第3話
結局佐藤さんたち三人は放課後ギリギリにプリントを持ってきた。集めて先生のところに持っていくだけの私にチクチクと嫌味を吐いていったのはいただけないけれども、まあ実害があるわけでもないのでどうでもいい。
ところが先生に無事クラス全員分のプリントを手渡して昇降口へ向かうと、間の悪いことに例の三人が下駄箱前にいた。気付かれる前に足を止めて角へ身を隠す。
「あーもう、ほんっとムカつくわ
佐藤さんの声に思わず足を止めて角から様子を伺ってしまう。
「なぁんか見下してるっていうかさぁ」
「わかる。あの『あんたらなんか眼中に無いんですけど?』って感じの態度なー」
実際眼中に無いので言い訳のしようもないけれど、あちらだって私の名前ひとつ満足に覚えない程度なのだから正直お互い様ではないかと思う。
ともあれ教室や街中ならまだしも、放課後に人目の無い下駄箱で三対一というのは出来れば遠慮したかった。
数と視線の無さを笠に着てどんな態度を取って来るか予想出来ない。
このまま静かにしてやり過ごそう。そう思っていた矢先、取り巻きのひとりが「あー、
「あいつまだ帰ってないの? 帰宅部じゃなかったっけ」
「今頃数学のセンセとよろしくやってたりしてねー」
「ふふっ、あーヤバいわそれ、ヤってそうだわ」
あり得ないでしょ馬鹿馬鹿しい、これだからガラの悪い連中は嫌いなのよ。
思わず心のなかで本音を吐き散らしながら見えないところで眉間を揉んでいると、佐藤さんがいたずらっぽい笑みで「この靴焼却炉に捨てとこっか」とふたりに提案した。
私のなかで、彼女らへの感情が苛立ちから怒りに切り替わる。
疎まれているとはいえ、今までは物を隠されたり捨てられたり暴力を振るわれたりといった直接的な行為が無かったので、私もことを荒立てず距離を置くだけに留めて来た。でも実害が出るのなら話は別だ。
頭に血がのぼるのを自覚しながら息を殺してスマホのカメラを起動し、様子を見守り続ける。言葉の通り下駄箱に手を入れて靴を取り出したらそのときは……。
「おいおいそりゃヤバいって」
私の反対側からふらっと現れて彼女らに声をかけたのは誰あろう
「なによサトちん、
「そういうんじゃなくってさ」
気色ばんだ三人に首を横に振る。
「俺たち今年は受験生じゃん? こんなとこセンセに見つかったら進学ヤバいっしょ。
「
「いやいやさすがに靴程度でそれはないっしょ」
「ねえ……?」
三人が半笑いで頷き合うなか彼だけが穏やかに微笑んで続ける。
「キミらさあ、
「あー、それは……うーん」
「ない、かな」
「ないなー」
角からそっと不安げに顔を見合わせる三人を覗くと、彼がこちらを見て微笑んだ。思わず声を上げそうになりながら慌てて顔を引っ込め呼吸を整える。
見られた。いや、目が合ったのは偶然じゃない。彼は私がここに居るのを知っていたんだ。どうして……。
「でしょ。変なことしないで帰った方が良いって。俺も誰にも言わないからさ」
彼はそう言って、私が怒りと焦りと混乱でぐちゃぐちゃになって固まっているうちに三人を帰らせてしまったのだった。
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