第10話 Sランクってなんでそうなった


俺は宿に戻りベッドに腰掛けて考える。マリアとセラのことだ。

俺の役に立ちたいと言ってくれた少女達。ありがたいとは思うと言った言葉に嘘はない。

アストラ聖王国で行われようとしている勇者召喚。

まずはそれを止める。女神の神託によって行われようとしている召喚を止めると言うことは、俺は聖王国と敵対するかもしれない、対魔王の切り札である勇者召喚を止めるのだ、それにオルグの王族が関わっているとなると、聖王国からオルグは魔王に与する者として見られるだろう。魔王は人類共通の驚異だ、その魔王に与する国と世界に認識された場合オルグに未来は無い。そうなる可能性は高いと思う。そんなことにマリア達を巻き込むわけにはいかない。そう思いながらベッドに横になり眠りにつく。



目が覚めた俺はギルドへ向かう。

ギルドに入ると顔見知りになった冒険者たちが声をかけてくる。


「よう」


「昨夜は楽しかったな、また飲もうぜ」


俺も軽く頷きながら受付に向かい、サリーへ声をかける。


「ギルマスはいるか」


「おはようございますアサト様、少々お待ちください」


そう言って奥に向かい、しばらくすると戻ってきて、俺を2階に案内する。

ギルマスの部屋に入ると


「やっと来たか、おはよう」


「おはよう、遅く来たつもりはないが」


「とりあえずギルドカードを出してくれ、昨日のお前の魔物討伐の功績に対しての報奨を出さねばならんからな」


「カードに自動的に記録されるんだったな」


「ああ、とんでもない事になっていると思うが。サリー確認してきてくれ」


サリーがカードを受け取り退出する。


「ところで、今日、王宮で今回のスタンピード討伐の祝賀会が開かれることになったが、どうする?参加するか?」


「ああ」


「・・・お前の事だから参加しないと思ったが・・・」


「単なる気の迷いさ」


「そうか、参加するのなら気の迷いでも何でもいいさ」


しばらくすると、サリーが顔を青くしながら戻ってくる。


「ギルドマスターこれを見てください」


何か記録された紙を渡す。それを見てギルマスは顔を引きつらせながら言う。


「アサト、今回のお前の討伐に関する金額が出たが、魔物7,253体で56億3千万ギルだ、白金貨3枚、大白金貨6枚、黒金貨5枚だな」


「はあっ、なんだそれ」


「ギルドシステムで正式に出された金額だ。お前は大型で高ランクの魔物を見たこともない魔法で1人で殲滅したからな・・・アサト、この全額を一度に支払うことは出来ないから分割で支払うことになるがいいか、20億ギル黒金貨2枚はすぐに支払おう」


「大丈夫だ、そんな大金一度にもらっても使い道も無いしな」


「ギルドに預けてギルドカードで後から引き出すことも出来るぞ、世界各国のギルドで引き出し可能だ」


「じゃあ、それで頼む、今日の支払いも半分の10億でいい」


「そうか、助かる、それと昨日お前が倒した魔物の素材の買取分もあるからな」


「まだあるのか」


「ああ、さっきのは討伐に関しての金額だ、素材は別だ」


「そうか、じゃあその分は適当にカードに入れておいてくれ」


「はあ、適当にってお前・・・」


「あれだろ、今から昨日の後片付けをして、誰が倒したか選別して、それから試算するんだろ、いつハッキリするかわかんないだろうし、それまで王都にいるとは限らないからな、あんたを信用して任せるよ」


「お前、王都を出て行くのか」


「昨日も言ってただろ、俺にはやることがあるって」


「そうだったな、しかし残念だ、お前ほどの冒険者、ずっと王都にいて欲しかったが・・・」


「また、顔を出すさ」


「そうか、まあお前の人生だ、好きにするといい」


「ギルドマスター、ランクの件も・・・」


「おお、そうだったなサリー」


「ランク??」


「ああ、討伐数7,000越え、ギルドシステムはお前のランクをSと認定した」


「昨日、俺の権限の最高はBって言ってなかったか」


「登録時のランクの権限はギルドマスターにあるが、登録後の判断はシステムがするんだ、魔物のランク別の討伐数や依頼の達成率、ギルドへの貢献度などをシステムが査定してランクアップやダウンが決まる。ギルマスやギルド職員の個人的な判断はまったく加味されない。実績に応じた公平な判断ってことだ」


