真逆の存在
UR確定演出ではアバターが登場するが、その前にキャラ名が表示される。ご丁寧にひらがなで1文字ずつ順不同に表示され、最後に漢字になる。
光が最初に作り出した文字は……小池まりあの『あ』だった! よろこぶのはまだ早い。『あ』のつくキャラは300以上。ここは冷静に次の1文字を待つ。当たりは5つもあるんだから。
2文字目。光は『い』を作る。素人なら小躍りするかもしれない。攻略サイトを穴が空くほど読んだ俺には分かる。まだ90以上候補がある。
そして3文字目から『ま』『こ』『り』と続く。さすがに胸熱展開だ。6文字目に『け』が来れば、UR小池まりあの完成。
だが、まだだ。生駒百合亜も、新井万里子も、甘利英子も、小牧愛理もある。他にも天衣範子、栗井舞子、伊万里ここあなど、全15キャラが該当する。結局最後の文字次第。『け』なら大アタリ!
そして6文字目。光が集まり、作り出した文字は……『け』だった。キタキタキターッ! これで『こいけまりあ』の完成だ! やったぞーっ! 俺がよろこんでいる間に、目の前に6つの文字が同時に出現。
そして向かって右から順に並んでいく。
『こ』『い』『け』『ま』『り』『あ』の順に! えっ、右から?
と、疑問を挟む余地もなく、キャラが恋に対する考え方を述べる演出に突入。ここではまだ声だけで、アバターは表示されない。
まりっぺの本業は女優。幼いころから子役としていろんな役を演じている。よく考えると、俺はまりっぺの地声を知らない。だからよく分からない。ちょっと低いが、ハッキリした声。これって、まりっぺの声?
「出会いなんて要らない。目立たずひっそりと暮らしたいのだけど……」
恋に臆病なまりっぺの気持ち、よく分かる。俺がほぐして差し上げよう! でも、なんか変だ。こいつ、本当にまりっぺか?
ひらがな全体が白く光り、1つになっていく。アバターの登場演出だ! 溢れるような白色光が人型になり、徐々に色付いていく。そして、はっきりと目の前に現れたのは……誰?
黒縁メガネで、黒いロングの髪をおさげに結って、制服を地味に着る女子。どう見てもまりっぺじゃない。華がなさ過ぎる。同時に、その名が明らかになる。
「……有馬景子。スポットライトの当たらない地下に生息する地味な高校生」
誰? 小池まりあと有馬景子、名前も印象も真逆の存在感だ。
ふと、攻略サイトのことを思い出す。リリース以来、誰も攻略していないキャラが2人。そのうち1人が有馬景子。ある意味レア中のレア。1発で引き当てるなんて俺はつくづく運が……ない。
俺には決めていることがある。母さんとの固い約束、ゲーム3ヶ条。『課金せず、夜更かしせず、リセットせず』の3つだ。どんなゲームをプレーするときも、必ずこのうち1つは遵守する。
既に課金と夜更かしを前提にはじめた俺に、リセットの文字はない。つまり、リセマラ入りはもっての外。言語道断というわけだ。
このままワンゲームプレーするという選択肢もあるが、時間がない。ULDはレアリティーに応じてイベントが発生しやすいシステム。今のままではイベントの53%が有馬景子絡みになってしまう。避けたい。それだけは避けたい。いや、避けねばならない! どうせ俺にはまりっぺとの恋以外に興味はないんだ。
だったら突き進むしかない。このゲームに15連の最後以外にR確定はない。キャラ別ガチャというのはあるが、期間限定のまりっぺには対応していない。ならば、UR小池まりあにたどり着く道は1つ。15連を引き続けるだけ!
提供割合によると、UR小池まりあを引く確率は500万分の1以下。1枚約300円で500万枚って、いくらだ? 一、十、百、千、万……。
ムリだ! さすがにそんなに手持ちはない。
だがしかし。俺には元々選択肢はない。たとえ無理筋だと分かっていてもまりっぺに出会える可能性がある以上、15連を引かないわけにはいかない。ガチャよ、ガチで勝負だーっ! まりっぺよ、待ってろよーっ!
こうして俺は入学祝いにもらった全額を溶かした。その結果は、URはおろかNにさえ擦りもしなかった。でも俺は諦めない。カードがなくても出会う確率があるのだから。
副産物として得た別のキャラのUR15枚で最強デッキを組む。本当はUR有馬景子を外すかどうか悩んだ。URはイベント発生率が高い。でも、これだけ薄めておけば大丈夫。発生率は推定で7%程度だ。だったらこのゲームの攻略セオリーに従う。
モード選択画面になる。『イージーモード』で恋愛を楽しむのもいい。だが、折角のフルダイブだし、リアル感は欲しい。俺が選んだのは難易度マックスの『リアルモード』だ!
(よしっ、これでチュートリアルは終了)
その瞬間、俺は強い眠気に襲われ、そのまま眠ってしまう。
どのくらい経ったか、深い眠りから目覚める。布団からスマホに手を伸ばし、チェックしてみる。時計の表示は4月4日の5時40分、ゲームの起点となる時刻だった。
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