第8話 圧倒的

ここは王宮の一室

この部屋にはオルグ王国国王と宰相ヘルドがいた。


「陛下、王都の民たちの避難はほぼ完了致しました。陛下も避難をお願いいたします」


「余はここで吉報を待つ」


「しかし、万が一の事を考えた場合、避難された方がよろしいかと」


「いや、余は国王である、国王であるからには、最後までこの国の行く末を見届けなければならない、それにマリア達が言っていた男もまだ王都に居るはずだろうからな、その男が何者かはわからん、味方してくれれば良いが・・・」


「承知致しました。であれば私も最後までお供いたしましょう」




別の部屋では


「とんでもないことになったねマリア」


「そうですわね。セラも避難したほうがいいのではなくて」


「マリアはどうするのよ」


「私はこの国の王女として、お父様と共に残るわ」


「じゃあ、私も残るよ、それに確信があるんだ、きっと王都は守られるよ」


「貴女もそう思っているのですね」


「うん、だって今王都にはアサト君が居るはずだもん、アサト君が守ってくれるよ」


「私も同意見ですわ、あの方がいる限り王都は守られますわ」




俺は今、ギルマスの制止を振り切り、城門の外で魔物を待ち構える騎士団や冒険者達の先頭に出て魔物の方を睨みつけるように立つ。


「おい、あいつは誰だ?あんな奴いたか」


「あれだよ、ギルマスに模擬戦で勝った奴だ」


あちらこちらから俺に対しての声が聞こえるが気にしない。そうしてると城門の上からギルマスの声が響く。


「みんなよく聞け、初手はそいつに、アサトに任せるんだ、策があるようだからな、その後は各自の判断に任せるが、これだけは言っておく、死ぬな。それだけだ」


それだけ言うとギルマスは後ろに下がりながら


「結局、こうなっちまったか、何が圧倒的な質は量を凌駕するだ・・・まあ、見せてもらうぞ、お前の本当の実力を」


1万の魔物の群れが近づいてくる、ゴブリン、オーク、オーガ、トロール、サイクロプスなど様々な種が向かって来ている。


「おい、サイクロプスまでいるぞ、やばいんじゃないか」


「ああ、ゴブリンやオークまでは何とかなっても・・・」


「逃げたほうがいいんじゃないか」


「バカ野郎、今更どこに逃げるって言うんだ、もう城門は閉じられているんだぞ、やるしかねえんだ、腹くくれ」


冒険者達の怯えながらも戦う決意の言葉を聞きながら、よし、行くか、そう思いみんなの方へ振り返り、


「いいかぁ、俺が数発どでかい魔法をぶっぱなす、その後全員で突撃するぞ」


「おおおっっ」


全員の声が響き渡る。


俺はゆっくりと右手を上げ人差し指を天に向かって立てる。そう、この世界に来て初めて試したあの魔法だ。


俺が指を立てると、夜空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き空が光る。


「なんだ、一体何が起きてるんだ」


騎士団や冒険者たちは何が起ころうとしているのか恐れおののいている。


「サンダー○○ーク」


そう言うと、空から雷が俺に降り注いで来る


「アサトっ」


ギルマスの声が聞こえるが、俺は気にせずに右手人差し指を魔物向ける。

すると、俺に降り注いた雷が何本もの稲光となり群れの奥に居る、トロールや、サイクロプスなどの大型の魔物へ向かって走り、目を瞑るほどの光と耳を塞がねばならないような轟音を立てながら焼き尽くす。

