フルダイブ学園恋愛アドベンチャーゲームをプレー中と思い込んでいる俺は、この30日が現実だということに気付かずに伝説の福太郎を目指す!

世界三大〇〇

チュートリアル

俺のアイドル、小池まりあ!

ULDとの出会い

 3月17日、金曜日。


 俺こと太田豊は、在校生よりも早く引き上げた。卒業式は中学校生活の縮図。グダグダ残って、いいことがあるわけじゃない。どうせ、みんなに腫れ物に触れるように扱われるだけ。


 校門に差し掛かったところで、背後から俺を呼ぶ声がする。


「あーっ、待ってよ。ゆたちゃん」


 俺をゆたちゃんと呼ぶヤツはこの学校に1人しかいない。デブタローだ。本名は出川琢郎。幼稚園のとき王様が月に代わり、小2のとき川が干上がった。容姿と嗜好から、女子からはキモヲタ2号と呼ばれているかわいそうなヤツだ。


 俺にとっては生まれたときからの腐れ縁というか、盟友でもある。中学ではなにかと連むことが多かったし、春からは共に水道橋学園高等部に進学する。別れを惜しむ間柄ではないし、家の方向は真逆。今更、一緒に帰るはない。


「なんだ、デブタローか。卒業式だからって待ってていいことあるのか?」


 振り返ると、デブタローが駆け寄ってきて1枚の紙を俺に差し出す。

『4月4日18時開演 S席』と書かれているのが見える。まっ、まさかっ!


「あるよっ、ほらっ。まりっぺの!」


 やはり、まりっぺ! まりっぺこと小池まりあは、世界的モデルで国民的女優で俺のアイドル! 俺たちと同学年にして、4月4日には29回目の単独ライブを行う。デブタローよ、そんなに軽々しく渡すとバチが当たるぞ。


「まっ、マジかよ! ちゃんと2枚あるんだろうな!」

「もちろん。これはゆたちゃんの分だよ」


 いいヤツだ。デブタローは本当にいいヤツだ。正確には某テレビ局のお偉いさんのデブタローのオヤジさんはめっちゃいい人だ。小3のころいじめられているデブタローを庇って以来、俺の期待を裏切らない!


「デブタロー、グッジョブ! 俺はお前の親友でよかったよ」


 デブタローが差し出すチケットに俺は飛びつこうとした。ところがデブタローは顔を強張らせて、それを引っ込め、上にかざす。体格のいいデブタローにそんなことをされたら、俺の手には届かない。


「おっ、おい、デブタロー。なんの冗談だ!」

「その……ゆたちゃんに……お願いがあるんだけど……」


 言いにくそうにもじもじするデブタロー。そこはいつも通りだ。とっととそのお願いとやらを聞いて、チケットをゲットするのが得策。


「あぁ、聞いてやるよ。何でも言ってみろ!」


 デブタローの頬は緩み手は下がるが、もじもじは止まらない。


「……その……高校では……デブタローを……やめて……ほしい」


 なんだ、そんなことか。デブタローのやつ、気にしてたのか。俺はデブタローが俺の分と言ったチケットをひったくり、そのまま走り出す。


「分かったよ、デブタロー!」

「分かってないじゃん!」


 デブタローが追ってこないのを確認して振り返る。


「俺たち、まだ中学生だよなー、デブタロー!」


 こうして、俺の高校生活最初の予定が決まった。手帳の4月4日18時の欄に『まりっぺ29th単独公演』と打ち込んだ。過去のライブでは、まりっぺがS席の客にマイクを向けてハモってた。今回もそんな演出があるとうれしいな! あぁーっ、まりっぺとハモりたーい!




 桜並木を順調に抜けて、坂を下る。途中で信号に引っかかる。ゲットしたプラチナチケットを見ると、QRコードが印刷されている。スマホを取り出して読み込む。飛んだ先はまりっぺグッズの販売サイトだった。予習用にということだろうが、どれも既出で、どれも所有しているものだ。


 つまらないものを見てしまったが、なぜか右上の広告が気になってしまう。


『祝・卒業! そしてこの4月、高校に進学するあなたに!

究極のFD恋愛アドベンチャーゲームをプレーして、高校デビューに備えよう。

新シナリオ追加でさらにエキサイティングに! やり直せない日常を君に!

フルダイブ ULTIMATE LOVE DEBUT(ULD)』


 フィード広告なんていつもならスルーなんだけど、このときは違った。魔が差したというより、単純に挿絵が好みという雑な理由で、気付いたときにはゲームの説明画面を開いていた。


(R15、基本無料、評価平均4.7、レビュー数795件)


 レビューによると珍妙な機能が物議を醸しているが、どこにでもあるFD恋愛アドベンチャーゲームと大差ない。デッキにカードをセットしてゲーム開始。高校生活を満喫しつつ親密度を上げて告白の日に備える。


 クソゲー臭が漂う。高校デビューに繋がるとも思えない。誇大広告も甚だしい。そんなアプリに1秒たりとも俺の時間はやらんぞ!


 そう思いつつも、一応は説明だけでも最後まで読もうとスワイプする。画面が1番下に到達したとき、俺の気が変わる。


 『期間限定CV:小池まりあ(本人役で登場!)』


 なっ、なんだって? まりっぺが登場するのか? しかも本人役! でもおかしい。まりっぺの活動は全てチェックしているはずなのに。この俺が今まで知らなかっただなんて、絶対におかしい! 腹立たしいのと自分の見識の狭さを思い知ったのに動転してしまう。


 そして、気付いたときにはULDの入手ボタンをポチッていた。

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