第2話 俺は守る
20××年12月23日
今日は俺にとって初めてのハラSUNのライブ。俺は地方住みだから、わざわざ飛行機でこのライブの為だけにやってきた。会場は、ある海岸の入江の先にある、ちょっとした小島だ、橋を渡って行くと小島全体が公園になっており、そこに特設ステージが設営されている、今日は18組のアイドルグループが出演するクリスマスライブを見に行くのだ。午前と午後の部があり、午前の部は10時スタート。当然午後の部も観る予定だ。
ハラSUNのファンになって早3年、推しのリアも高校2年になって大人っぽく美しくなってハラSUNのセンターとなり頑張っている。今日は特典会にも行って、いよいよリアと初対面だ、SNSではいいねをしたり、リプを返しているから認知はされていると思うけど、いきなり名前を伝えてリアに会いに来たんだよと言ったら驚いてくれるかなとドキドキしていた。
今日はクリスマスライブと言う事で、メジャーグループも参戦している為、TVの中継も入っておりレポーターがメジャーグループのメンバーにインタビューしている。TVカメラが入っているので、俺はサングラスとマスクで顔がわからないように隠して、知り合いにバレないようにしていた。
いよいよライブスタート、ハラSUNは後ろから4番目、メジャーグループ3組の前の12時台最後の出演だ。
動画サイトで見た事のあるグループが歌って踊って、ファンが盛り上げている。推しグループ以外のステージの時は後ろに下がって、ステージ上のアイドルのファンに最前を譲る。
ハラSUN以外のアイドルのステージも充分楽しめる。
そして、俺は最前に移動する。とうとうハラSUN登場だ、入場曲が流れメンバーが登場してくる。リア、エム、ユウキ、ナナ、ミン、カリン、ワカコの7人が今日のメンバーだ。
7人が7人とも俺の好きなメンバーで全員のSNSをフォローして絡んでいる。一番はリアだけどね。
7人は簡単な自己紹介の後、曲が始まり彼女達が躍動していく。
初めての生ライブ・・・・4曲だけだったけど、最高だった、楽しかった。SNSや動画サイトでしか見た事の無かったハラSUNが目の前で歌い踊っている。もうたまらんかった。
そしていよいよ特典会、今日アイドルと2人でチェキを撮って、そのチェキにサインとメッセージを書いてもらうという方法みたいだ。リアの所にはたくさんのファンが並んでいた。ドキドキしながら列に並んでいると、とうとう自分の番が来た。
「こんにちは、初めまして」
「こんにちは、初めましてって言うことはハラSUN見るのも初めてって言うこと?」
そんな事を言いながらリアとチェキを撮る。
リアは撮ったチェキが乾くとそれに日付を書き始める。そして俺はさっきの問いに答える。
「ハラSUNのライブに来たのは初めてなんだけど、SNSや動画は見てるし、ネットサイン会に参加したりSNSにリプしたりしてるよ」
「そうなの?名前教えてくれる?」
俺はサングラスとマスクを外し答える。
「朝人って名前だよ」
リアはチェキにメッセージを書きながら
「朝人さんね・・・えっ・・・」
メッセージを書く手が止まり、リアが驚きながら顔を上げ俺を見つめてくる。
「朝人さんって、SNSのアイコンがアニメの・・・」
「うん」
「SNSで良くリプくれる・・・」
「うん」
「遠方に住んでるから会いに行けないけど、リアの事大好きって言ってくれてる・・・」
「うん」
「・・・・うそぉぉぉっ・・えっえっなんで、なんで」
「大好きなリアに会いたい気持ちが抑えられなくなったんだ、だから会いに来た」
「・・・うれしい・・・改めて、初めまして、ハラSUNのリアです」
「朝人です、よろしくね」
驚いてくれた、喜んでくれた、それだけでたまらなくうれしい。
だが、話せる時間ってとても短い、あっという間に時間は過ぎ、
メッセージが書かれたチェキを渡され俺は言う。
