第5話 名付け親は誰?

 お腹空いた……すいません!

お腹いっぱい空いた……

キュンキュン言えば判るかなあ?

『キュン~キュンキュン~』

 男の人がこっち見た! よし!よし。

 「そろそろ、この子にご飯あげないと。このフードをお湯で柔らかくして、水分と一緒食べさせるんだって。美佐やってみる?」

そうそうご飯だよ~よろしくね。

『キュンキュンキュンキュン』

「出来るかなぁ……やっみる!」

出来るかなじゃないよ~やって~

明と美佐は慎重にフードを量り

お湯でふやかす。

出来上がったばかりのゲージの中からあの子はジッとこちらを見ている。

美佐が傍に行くと、ぴょんぴょん兎みたに跳ねている。

『キュンキュンキュン』

美佐が抱きあげると大人しくなった。抱っこでご飯をあげて見たが上手くいかず、下に降ろしてお皿に入れ直しあげてみた。

「お父さん! 食べてるよ~」

「良かった。環境が変わると食欲落ちる事もあるらしいから」

お水もしっかり飲んでいる。

ふと時計を見ると、夕飯の支度をしなければならない時間だった。

美佐の焦る顔を見逃す筈もない明は、

「今日はデリバリー取ろう。健! 健! ちょっと!」

「何?~」

「今夜はデリバリーにするけど何食べたい?」

「ピザか、浜屋のかつ丼」

「私は親子丼。お父さんは?」

「僕もかつ丼だな」

この浜屋は作って待っていたのか? と言うぐらい出前が速い。

今日も注文から十五分ほどでしっかり来てくれた。

食べ始めてしばしの無言。

「ところでこの子名前決めたの?」

「まだだよ。家族会議しないと。ねぇお父さん」

「そりゃそうだね」

「じゃぁさあ、可愛くて呼びやすいのが良いなぁ」

健がブツブツ言ってる。

美佐も結構悩んでいた。一生ついて回るものだから。慎重に越したことは無い。

すると明が、

「それぞれ候補を二個ぐらい出そうか」

白いからミルク、ゆき 綿毛

テリアだからてりちゃん

脈絡なく、ケイチャン ミコチャン エリザベスなどなど。

「吟味するぞ。まずミルクは」

「白だからミルクはありがちだよ

絶対被る。そうなるとゆきも駄目だね」

あっさりと候補を消していく男性陣。

「綿毛は?」

「いちいち綿毛って呼ぶの? 縮めてワタちゃん? 全く可愛くないじゃん」

綿毛とエリザベスは美佐が出した候補だった。

「エリザベスは被らないよ!」

「父さん、俺外でエリザベス! なんて大声で呼べないよ。こっちが見られちゃう。絶対ハズい。却下にしてよ。だいたいエリザベスなんて呼ぶ柄か? うちら家族が」

美佐はふくれっ面を為て

「健言い過ぎ! 別に私ははずかしくないけどねっ」

健は全く美佐を相手に為てない。

「父さんこの子何月生まれ?」

「三月十一日だったかな」

「う~ん雛祭りの月だなぁ」

もも? 梅? 春? あられ?

「ひな、か、ひめ」

健が呟くと

「ひなかぁ……可愛いなぁ

ひめより、ひなだな」

明は偉く気に入ったようだった。

「じゃあひなに決まりだな。平仮名でひなだからね」

健が念を押す。

ん! 可愛い~ひなちゃん!

あなたは今日からひなちゃんですよ。家のひな姫誕生です。

ヒョ~可愛い!

「おい! ひな! お兄様が名付け親だからな。エリザベスは回避してやったぞ! 感謝しろ」

ゲージを覗き込んで言い聞かせている健を見て、やっぱりこの子にして良かったと美佐は心底思った。

もう~賑やかな人たちだ。

だけどね、私と同じぐらいの子はここにはいない。心細い。寂しい。

わぁ~この小っこい男の人なんか言ってる。

な……なに? ひ? ひ?

ひ……に……ひ……な……

『ひ……な?』

よくわからないけど……眠い……

「寝たよ……静に! お休みなさいひなちゃん……ようこそ笹山家へ」


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