第19話 美佐! 危うし!

 美佐とひなの課題克服のため明は敢えて大型犬の飼い主さんに声をかけていた。

当然ひなは吠えまくり、美佐は動けなくなる。

ただ、大型犬は結構吠えられる事が多いという事で、ひなが吠えても大概の大型犬は鷹揚に構えている。それが唯つの救いだ。だからってこのままで良いわけ無いよね、と明と話をしている。

 そう、美佐だって判ってはいるのだ。自分がこの状況を克服出来ればひなも大丈夫なんだと。

でも、内心大型犬と会わないように祈っている裏腹な自分いる。まずこの精神状態をなんとかせねばとは思うのだが怖いものは怖いのだ。

 来る日も来る日も、当たり前のように明は大型犬に寄っていくものだから、とうとう「よく吠える犬」とレッテルを貼られたひな。

そんな中、明が突然手榴弾を投げてよこしたのだ

「美佐、僕明後日から一週間出張になったからね。ひなのことよろしく頼むね」

この明の爆弾発言に、美佐は心臓が止まったのか!ぐらいの衝撃波を食らった。私終わったわ。きっと死んでしまうかも。

 そしていよいよその当日は来てしまったのだ。

「じゃあね、行ってくるからね。頑張って」

半ば放心状態の美佐に、明は大丈夫、大丈夫だよ励まして出掛けていった。

然し、一番心配しているのは明だ。

健には普段言ったこともないような事を何度も約束させた。

手伝いは率先してすること。特にひな関係は自ら言う事。

美佐の話をちゃんと聞く事。少しでも可怪しかったら

父に連絡すること。

健は余りにも父親が真剣なので笑えなかったとあとから話すぐらいだった。


 明が出張に出掛けた日の夕方の散歩。

美佐は心臓が口から飛び出すのではないかと思うほど緊張していた。

公園に着くと、一発目に黒のラブラドール名前はクリチャンに出会ってしまった。

「こんにちはぁ……触って大丈夫ですか?」

「はい、ひなちゃんこんにちわ。どうぞ」

美佐は吠えるひなのリードを短くもつと、覚悟を決めてクリチャンの横に片膝をついて座り、良い子、良い子と声をかけながら背中を撫でさせて貰う。

ひなはその様子を見ながら、クリチャンの飼い主さんにやはり同じように撫で貰っていた。だんだん大人しくなっていくひなに、美佐も自分の緊張が解けていくのを感じていた。


クリチャンの飼い主さんに、会ったら背中を撫でる。尻尾を振り始めたら、顎の下を撫でる。毎回この繰り返しですよと教えてもらった。その間もひなちゃんが吠えたら、

イケないと教える事。二回言っても吠えたら、三回目は口を掴む。ウ~って喉を鳴らして反抗している間は絶対離さない事も教わった。なんとか散歩を終えた美佐はぐったりだった。

「母さん、上手くできた?」

「まあ、なんとかね」

「夕飯は? まだだね ひなの足洗うからご飯準備しようか」

「う、うん、了解、ではよろしくね」

なんとか夕飯を食べ終えた二人と一匹。

 午後十時、明から電話が入る。

盛りだくさんの話を聞いてあげる明。

「なるほどね、勉強になるじゃない。黒ラブ撫でられたなんて凄いよ美佐」

褒めまくりで電話を終えた明。

「良かった……泣かなかったよ美佐が」

初日は満点だと安堵する明だった。

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