「ありがとう、ほんとに幸せな時間だったよ」
「私も。朝人さんにやっと会えたし、また会いに来てね」
「うん、必ず会いに来るよ」
「絶対だよ」
「うん、またね」
営業トークだとわかっているけど、めちゃくちゃうれしい・・・・
で、気分を変えて、次は誰のとこ行こうかなと考えカリンの列に並ぶ。
リアが一番と言うのは嘘ではないが、基本DDな俺は結局全員のチェキを手に入れたのだった。
皆、朝人だと言うと驚いて会えたのを喜んでくれた。俺もネット上でしか見たこと無かったメンバーに会えて、その可愛さを改めて認識し、これからもハラSUNを応援しようと思った。
午前の部が終わり、午後の部の開始は16時だ、今は14時だから2時間ほど時間がある。その間は会場である公園は立ち入り禁止になるので、ファン達はその間に食事を取ろうと橋を渡って商店街の方へ向かう、
と、その時だった、商店街に向かう人達のスマホからけたたましい音が鳴り響いた。
緊急地震速報だ。周りの人たちも慌てている。
「地震速報?地震来るの?」「速報がなるってことはでかいぞ」「ヤバッ、逃げないと」等と騒いでいる。
次の瞬間、ゴオオオっと言う音を立てながら地面が揺れだした。
でかい、揺れは激しく立っていることも出来なく、人々はしゃがみこんで揺れに耐えている。
揺れている時間は2~3分くらいだったが、このままずっと続くのではと思わされた。揺れが収まり、ホッとしていると、近隣の防災放送用のスピーカーから声が流れる。
「大津波警報が発令されました、海岸付近にいる方は、高台、もしくは頑丈な高層の建物に避難してください」
放送を聞いたファンや近隣の人達は驚いて悲鳴を上げながら商店街の方へ走って行った。
俺は、ふとリア達の事が気になり、避難して誰も居なくなった事を確認し、会場である公園へ向かって走り愕然とした。
公園のある小島へ渡る橋が崩れて無くなっていた。これではリア達は避難できない。
見ると、ステージ裏からたくさんのアイドルや運営の人達がこっちに向かって走って来ていた、
俺は木の陰に姿を隠しながら様子を見る。橋が無くなり唖然とする人達。
小島に残された人たちは各々スマホで警察や消防に電話を掛けているが繋がらない、携帯の基地局も地震によって影響を受けているのだろう。
広域に渡る巨大地震の為、緊急特番が組まれ、ライブの中継に出ていたTVクルーが外の状況の説明を行っていた。中継車も来ているので、TV局と繋がっているのだろう。
レポーターの人がTVカメラに向かって状況を説明し、今が絶望的であることを伝えていた。
「私たちTVクルーと、会場に残されたアイドルやその関係者達は絶望的な状況にあります、この小さな島を繋ぐ橋は地震によって崩落し、避難する術を失ってしまったのです、このまま救助が来なければ私たちは津波に飲み込まれてしまうのです」
救助を要請する電話を皆が掛けているが、繋がらない。ある運営の男性は怒号を上げながらスマホを地面に叩きつけている。アイドルの女の子は、
「いやぁぁぁぁ」
そう叫びながら地面に座り込んで震えている。
仲間と抱き合いながら泣いている子もいる。
リア達はと見てみると、後ろの方でメンバーで集まり、地面に座り込んでお互いを励まし合っていた。
リア「大丈夫だよ、きっと助けが来るから」
メイ「うん、リアの言うとおり、必ず助けが来てくれるよ」
カリン「でも、電話も繋がらないし・・・無理だよ」
リア「大丈夫だって、TVが来ていて、この状況を説明してたじゃん」
メイ「そうだよ、TVを見た人が通報してくれるって」
ナナ「えっ・・・あれ見て」
全員でナナの指差す方を見ると、海の向こうに明らかに通常とは違う光景が見えた。
「いやああああああ」
ミンが叫ぶ、その声で小島に残されていた人々は海を見て、そして絶望の底に落とされた。誰も声を出すことも出来ない、そんな状況の中、レポーターだけはカメラを海に向けさせて状況を説明していた。
「ご覧下さい、津波がこちらに向かってきています、遠くなので正確な高さはわかりませんが、明らかに我々を一気に飲み込んでしまうほどの高さです、私達の命は後数分で海の藻屑と消えようとしているのです」
俺が出ていけば助けられる。リア達を、いや日本を助けられる。
このままではリア達だけではない、それこそ津波によって数万の命が奪われてしまう。だが、俺が関与すると言う事は、「宇宙の禁忌」に触れてしまう。
「宇宙の禁忌」に触れるってことは俺の命も消えるってことだ。
でも俺の答えは決まっている。
俺は自分のSNSに書き込む、最後くらい格好つけさせてくれ。
「目の前に救いを求める命がある、俺には守る力がある、ならば俺は救う。俺が俺である為に。たとえこの命失われるとしても俺は最後まで俺で有り続ける」
そう書き込んだ後、サングラスをかけ直し、瞬間移動でリア達の所に移動し海を背に声をかける。
「よう」
「「「「「「「「朝人さん!!」」」」」」」
皆が驚いた顔をして見てくる。
「何を情けない顔してるんだ」
「だって、津波が来てる、救助はまだ来ない、このままだと私たち皆死んじゃう」
泣きながらリアが答える。
俺は笑いながら言う。
「何言ってるんだ、お前達は死なない、ここにいる皆も、日本も全部守ってやる」
「えっ、何言ってるの?津波来てるんだよ、あんな津波どうしようも出来ない、皆飲み込まれちゃんだよ」
俺は7人を見渡し言う
「この大地に住む全ての命を守り、その未来を守る。それがお前達7人とお前達の住む日本への俺からの1日早いクリスマスプレゼントだ。じゃあ行ってくる」
そう言うと、海に向かって歩き出す。
「どこ行くの・・・」
俺は歩みを止めて首だけ振り返りながら拳を横に軽く突き出しながら言う。
「何も心配するな、全て俺が守ってやる、あの津波は俺が止める」
「「「「「「「えっ!!」」」」」」」
そして海に向かい歩き出す。
「どういう事、俺が守るって・・・無理だよね」
「でも、もし本当だったとしたたら・・・」
そんなリア達の所にレポーターとカメラマンが走ってくる。
「ねえ、あの男性は誰、何を話していたの?あの人は何をするの」
「えっ・・・ちょっと待って下さい、いきなりどうしたんですか」
「貴女達気づいてないの?あの人突然ここに現れたの」
「確かに突然声かけられたけど・・・」
「私は見ていたの、あの人瞬間移動してきたのよ、ここに」
「「「「「「「えっ!!」」」」」」
「じゃあ、やっぱり朝人さんは・・・・」
「何、あの人は何て言ったの、何をするの?」
「あの人は言ったんです、全ては俺が守ると、あの津波は俺が止めると」
「えっ、何言ってるの?そんな事出来るわけないじゃない」
「見てっ」
ワカコが叫ぶ。その方向を見てみると両手を広げ天向かって突き上げるアサトに多くの光が集まっていく光景が目に飛び込んでくる。そして両手をクロスするように下ろすと今度はアサト自身が輝きだした。
何も言葉を発することなく見つめるしか出来ないリアたち。
俺は気合とともに右手を天高く突き出した。
「ディァァァッ」
アサトが手を突き上げると眩いばかりの光に包まれていた、その眩しさに目を閉じる。
数秒後、目を開けるとそこには信じられない光景があった。
海岸に立つ赤を身に纏った巨人
「あ、あ・・うそっ・・キャァァァァァァァァ」
その悲鳴は恐ろしいからではない、怖いからではない。歓喜に満ち溢れた喜びの声であった。
「うわあん、うそっうそっ」
「ほんとに・・・守ってくれるの」
メンバー同士抱き合い泣きながら跳ね回っている。
それはハラSUNだけではない、その場にいるアイドルグループの少女達全員である。運営の男性達はあまりの驚きに固まるだけであった。
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