第22話 家族になるための努力
「あの、ちょっとよろしいですか、躾の事でお聴きしたいことが……」
彼女は、怪訝な顔をしてこちらを見た。
「はい……何か」
明は、今までの事を掻い摘んで話し始めた。
すると彼女は、
「公園でお見かけしていて感じていることがあるんですよ」
そんなに会っていた? いや……数えるくらいだぞ。
美佐はたかが数回で何がわかるのか? と、そんな気持ちで斜に構えていると,
「ご主人がいるときと、奥さんのときで、彼女? かな。は完全に使い分けていますよね。ただ、ご主人も辛うじて上と認めていますけど。何かあれば逆転しかねないですよ。この時期の訓練で、これから先の関係が決まると言っても大袈裟ではないんで。特に乳歯から永久歯生え変わるこの時期にしっかり教えてあげないと……」
そう言うと、ひょいとひなに手を出した。驚いたひなが、唸り噛みつこうとしたその瞬間、腹ばいにしてひなを押さえつけたので
思わず美佐は明に目配せしたが、明はじっとひなの様子を観察しているようだった。
最初はジタバタしていたひなだったが、少しすると静かになり体の力が抜けていく。
それは見ている美佐たちにも判った。彼女は徐に手を離し、起き上がったひなを褒めまくった。
それから、さっきと同じように手を出したが、ひなは当然のように彼女の手をペロペロ舐めている。
はぁ? なんだ? これ……マジックでしょうか。
「成犬になる前に、人の手に慣らせないと噛み癖が付くことがあります。彼女は利口なんだけど、勝ち気で、飼い主さんを守ろうとする気持ちが働くと思わぬ行動出てしまう。そうなったら可哀想です。でもちゃんと教えてあげれば、こんなに簡単に覚えるんですから。
それから奥さんはキャンキャンしないことです」
なによ! キャンキャンって。
「……後は遊ばせるときも主導権は飼い主さんにある事を忘れない。ワンちゃんが飽きるまで遊ばせない。
特にロープでの引っ張りっこするときは、必ずこちらが勝たなくてはだめです。それと要求されて遊んでいてはダメですよ。
ただ、私は敢えてロープはしません。体格の大きいとか小さいとか関係ないんです。何故なら、彼らは教えなくても骨を噛砕く力を持ってます。それは本能だから仕方ない。でもそれをやるぐらいなら、いっぱい体を触ってあげて下さい。とっても喜びます。
後、散歩。これは人間の都合で行ったり行かなかったりはダメ。
朝晩必ず、遅くなっても、雨でも雪でも必ず行ってあげる。そうすることで、待っていれば必ず約束を守ってくれる事が判ってくるんです。すべてが学びだから。
人とペットが暮らすには、お互いにルールがあること知らないと」
明は前のめりで聞いている。
それから日常的に名前を連呼しない事。叱る時に一声低い声で名前呼ぶ。基本的に人の手は優しくて暖かいものと教えてあげる。
だからスキンシップが大切になる。ストレスを発散させるのに一番良い方法は、バスタオルで手ををくるみ、その状態でに戯れさせる。その時は結構キャンキャンと興奮して噛みついてくる。
当たり前のように人の手の温もりを感じていれば、タオルを外すと必ずペロペロと舐めてくるようになるとも教えて貰った。
美佐が後から本人に聞いた話しで、彼女の母親が警察犬の訓練士だった事を知った。
すべてがひなに当てはまるかは別としても、明たちは教えてもらった遣り方を、ひとつひとつ確かめて行くことにした。
本当の家族になるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます