第5話 マリア視点



私とセラは王都に向かう馬車の中でした。王都で開かれる15歳の成人の儀に共に出席する為に、オルグ公爵領地までセラを迎えに行って王都に戻る途中でした。

迎えに行かずともセラは王都に来るはずでしたが、久々のセラとの再開に待ちきれず、領地まで迎えに行ったのです。

私達は成人の儀を終えた後に王都の魔法学校に入学、3年間を過ごし、卒業後に次世代の女王としての教育が始まり、いつかは今はまだ見知らぬ殿方と婚約、結婚をすると言う道筋が決められようとしていました。その後は女王としての国を発展させる為に働かなくてはなりません。魔法学校の3年間が私達にとって、最後の自由を満喫できる期間でしたので、少しでも長く自由を満喫出来るようにセラを迎えに行ったのです。

そこに私の人生を、価値観を根底から覆すことになるであろう出会いがあるとは知らずに。

10人の騎士達、執事のセバス、メイドのリンと共に街道を王都に向かっていると、騎士達の慌ただしい声が聞こえ馬車が止まりました。


「どうしたのでしょう」


「お嬢様、私が見てまいりましょう」


セバスが馬車の外に出ていきますが、すぐに戻ってきました。


「魔物です、3体のオーガが現れたのです」


オーガ、高ランクの魔物です。


「なんでオーガがこんな所に出てくるのよ」


セラも驚きながら顔を青ざめさせています。


「お嬢様方、大丈夫でございます、この馬車は騎士団の精鋭10名に守られています」


「そうですわね、騎士の方々がいらっしゃいますものね」


外からは戦いの音が聞こえてきます。その時馬車に衝撃が走りました。

打撃音と同時にバキバキと言った音が聞こえて、思わずしゃがみこんで目をギュッと瞑りました。


「グオォォォ」


悍ましい唸り声が聞こえて目を開けると、馬車は壊されその先にオーガがたっていたのです。あまりの出来事に唖然としていると


「キャアーーーー」


セラの叫び声が・・・・

セバスとメイドのリンが共に私とセラを庇うように前に出ています。


騎士が馬車からオーガを引き離そうと攻撃を仕掛け、オーガはうっとおしそうに騎士に向かい手に持った棍棒で騎士をはじき飛ばします。

外をよく見ると、立っている騎士たちは3人だけです。3人の騎士は馬車を守るように戦っていますが、全滅は時間の問題でしょう、そのあとは私たち4人の番です。

私は神に祈りました、隣を見るとセラも胸の前で手を組んで祈るようにしています。


「クソッ、なんでこんな街道にオーガが出てくるんだ、しかも3体も。オーガって森の奥の魔物だろう、もう少しで王都だって言うのに」


「そんなことはどうでもいい、死んでも馬車を守るぞ」


「死んだら守れねえけどな」


騎士達の悲痛な声が聞こえてきます。

オーガに、魔物に殺されるくらいなら、自ら命を絶とうと思ったその時、


「加勢する、下がって負傷者の手当をしてろ」


その声にハッとして見ると、1人の少年がオーガと騎士達の間に立っていました。


「何を言っている、加勢はありがたいが1人増えたところでどうにもならん、早く逃げるんだ。」


「気にするな、困ったときはお互い様だろ、それに情けは人の為ならずって言うしな。」


たった1人で助けに来てくれた勇気ある少年、そんな少年を死なせるわけには行きません。

逃げるよう声を掛けようとしたところで、オーガが少年に向かって棍棒を振り下ろしました。


「危ないっ」


騎士の声が響きます、私は少年の死を悟って目を瞑ってしまいました。


「すっ、素手でオーガを・・・」


その声に目を開けると、少年は生きており岩の袂にオーガが倒れています。


「うそっ」


セラの声が聞こえます。セラは見ていたのでしょう。


見たこともない圧倒的な力でした。オーガは少年によって一瞬と言ってもいい時間で全て倒されたのです。


「とりあえず終わったけど、大丈夫か?」


その声に我に返ると騎士たちと話している少年に声をかけました。


「危ないところを助けていただきありがとうございます。私はオルグ王国第1王女のマリア・フォン・オルグと申します、以後お見知りおきください」


「朝原朝人だ、こっちの言い方だとアサト・アサハラと言うと思うが」


「アサト様ですね、改めて宜しくお願いいたします」


よく見ると、黒髪黒目のこのあたりでは見かけたことの無い容姿でした。顔は美形ですが、どことなく幼さを残したような感じで、体つきは程よく鍛えられているようです。

ですが、とても素手でオーガを倒すようには見えません。

本当は倒れている騎士達に駆け寄りたいのですが、恩人を蔑ろにする訳には参りません。後で負傷している騎士達を私の聖魔法で少しでも痛みを和らげてあげなくては。


