第6話 ギルドにて
俺は建物の屋根の上に転移した。裏路地の人気のない辺りだ。
「さて、これから冒険者登録して稼がないとな。」
そこで、お礼を受け取ってから消えたほうが良かったかなと思いつつ、あのまま王宮まで付いて行っていたら、絶対に面倒なことになっただろうと思いつつ屋根から飛び降りて、ギルド目指して歩き出す。
街の人に道を聞きながらギルドに着くと扉を開けて中に入る。中はラノベの中のギルドそのものだった。周りを見渡すと受付や酒場、依頼ボードがあり夕方だからか冒険者が依頼の達成報告の為に受付に並んでいた。受付はいくつか有り、その中の1つに並ぶ。
周りを見て気づいたことがある。それは俺の服装が浮いているということだった、俺の服はTシャツの上にデニムのジャケット、所謂Gジャンというやつで、ズボンはジーパンで靴はハイカットの赤いスニーカーだった。よくマリアやセラ達はこの格好に対して何も言ってこなかったもんだと思いながら周りの冒険者たちが見てくるのを気づかないふりして順番が来るのを待つ。
「やっと俺の番か・・・」
「冒険者ギルドへようこそ」
「冒険者登録がしたい。」
「わかりました、ではあちらの受付へ移動しましょう」
他の職員に受付を頼み、俺を案内する受付の女性だが、なかなかの美人であった。髪は茶髪で背は160前後の細身の巨乳・・・巨乳か、悪くはないが減点だな。だが他の冒険者達からは人気あるだろうなと思いながら付いていく。
「そちらにお掛けください」
「ああ」
案内された受付の椅子に腰掛ける。
「私は当ギルドで受付をしておりますサリーと申します、これから宜しくお願いいたします、ではこちらに記入をお願いします。」
渡された紙に目を通すと、名前・職業・魔法属性etc.・・・
職業は戦士で、属性は火でいいかと書き込んで渡す。
「アサト様ですね、職業は戦士で・・・・戦士で魔法が使えるんですか」
そう言いながら驚いた顔をする、戦士でも魔法使えるよね・・・
「戦士で魔法っておかしいのか?」
「戦士と言ったら武器を使って戦う職業で、魔法使いは魔法で戦います。両方使えるなんて聞いたことありません。」
「両方使えるんだが、どうすればいい?」
「何分、前例が無いので何とも言えませんが・・・」
「じゃあ、戦士って事で頼む。」
「・・・わかりました、戦士で登録させていただきます、この後適正試験を受けていただきますが宜しいですか?」
「何をするんだ?」
「試験官と模擬戦を行っていただきます。最低限の力がないと依頼を受けてもすぐ死んでしまう若い冒険者も少なくないので確認させていただきます」
「わかった。」
「では、付いてきてください」
サリーさんに付いて行くと訓練場の様な所に連れて行かれる。
「えっと、試験官は・・・あれっギルドマスター」
「おう、サリーか、どうした?」
「今から適性試験なんですけど、試験官のデビットさんが見当たらないんですよ。」
「あいつは急用があるって言って帰ったぞ。」
「ええっ・・・どうしましょう」
「なんだ、そっちの妙な格好してる男か、よし暇だから俺がやってやる。」
ギルドマスターってここのトップだよな、それなのに暇って何やってるんだ。
「ちょっ、ギルドマスターは元Sランクなんですから、手加減してくださいよ」
そう言いながら、俺の書類を渡す、ギルドマスターが相手なら丁度いい。
「ほう、戦士なのに火の魔法が使えるのか、おもしろいじゃねーか。俺はギルマスのジャックだ、お前の名前は?」
「俺はアサトだ。一つ聞くがSランクって強いのか?」
「アサト様、Sランクって言ったら冒険者のランクではかなり上位になります。その上はSSSとSS、SからSSランクの冒険者は、全体の数パーセントしか存在しませんしSSSに至ってはランクはありますが、今まで1人も到達していません」
このギルドマスター元Sなのか、そうとう強いんだろうな。
「わかった、なら俺の力がどれくらいなのか確認したいから全力を出してくれないか。」
「ダメですよ、ギルドマスターが本気だしたら、冒険者でもない貴方は一瞬で死んでしまいます。」
「まあ待てサリー、よっぽど自信があるようだがいいのか」
「構わない。」
「わかった。魔法も使えるんなら魔法も使っていいからな。」
俺は軽く頷く。
ギルマスが試験官をするって事で、訓練所の中にいたほかの冒険者たちが周りを囲んで見物するようだ。
「武器は木剣でいいな。」
そう言いながら木剣を投げて寄越してくる。それを受け取り、振って感触を確かめる。
「ルールは相手を再起不能にしたり、殺してしまうような攻撃は禁止、勝敗の判断は私が行います。」
「よろしく頼む」
「もう、どうなっても知りませんからね・・・適性試験始めっ。」
「まず初手はアサトに譲ろう、かかって来い」
俺とギルマスの距離は約10m、俺は一瞬でギルマスの懐に飛び込み剣を一閃する。ギルマスはなすすべもなく訓練所の壁に叩きつけられる。
手加減したつもりだったが、ギルマスは起き上がってこない。
唖然とするサリーさんと見物している冒険者達、
「おい、今何が起こった」
「・・・わからん」
「勝敗は?」
ハッとしたサリーさんが言う。
「勝者、アサト様」
その瞬間、冒険者達から歓声が上がる。
「すげー、ギルマスを瞬殺だせ」
「やった、大穴来たぁぁ」
おいおい、賭けてたのかよ。
「ギルドマスター大丈夫ですか」
サリーさんが駆け寄っていく。何度か肩を揺するとうめき声が聞こえるが大丈夫だよな、手加減したから大丈夫なはず、そう思いながら近づいて行くが完全に気を失っている。