「とは言っても、俺は昨日登録したばかりのかわいい新人だぞ」


「「うそつけ(です)」」


「新人に間違いはないだろうに・・・」


「普通の新人は、高ランクの魔物を一撃で屠る何て事は出来ないんだよ」


「たまたまなのにな」


「「どこがだっ(ですか)」」


このやり取りに既視感を感じながら言う


「2人揃って俺を何だと思っているのやら」


「人外?」


「人の皮を被った人では無い者?」


まあ、当たってはいるんだが・・・


「お前らの認識はよーくわかった・・・しかし、そのギルドシステムとやらを作った大賢者ってほんとすごいな」


「大賢者様の残した功績はギルドだけでなく、様々な魔道具を開発し人々の生活を向上させたのです」


「他には無いのか?例えば勇者と共に魔王を倒したとか」


「仰るとおり、勇者パーティーの一員として魔王を討伐されました」


「おおっ、やっぱ過去にも勇者っていたんだな」


「有名な伝説ですよ、人間を滅ぼそうとした魔王を勇者、大賢者、剣聖、聖女のパーティーが討伐されました」


ふと、疑問に思った。その時の魔王は魔神の封印を解こうとはしなかったのだろうかと。


「魔王ってのが現れるのって周期があるのか?」


「いえ、それはわかっておりません、魔族の中から突然魔王という存在が現れます。魔王が現れると魔族や魔物の活動が活発になり、人の世界に攻め入ってくるのです」


「今回のもスタンピードじゃなく、単に攻め入ってきただけだったりしてな」


「「ハッ・・」」


「いや、そんなことは・・・しかし・・・サリー、他の地域にあるギルドに似たようなことがなかったか確認してくれ、万が一ということもありえるからな」


「承知致しました」


サリーが確認のために部屋を出て行く。


「なあ、魔神って知っているか」


「そりゃ知ってるさ、神話の時代に世界を滅ぼそうとした魔神は神々と戦い封印されたって物語だ」


「物語の中の話なのか」


「実際のところはわからん、本当にあったから物語として語り継がれてきたと言う説もあるが、皆、物語として聞いてるから知っているってだけだ」


「魔王と魔神って関係あるのか」


「それこそわからん、魔神は物語の中の存在って認識だが、魔王は過去何度か現れているからな」


「そうか・・・」


アストラ聖王国はまだ情報を秘匿しているんだな、まあそりゃそうか、魔王が誕生し、魔神復活を目論んでいるなんて知れたら世界中がパニックになってしまうからな。

勇者が誕生し、対抗できる手段が出来てからの発表になるんだろう、召喚できればだが。


「今日は王宮へはいつ行けばいいんだ?」


「夕刻に王宮前の広場に集合だ」


「そうか、じゃあ俺は後始末を手伝うとするか」


「頼んだぞ」


俺はギルドを出て、北門へ向かう。途中魔物をギルド方向へ運んでいる冒険者達と何度もすれ違う。


北門の外では大勢の冒険者や騎士達が魔物の死体を集めており纏まったところでギルドへ運んでいるんだろう。まだ数は多く終わる目処はたってないようだ。俺は指揮を取っている冒険者へ声をかける。


「俺のアイテムボックスを使って運ぼうか」


「アサトさんか、あれだけの魔法が使えるんだ、アイテムボックスを持ってても不思議じゃないか、頼めるか」


「ああ、まかせとけ」


俺は手を魔物たちが転がっている方へ右手を向けて唱える。


「収納」


次の瞬間、目の前の魔物たちは一瞬でアイテムボックスへ収納される。


「「「「・・・・何が起こった・・・」」」」


作業していた冒険者達が固まっているが、声をかけた冒険者が大声で


「皆、アサトさんが魔法で片付けてくれた、今からギルドまで運んでくれるそうだ」


「「「「おおおっ」」」」


冒険者たちの歓喜の声が響く、数日かかると見ていた後始末が一瞬で終わるんだ、そりゃ喜ぶだろうな。そのまま大勢の冒険者を引き連れ置き場所であるギルドの訓練場へ向かい、これまた一瞬で魔物たちを積み上げる。そこでまた


「「「「おおおっ」」」


冒険者達が声を上げる。その光景を見てたギルド解体班の長であるダールがため息を吐きながら


「アサト、またお前の仕業か」


「おいおい、俺のおかげで外の片付けが早く終わったんだぞ、感謝くらいしたらどうだ」


「俺達解体班は今からが地獄だぞ、これだけの魔物の解体が待ってるんだからな」


「まっ、頑張ってくれ」


「ハァ、これも仕事か」


「そういうことだ、あとは任せたぞ」


そう言って、ダールや付いてきた冒険者たちに後は任せて帰る。

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