第9話 迷惑だって言ってるだろ
「覚えていたらな、じゃあ頼んだぞ」
ギルマスにそう言って周りを見渡し、怪我してる奴らを片っ端から回復し、宿に戻ろうとしたところで、ギルマスの声が響く。
「皆、今日は帰ってゆっくり休んでくれ、そして今夜ギルドで打ち上げするぞ」
「よっしゃやったぁー」
その声で皆それぞれ自宅へ帰っていく。俺は打ち上げに参加しないと言うと
「何言ってんだ、お前が来なくてどうする。お前が主役なんだぞ。サリーこいつを迎えに行ってギルドまで連行してくれ」
「わかりました、任せてください」
「ハァ、好きにしろ」
俺は溜息をつきながら宿に帰ると、ベッドに倒れこみ眠りにつく。
夕方近くに目が覚め、クリーンの魔法で全身を綺麗にし、椅子に腰掛け一服しているとドアをノックされ開けるとサリーが立っていた。
「さあアサト様参りましょう」
サリーさんに左腕に抱きつかれ連行されていく。振りほどこうと思えば振りほどけるが、腕に感じる包まれるような柔らかな感触に為すすべもなく連行されて行く。
「みんな、昨夜はお疲れだったな。信じられないことに負傷者はいたが死人は0だった」
「おおおっ」
「負傷者も魔法で回復している、俺たちの完全勝利だ、みんな酒は行き渡ったか、では、俺達の勝利を祝して乾杯」
「「「「乾杯」」」」
歓声が聞こえる中で、
「俺は何人も魔物に吹き飛ばされて絶命したやつを見たんだが、誰も死んでないって言ったよな」
「ああ、俺も見たけど・・・」
「お前らなにしみったれた顔してんだ」
「「おっ、お前死んだんじゃ・・・」」
「ああ、なんか仮死状態ってやつだったらしいんだけど、回復魔法かけたら目を覚ましたって言われた」
「「そっ、そうなのか・・・」」
「ギルマスが言うには何人も俺と同じ状態だったらしいぞ、まあ取り敢えず生きてるんだ、今夜は飲もうぜ」
「そうだな、お前が生きてるんだ、うれしいことだし楽しむか」
ギルド内だけでは入りきれない為、外にもテーブルや椅子が置かれている、ギルド内の酒場だけじゃ対応できないだろうと思っていたが、王都中の食堂や酒場が食事や酒を提供してくれているらしい。王都を守ってくれた冒険者に対してのお礼とのことだ。
俺は最初の頃は大勢の冒険者に囲まれて次々にお礼を言われ一緒に飲んでいたが、今は隅のテーブルで周りのみんなの笑顔を眺めながら1人飲んでいた。
「おいおい、今夜の主役が何1人で黄昏ているんだ」
「ギルマスか、・・・俺はこんなのに慣れてないんだ、すっと1人で戦ってきたからな」
「1人で戦ってきたとは言っても、今日みたいに感謝はされていたんだろう?」
「俺は人知れず戦い守ってきた。誰も俺のことなんて気づいてなかったのさ、と言うか、誰も俺の存在なんて知らなかったしな・・・いや一度だけ感謝されて泣かれた事があったな」
俺は地球時代のことを思い返す。俺が邪悪な宇宙人と戦うことで日本を、世界を侵略から守ってきた、それによって、理不尽に命を奪われることなく、みんな笑顔で過ごすことが出来た、俺はみんなの笑顔が好きだ、笑顔を守る為に戦ってきた。それを知って欲しかったとは思わないし、感謝して欲しいとも思わない。ただあの時だけはうれしかった、俺に感謝してくれる女の子達がいたって事が、俺の為に泣いてくれるあいつがいたって事が。
「・・・・お前がどれだけ戦ってきたのか俺にはわからん、だがここにいる連中はお前に感謝している、お前のお陰で家を家族を街を守れたんだからな。」
「ああ」
「見つけたっ」
そんな声が聞こえたと思ったら、背中から抱きつかれた。
なんだと思いながら振り向くと白銀髪の女の子が俺に抱きついていた。
「げっ」
「げって何よ」
俺はセラに抱きつかれていた。俺の言葉に頬を膨らませながら抱きつく力が強くなった。
「おいおい、嫁入り前の子が男に抱きつくなんてはしたないだろ」
「未来の旦那様なんだから構いませーん」
「ハァ・・・・」
「セラ、いきなり抱きつくなんてはしたないですわよ」
そこにマリアまで現れる。
「お前たちは何をしてるんだ、こんな時間にお姫様達が出歩くもんじゃないだろ」
「保護者同伴だからいいのです」
マリアがそう言って後ろを振り向くと、豪華な服を来た男が数人の護衛のような男を引き連れギルドに入ってきた。ギルマスが固まり呟く。
「国王陛下・・・」
その瞬間、俺以外の周りの冒険者たちが平伏する。
「皆の者、立ち上がってくれ、本日はそなたたちが主役なのだ、平伏する必要はないぞ」
国王にそう言われ戸惑いながらも立ち上がる。
「皆の者、この度は良くやってくれた。皆の活躍で王都が、国が守られた。本当にありがとう」
そう言って国王が頭を下げる、国王が頭を下げたことにギルマスや冒険者たちは驚愕し、固まってしまう。
俺はセラを背中にぶら下げたまま立ち上がり、
「頭を上げてくれ、別にあんたの為にやったわけじゃない」
その言葉に護衛達は激怒し詰め寄ってこようとするが、頭を上げた国王に止められる。
「そなたがアサト殿か」
「ああ」
「マリアやセラを守り、そして今度は王都を守ってくれたことに感謝する、ありがとう」
そう言って再度頭を下げる。護衛たちが止めようとするも、