「ヒール」
ギルマスに回復魔法をかけると、やっと目を開ける。
「お前、回復魔法も使えるのか」
そう言いながら立ち上がる。
「えっ、」
サリーさんが唖然とする。
「火の魔法以外に回復魔法も使えるんですか?戦士なのに魔法が使えて、しかも2属性も。ありえません、人族に使える魔法は1人1属性が常識なんですよ」
俺はサリーさんにウインクしながら、ギルマスに問いかける。
「ギルマス、俺は合格か」
「当然だろ、俺を打ちのめす事ができるんだ。それを落とすようじゃギルマス失格だ・・・アサトと言ったか、ちょっと俺の部屋までサリーと付いてこい」
??と思いながらサリーさんと付いて行く。
部屋に入り3人掛けのソファーに腰掛ける。前に1人掛けのソファーは2つあり、
ギルマスとサリーさんが腰掛ける。
「で、単刀直入に聞く、お前何者だ?」
「俺か、そこら辺にいる新人冒険者(仮)だ」
「なんで(仮)なんですか?」
サリーさんに聞かれるが、
「合格とは聞いたが、まだカードもらってないからな」
「そんなことはどうでもいい、冒険者にもなってない男が元Sランクの俺に勝つって事がありえないんだが」
「たまたまだ」
「「たまたまで勝てるかっ(ません)」」
「あまり人の事情を詮索するのはダメなんじゃないのか」
「そうですね、冒険者たるもの最低限の情報しか開示しないのが常識ですし」
「だが気になる、一瞬で俺を倒した腕とその後の回復魔法・・・サリーの言ったように、人族ってのは魔法を使える者は1人1属性が常識なんだ、なぜお前は火と回復、2属性も使えるんだ?」
「たまたまだ」
「「んなわけあるか(ありません)」」
「まあ、気にしたら負けだぞ。使えるんだから」
「ハァ・・・言いたくないなら聞いても無駄か」
「そうそう気楽に気楽に」
「まあ、冒険者として活躍してくれそうな奴が現れたってことだけでいいとするか」
「それで、お前のランクだがどうするか・・・元とは言えSランクの俺に勝つんだ、Gから始めさせるわけにはいかん」
「でも、いきなり高ランクからだと、他の冒険者たちがアサト様に何を言うかわかりませんよ」
「試験を見てた連中は何も言わんだろ、目の前で俺が倒されたんだからな、それにちょっかい出されても、こいつなら返り討ちにするだろ」
「それはそうでしょうけど」
「おいおい、俺は常識人なんだぞ」
「「どこがだ(ですか)っっ」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よし、俺の権限で与えられる上限のBからスタートだ」
「いきなりBランクですか、まあBでも足りないのではと思いますが・・・」
「サリー、カードを用意してくれ」
「承知致しました」
サリーさんが退出していく。
「でだ、正直なところ魔法は2属性どころじゃないだろ」
「なんでそう思うんだ?」
「勘だ、Sランクとして戦ってきた俺にはわかる、お前には強者の匂いがする。で、何属性なんだ?教えてくれないか」
「お前は何属性使えると思う?」
「火と回復、水や土も使えるとして4属性くらいか」
「いや、5属性だな」
ちょっと少なめに言っておこう。
「・・・・えっ」
そのまま固まるギルマス・・・・その間俺は出されていた紅茶を飲んで戻ってくるのを待つ。
「ぷはっ、はあはあ・・・」
「戻ってきたか、いいか、あんまり言いふらしたりするなよ」
「とっ、当然だ、こんなことが国や他国に知られたら争奪戦が始まる、戦争になるかもしれないんだぞ」
「なんで戦争?」
「当たり前だ、お前を引き込むことが出来れば絶対的な戦力になるんだ、ほっとくわけがない」
「だからか、さっきもマリアって王女から誘われたしな」
「マリア王女か、どういう経緯で誘われたんだ?」
俺は出会いからオーガ討伐、別れまでを簡単に説明する。
「逃げてきたのか、下手すれば追われるぞ」
「それは大丈夫だろう、取り込もうとすれば国が滅ぶぞと言ってあるしな」
「・・・できるのか?」
「簡単だ、やらないけどな」
そう話していると、サリーがカードを手にして戻ってきた。
カードをジャックに渡す、それのカードを確認し俺に渡す。
「サリー説明してやってくれ」
「はい、シン様にお渡ししたカードがギルドカードで、身元の証明やランクなどの情報が記載されています。依頼の達成情報から賞罰まで様々な情報も記載されます。討伐の依頼を受けた場合、倒した魔物の種類やランクに数、日時も自動的に記録し、カードをギルドに提出することで達成か失敗かを判断いたします。倒した魔物を持ち帰らなくてもカードから討伐数などを確認できますが、魔物から取れる素材も高額で買取致しますので、持ち帰ってきていただけるとありがたいです。」
「魔物を倒すと自動的に記録されるのか、どんな技術なんだ?」
「過去に大賢者様が作り上げたシステムで、現在では誰もその内容を理解出来ておりません」
「すごいな大賢者」
「それよりさっきの話だが、街道の近くにオーガが出るなんてありえない、まさかとか思うが森の中で何かが起きているのか」
「えっ、どういうことですか?オーガがどうしたんですか?」
「街道沿いに現れたらしいが」
「そんなっ、ありえないです」
「いや、ほんとだぞ、オーガの死体も持ってるぞ」
「3体現れたと言っていたが、3体分あるのか」
「ああ、あるぞ」
「じゃあ、見せてくれ、サリー解体所へ行くぞ」
そう言って移動する。
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