」

「ええ、一週間ほど前から侍女がきまして」

「俺は聞いていないが」


 侍女を雇った記憶はない。まだ少女である春子の話し相手を、と考えたことはあるがデメリットの方が大きかったため断念した。

 立場をわきまえた領民が押しかけることはしないだろうし、ローレンスがアランに断りもなく雇うわけもない。最後の手紙が届いた直後に感じた嫌な予感が明白なものに変わる。


「姫のご様子は?」

「特には。変わりなく、いつも通りに過ごされています」

「そうか。その場所に案内してくれ」


 アランの頼みにローレンスは裏庭へと速足で向かった。

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