「次は私だね、私は、セラ・オルグだよ。オルグ公爵家の長女でお婿さん募集中。これからよろしくね」


「セラ、貴女もう少し慎みというものを持ってとあれほど言っているではないですか」


「もう相変わらずマリアは固いなあ、仲良くなるにはこれくらいの方がいいんだよ」


「仲良くって・・・」


セラは貴族令嬢ですが、その性格はとても貴族令嬢とは思えません、自由奔放とでもいいましょうか、目を離すと1人でどこに行ってしまうか心配になるほどです。ですが、貴族として締めるところは締めなければなりません・・・・


「ねえ、マリア、アサトってばまだ若そうなのにこの強さでしょ、それにかっこいいし、助けてくれるってことは絶対いい人だよ、仲良くなった方がお得だよ」


「私もそうは思いますが、初めて会った殿方にそこまで積極的には・・・」


「まあ、私にまかせといて。」


どうしようというのでしょうか・・・


セラの態度に頭を悩ませていると、青白い光が目に入りそちらに目を向けると、負傷して倒れていた騎士たちの怪我が治っているではないですか。

しかも一瞬で。

私も聖魔法は使えますが、詠唱に時間がかかり怪我を一瞬で治す事など出来ません。

セラも水魔法で少しの怪我は癒すことが出来ますが、アサト様の魔法は癒すとか言うレベルではありません。

驚きながら見ていると、今度は亡くなっている騎士たちが黄色い光に包まれたあと騎士たちの目が開き、起き上がってきたのです。

亡くなっていたはずの騎士たちが生き返った・・・

ありえないありえない、これは神の御技・・・


「これは夢?ああ、きっと私たちもオーガに殺されてしまったのですね。」


「うん、殺されてしまったから有りもしない夢を見てるんだよ。」


今までのことは夢だったのでしょうか、私たちはやはりオーガに殺されていて、その悔しさのあまり都合のいい夢を見ていたのでしょう。だから騎士達の怪我が一瞬で治り、亡くなった騎士達も生き返ったのですね、セラも私と同じ気持ちのようです。


「なに馬鹿なこと言ってるんだ、死んだら夢なんか見れるわけないだろう。」


「「「「「「「・・・・・ええっっっっっっーーーーーーっ」」」」」」」


夢じゃない・・・夢ではない、信じられない、今、目の前で起きたことは全て現実。

ハッ、本当にこの方は神なのでしょうか、そんな思いが過ぎります。


「まだ信じられませんが・・・・」

「夢の方がましなんじゃないかな」


「ちゃんと現実を見つめろよ」


「「・・・・・・・」」



現在、一緒の馬車で王都へ向かっています。もうすぐ王都に到着です、その間色々聞きましたが、わかったことはと言えば、何もわからないが答えです。

あっ、ひとつだけわかった事がありました。アサト様は小さな胸が好きだということです。

セラはそれがわかった時からニコニコと笑顔でした、嫁入りは断られてしまいましたが、まだ諦めてはいないようです。いいですね、胸が小さくて・・・・

それとアサト様は冒険者になるようです。冒険者にならずともアサト様でしたら、騎士、それも王の護衛を主とする近衛騎士にすらなれるでしょうに。そうすれば私との婚姻も視野に入れられるのに・・・・

国に仕えませんかと誘ってみたのですが断られました。



馬車は王都の中に入りました。


「これからどこに行くんだ?」


「王宮へ参ります」


「王宮へ?何しに?」


「アサト様へのお礼と、国王様に今回の報告ですわ、特にオーガのような森の奥にいる魔物が街道の近くに現れたことと、アサト様のことを報告しませんと。」


「面倒くさくなりそうだから、俺はここらへんで失礼させてもらうとするか、報告はお前たちでやっといてくれ」


「えっ、王宮へ行ってお礼の品をお渡ししないといけないのですが。」


「いらん、じゃあな」


そう言うとアサト様は目の前から消えてしまいました、


「えっ、消えたっ」


「もしや今のは古の転移魔法ではないでしょうか」


セバスは今の魔法を知ってるようです。


「転移魔法とは??」


「言葉の通り離れた場所へ一瞬で移動する魔法です」


「そんなのまで使えるんだ、さすがアサト君だね」


「お父様に何て報告すればいいのでしょう」


「ありのままを話すしかないのでは」


「そうですわね」


「今日は逃げられちゃったけど、絶対捕まえて嫁にしてもらうんだから」


「私も・・・・・」


様々な思いを抱きながら馬車は王宮へと向かっていく。


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