「救国の英雄に感謝を伝えて何が悪いというのだ」
そう言われては護衛たちも黙ざるを得ない。
そうして国王は全体を見渡し言う。
「冒険者の諸君、此度の活躍に国からも報奨を出そうと思う。」
「「うおおおっ」」
冒険者どもが歓声を上げ、マリアが続ける。
「後日、ギルドを通して皆様へお渡しできるように致しますので、しばらくお待ちください」
そこからは無礼講とばかりに国王を交え宴会は続く。
「たまにはいいもんだのう、民達と酒を酌み交わすのも」
国王はギルマスや面識があるのであろうAランクと思われる冒険者達と飲んでいる。
護衛の奴らも大変だなと思いながら、今だ背中にしがみついてるセラをそのままにして、マリアの相手をする。セラを振り下ろす事はできるが、背中に感じる控えめな2つの膨らみが俺の抵抗力を奪っているのだ。
「どうして急にいなくなるのですか、助けていただいたお礼もお渡ししたかったのに」
「そうだよ、うちの家族に紹介しようと思ってたのに」
「おいおい勘弁してくれ、俺たちは昨日知り合ったばかりだぞ、なんでそんなことになる」
「貴族の結婚なんてそんなものだよ、結婚式当日まで顔を合わせないってこともあるし」
「俺は貴族では無いし、結婚するなんて言ってないだろ、それにそんな面倒くさい事に関わっている暇はないんだ」
「面倒くさいって言われましたよ、セラ・・・そもそもやらなければならないことって何ですの?」
「お前たちには関係ないことだ」
「私たちに協力できることであればお力になれるかと思いますが」
「無理だな」
ここでセラを剥がしてマリアの横に座らせる。
「俺はこれから他の国に行ってやらねばならないことがある、もしかしたら危険な目に遭うこともあるかも知れない。そんなことにお前たちを巻き込むわけにはいかない。」
「それこそお力になれると思うのですが。オルグ王国の王族が関わっていると知れれば他国の王族も協力してくれるのではないかと思います」
「必要ない」
「いえ、私たちは決めたのです、少しでもアサト様の役に立ちたいと。ですから教えてください、きっと役にたちます」
「お前たちがそう思ってくれるのはありがたいとは思う」
「では」
「だがな、正直言って迷惑だ」
「えっ・・・」
「俺がどこへ行き、何をするかわかりもしないのに役に立つってなぜ言えるんだ?それこそ迷惑になるかもとは思わないのか」
「「それはそうですけど(だけど)・・・」」
「お前たちの役に立ちたいと言うその思いを俺に押し付けるな」
「押し付けてるなんて・・・そんなつもりは・・」
マリアとセラは俯いて黙る。
「アサト殿、あまり娘たちを苛めないでくれないか」
国王とギルマスか。
「こいつらがあまりに聞き分けないからな、あんた子供の育て方間違ったんじゃないのか」
「確かに甘やかしすぎたかとは思う、だが人を思いやるいい子に成長したはずだが」
「俺の国には「小さな親切大きなお世話」って言葉がある、簡単に言うとする方は親切だと思ってするが、される方からすると迷惑だって意味だ。マリアは確かに俺を思って言ってくれているのかもしれない、だがそれを俺は迷惑だと言っているのに自分たちがやりたいって気持ちだけで押し通そうとする。自分の気持ちだけで動こうとするんじゃなく、相手の気持ちを考えないといけないんじゃないか」
「たしかにその通りだとは思うが、この子達も自分なりに考えて出した結論だと思うのだ、その気持ちをわかってくれないだろうか」
「自分の気持ちを押し殺してまでこいつらの気持ちを優先させるわけないだろう」
俺の言葉に護衛が激怒したようで。
「貴様、先程から聞いていれば国王様や姫様に向かっての暴言の数々、救国の英雄だか何だか知らんが不敬であろう」
「俺はここの民でも何でもない、その俺がなぜ敬わなければならないんだ」
その言葉に護衛は剣を抜こうとするが、俺の威圧で動けなくなる。
「アサト、あまり虐めるな」
ギルマスの言葉に威圧を止める。
護衛たちは息を吹き出し尻餅をつくように倒れこむ。
「これ以上俺に関わるな・・・この話はこれで終わりだ、ギルマス、俺はもう帰る明日また来る」
俺は話を無理やり切り上げてギルドを後にする。冒険者達はまだ楽しそうに飲んでいるが、
明日は戦いの後始末もあるのに大丈夫かと心配になるが、たまにはいいかと宿に戻る。
俺が帰った後のギルド内では
「国王様、アサトはマリア様やセラ様を危険な目に合わせたくないのでしょう、あんな言い方ですが俺はそう感じました」
「アサト殿は一体、何を成そうとしているのか・・・」
「きっと我々では考えの及ばぬような事なのでしょう」
「だからこそ、少しでもアサト様の力になりた「マリアっ」い・・・なんでしょうかお父様」
「マリアもセラも、もうアサト殿に関わることを許さぬ」
「「なぜですか」」
「あの男の行く道にお前たちが居ても何の役にもたたん、アサト殿が言ったように足手まといになるだけだ」
「「でも」」
「これは国王としての命令だ」
「「・・・・わかりました」」
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