第18話 絆とは

 ひなは何とかお散歩デビューを果たせた。が、美佐はまだ『呼び戻し』が出来ないでいる。『待て』は飼い主が合図を出すまで動いてはいけない。

明の言うことは聞くのだが、美佐が待てをかけて離れると、のそのそと後を付いて行ってしまう。

美佐が振り向くと止まる。

まるで『だるまさんが転んだ』をしているかのように止まる。

ひなが『だるまさんが転んだ』を理解しているとしたら、この子は天才だ。何たって全く動かないのだから。いやいや感心している場合では無い。明は美佐の悲鳴に近い声を聴いては溜息をつく。

「ひなちゃん! 駄目動いたら!コラ! ひな! 駄目! もう!

耳ないの! ひな!」

「美佐~声が高い! もっと低くして。名前はよっぽど怒っているときにしか呼ばないんだよ。判ってる?」

兎に角、この一人と一匹に手を焼く明だった。

 それに加えもう一つ問題発生。歯が生え替わるひなは、柱という柱を囓る、囓りまくりなのだ。

これも止めるのに必死な美佐。

トイレも出来たり出来なかったりと一進一退を繰り返し、美佐ははっきり言ってノイローゼになりかけていた。あの明るい美佐から笑顔が消えた。明と健は色々と慰めるのだが、全く効き目がない。

美佐に言わせれば、昼間いない人はなんとでも言える。何から何まで押し付けられている。なのにひなは懐いてくれない。

そんな負の感情に取り込まれ始めていた頃、美佐は辛くなるとひなを抱っこしてベランダに出ていたた。涙を流していると美佐の頰を必ず舐めるひな。

「ひなちゃん……お母さん頑張るから協力してね」

二人はそんな時間を度々過ごすようになった。

 それからだ。美佐が洗濯物を干したり取り込んだりしていると、ひなは必ずベランダに出て来て、抱っこ抱っことジャンプするようになった。

美佐は何気なく、

「ひなちゃん……ちょっと待てってね。待てよ~」

ひなはちゃんとお座りして待つようになった。

「終わった。はい! 良し!」

すると立ちあがるひなを抱っこすると美佐。

「何が見える? ほらわんちゃんが通ったね。赤ちゃん可愛いね」

ごく自然に始まったこの風景に、

明は驚きを隠せないでいた。

座って待ってる。

あのひなが、美佐の話しをちゃんと聞いているではないか。

絆は確実に強くなっている。それも自然体で。


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