カードはNばかり

 家に着いた俺だけど、いきなりプレー開始なんていう無謀なことはしない。ゲームは序盤が最重要。悔いを残さないためには相応の準備が不可欠。スマホで【ULD 攻略】と検索。7つのサイトを見つける。


 まりっぺの参戦は完全なサプライズのようで、どこも大慌て。知らなかったのは俺だけじゃないと思うと、ちょっとホッとする。


 ULDのシナリオは入学式の日からの約1ヶ月に絞られている。レビューに不満として挙げているものもあるが、そこは個人の感想。運営は清々しいまでに『高校デビュー』に的を絞っている。広告にも書いてあったし、俺としてはどうこう言う気はない。俺はまりっぺさえいればいいんだ、まりっぺさえ!


 やり込み要素の1つに、カードの組み合わせによるシナリオ変化がある。複数人が同一イベントに登場し、同時に親密度が上下することがあるようだ。これを2連・3連コンボといい、修羅場となることもあるらしい。


 ある攻略サイトは、4枚で2連5つ+3連2つの組み合わせを紹介している。まぁ、そんなことはどうでもいい。俺はまりっぺだけで充分。


 このゲーム、カードにどれだけ注ぎ込むかで勝負が決まる課金ゲーだ。面白い。俺の高校入学祝いという名の実弾兵器が火を吹くぜ! 現実世界ではまりっぺと知り合うことだって簡単じゃない。ハモれれば奇跡。だけどゲーム世界でなら、ひょっとするとまりっぺと付き合うまであり得る。まりっぺ、待ってろよ!


 こうして俺は実に2週間以上もかけて攻略サイトを読み漁り、ゲームの内容を頭に叩き込んだ。


 そして迎えた4月3日、日曜日。時刻は夕方の7時をまわったころ。夕飯を終えた俺はFD用ヘルメットを被り、布団に横たわる。ファーストゲーム開始だ。




 FDゲームは何度もプレイしているが、まだ慣れない。緊張でのどがカラカラになる。「ゲーム・イン」と謎の和製英語を叫ぶ。その瞬間から、俺はまりっぺのいるゲーム世界に連れ去られる。これから現実世界での3時間をかけて、ゲーム世界での1ヶ月を過ごす。


 喉に潤いが戻る。そっと目を開ける。コンソールが表示されている。


 ゲームの説明にあった通り、初期設定で名前を5つ聞かれる。1つ目はゲーム内の俺の名、2つ目はランキング表示用の俺の名。ゲーム内では本名を使いたいプレーヤーには優しい仕様だ。ランキングが本名だとうっかり1位になったとき恥ずかしい。


 ゲーム内の名を本名の『太田豊』、ランキング名を『豊田太』と登録。3つ目の通う学校は『水道橋学園高等部』と、実名で登録。そして残り2つの名は、レビューで物議を醸していた珍妙な機能に由来する。


 幼馴染機能だ!


 男女1名ずつの幼馴染の名前、愛称、容姿、性格、嗜好を登録する。シナリオにも絡むらしいから、いい加減な名前は絶対にNG。まぁ、ここはデブタローの出番だ。


 男欄に迷わず『出川琢郎』と打ち込んだあと、学校でのことを思い出す。愛称をデブタローにしては、プラチナチケットの恩義に反するのではないか。だから『たっくん・ぽっちゃり・俺に優しい・オタク』と続けた。


 お次は女欄。まぁ、思い当たる相手がいないわけではない。中学では腫れ物に触れるように扱われてた俺にも青春時代はある。幼稚園のころだ! 当時、よく遊んだ女子に板倉愛菜というのがいた。小学校に上がるタイミングで沖縄に行ってしまい、以来、1度も会っていない。


 名前と愛称は兎に角、現在の容姿、性格、嗜好については何も知らない。今の容姿がたっくんと同じだと悲しいし、胸が愛称通りなのも寂しい。登録していいかと、ちょっと躊躇ってしまうが、知らぬが仏ともいう。これはゲームだし、遊びだ。好き勝手に登録してしまえ!


 『板倉愛菜・まないた・F乳スレンダーポニテ・優しい・俺に夢中』だ! 自動作成された愛菜のアバターは俺好み。そのビジュアルに一瞬だが欲情する。いかん、俺の目当てはまりっぺのみだっていうのに。


 愛菜に差し出されたクラス名簿を手に取る。開けばガチャのはじまりだ。狙うはUR小池まりあ。NとN+は絶対ダメ。引き当てたプレーヤーのブログを読んだが、芸能活動が忙しく学校に来ないらしい。運営はリアルを追求し過ぎ!


 さぁ、来い! 気合を入れて名簿を開く。光が飛び出してきてカードになる。表示されたのは『N生駒百合亜』たしか天然巫女キャラだったな。


 もう1ページめくると、また光が飛び出してくる。そして『N新井万里子』が表示される。たしか生徒会長の妹だったはず。それにしてもまたNか。ちょっと渋いな。よしっ、次だ!


 『N甘利英子』爆乳バスケ部員。『N小牧愛理』動物好きの帰国子女。ここまでを見るに、どれも主役級ビジュアルの人気キャラではある。だが、俺は一途にUR小池まりあを求めてガチャをまわす。


 と、熱くなる俺だが、その後も見事に14枚のNを連発。そして、やっとの思いでR以上確定の最後の1枚にたどり着く。恐る恐る、名簿のページをめくる。飛び出してくる光の量がいつもより多い。よーしっ、きたきたきたーっ。


 UR確定演出だーっ!

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