光や音が収まったあとには、大型の魔物達の姿は消えていた。

唖然としていた冒険者たちはそのことに気づくと


「うおおおおおおっっっ」


と歓声をあげる。


「すげえすげえ」


「なんだ、今のは」


「でかい魔物達が消えている、やれる、やれるぞぉぉ」


城壁の上に陣取るギルマス達も我に返ると、


「一体何が起こった、これはアサトがやったことなのか」


「アサト様の魔法でしょうか、あれほどの魔法が存在するなんて信じられません」


俺は冒険者達に向かって言う。


「まだ突っ込むな、減ったとは言えまだ数千の魔物が居る、もう少し減らすから、突っ込むのはそれからだ」


俺の魔法の威力を肌で感じた冒険者たちは突入を止めて俺に注目する。


「○○○ハリケーン」


やはり好きだったロボットアニメの技だ、たしか竜巻じゃ無かったような気もけど。

俺は風魔法で数本の竜巻を作り、群れに向けて走らせる。魔物達は竜巻に巻き上げられて、風の刃で切り刻まれて地面に叩きつけられる。


竜巻が収まった後には無数の魔物の死体と、生き残った3,000体程の魔物達であった。


「今だ、行くぞ」


俺の言葉と共に冒険者達が突っ込み、城門の上からは魔法使い達の魔法が魔物へ向け飛んで行く。

俺も、大和を手に突っ込む。大和の性能は驚く程高く、ひと振りで5つ程の斬撃を飛ばし、魔物を切り裂いていく、冒険者を巻き込まないように注意しなければならない程に。



その頃一人の騎士が王宮へ駆け込み報告を行っていた。

今はマリアとセラも同室している。


「申し上げます、1万の魔物は1人の冒険者の魔法で7千が討伐され、残り3千を現在、騎士団と冒険者達で討伐しております。間違いなく、王都は守られるものと思われます」


「おおっ、それは誠か」


「ハッ、間違いありません」


「そうか・・・良くやってくれた」


「ひとつ教えてください、その魔法を使った冒険者のお名前とかわかりますか」


「申し訳ありませんが、名前まではわかりかねます」


「では、どの様な人物かだけでもわかりませんか」


「黒髪黒目で薄い青色の見たこともない服を着ていました。靴も見たことのない赤い靴でした」


その言葉を聞いたマリアとセラは、目を輝かせながらお互い抱きしめ合い喜び合う。


「やったやった、アサト君だよ、アサト君が守ってくれたんだよ」


「ええ、ええ、さすがアサト様ですわね」


絶体絶命のピンチを2度も救ってくれた英雄に2人の少女は完全に落とされてしまった。


「お前たちの報告にあった男か」


「はい、そうでございますわお父様」


「そうか、これは神のお導きか、このような時にそんな男が王都を訪れるとは・・・

よし、報告ご苦労であった。そなたも任務に戻ってくれ」


「ハッ」


明け方近くに戦闘は終了した、最後の魔物が倒されると騎士団や冒険者達が勝鬨を上げ、魔物は完全に討伐された。


俺が城門の中に戻ろうと歩いていると、騎士や冒険者たちから声をかけられる。


「ありがとう、君のお陰で王都は守られた」


「あんたが居たから俺たちは勝つことが出来た、家族を、みんなを守ることができた、今度一杯奢らせてくれ」


そう言われるが、なんと返していいかわからず、頷くだけにしておく。


戦いには勝った、だが少なくない犠牲も出たようだ。

ギルマスの所へ行くと、亡くなった者達が並べられていた。


「死人はこれだけか」


「アサトか、ああ、あの規模の戦いにしては少ない、だがこれだけ死んでしまった。こいつらも街を守ろうと戦った結果だ。悔いは無いだろう」


「・・・・いいか、これから起こることは他言無用だ、この戦いで死んだものはいない。わかったな」


「・・・何を言ってるんだ、これだけ死んでるんだぞ」


俺は何も答えずに唱える


「リワインド」


黄色く輝く光が亡くなった者達を包む。


「なんだ、この光は」


ギルマスが驚くが気にせず続け、光が収まると、呻き声を上げながら、冒険者たちが起き上がる。


「なんでこんなとこで寝てたんだ?」

「はっ、戦いはどうなった」


ギルマスを見ると大きく口を開けて固まっていた。


「しっかりしろ、俺は行くから後始末は頼んだぞ」


ギルマスは我に返り、


「ちょっ、ちょっと待て、なんだこれは、なんで生き「黙れ」・・・」


「こいつらは死んだように見えたが実は生きていて、回復魔法で治った、いいな」


「あっ、ああわかった、いやわかってはいないが・・・後で聞かせてくれるんだろうな」


「覚えていたらな、じゃあ頼んだぞ」



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