4、人称ってなに?

 人称とは人称代名詞のことで、人物を示す代わりの名詞のことです。

 種類は、一人称、二人称、三人称とあります。小説では主に一人称と三人称を使います。(二人称の小説もありますが、上級者すぎて私には説明できないのでご了承ください)


・一人称=私、僕、俺など自分を示す言葉。

 (日本語には、これ以外にもたくさんの一人称があります)

・二人称=あなた、きみなど。

・三人称=彼、彼女など。

 

 私は、1回目にごっこ遊びから文章を作ってみることをお勧めしたので、ほとんどの方は「私は~した」「僕は~したい」「俺は~と思った」など一人称で文章を書いていたかと思います。

 普段から自分自身で「私」「俺」「僕」は使っているので、難しく考えなくていいと思います。

 誰かになりきるお芝居のように、遠い友達に手紙を出すように書いてみると一人称ではうまく言葉が紡げます。

 一人称のいいところは、書く側も読む側も主人公になったような気持ちで物語を楽しめるところだと思います。


   *


 問題は三人称です。「彼は」「彼女は」という文章を普段書くことはあるでしょうか?

 それこそ、小説を読むときにしか目にしない人がほとんどかと思います。

 そうです。小説は三人称で書かれているものが多いのです。

 でも、「彼は」「彼女は」だらけの小説は読んだことがないと思った方もいるかもしれません。

 それは、主語が「登場人物の名前」で書かれているからです。

 登場人物の名前で書かれているものも、三人称の小説なのです。

 

  *


 一人称と三人称を語る時に、大事なことがあります。

 それは「視点」です。

 視点とは、誰の目を通して見るか、あるいは誰の持つカメラで世界を映すかということでしょうか。

 一人称は主人公持つカメラ、三人称は空から誰かが映すカメラということで『神の視点』とも言われます。

 私は、ナレーター視点なんて思ってます。

 まとめるとこんな感じです。


・一人称=主観的。

 主人公の視点から見た景色、感じたこと考えたこと。主人公が知っている情報のみが書ける。


・三人称=客観的。主人公を含めた、複数の登場人物の視点で、それぞれが感じたこと、考えたことを書くことができる。主人公が知らない情報も書いてよい。


  *


 では、小説を書くときに一人称と三人称のどちらで書いた方がいいのでしょうか?

 それは、二つを混在させなければどちらでもいいです。

 混在させることが絶対ダメというわけではないのですが、そうすると読者が今、誰が喋ってるの? 主人公? 神様? と混乱して内容を楽しめなくなってしまうので、なるべくしない方がいいでしょう。

 書き始めたばかりの人は、一人称で書く方が楽しいという方が多いので、そのまま一人称で書き続けてもいいと私は思います。

 三人称もやってみたい人は、一人称に慣れてきたところで挑戦すると最初は違和感があるかもしれませんが、小説の書き方自体にも慣れてきているので急に始めるよりは楽かと思います。


   *


 でも、今すぐ三人称に挑戦したいという人にはこんな方法があります。

 それは今まで書いたものをワードなど文章ソフトにある『置換機能』で文字の置き換えをする方法です。(大体、Ctrl+Hのショートカットで出てくるかと思います、置換する前にバックアップを取ることをお忘れなく)

 「私」「俺」という一人称を、「主人公の名前」に置き換えてみます。すると、なんとなく三人称っぽくなります。

 そうして置換したものを読んでみると、三人称というのがどういう物か感じることができます。

 たぶん、三人称っぽさの中に、違和感を覚える文章がたくさん見つかるでしょう。

 それを直す、書き足すということを繰り返していくことが、三人称で書くことのいい練習になると思います。

 私は、中編小説をいくつかそうして直しているうちに覚えました。

 そうして力尽きたころ『次回からは、最初から三人称で書いてやる~』と決意して、それからはほぼ三人称で書くようになりました。


 他の方はどういう過程を経て三人称を習得しているのかわかりませんが、私はそんな感じでした。

 三人称で書けるようになると、一人称と二人称どちらで書こう? という選択肢が広がりますので、一人称を極めるのもかっこいいと思いますが、三人称もぜひ習得してみてくださいね。


 私は、主人公に成りきって楽しんで欲しい、主人公をより身近に感じて欲しいときは一人称。

 全体を見渡して、登場人物の関係性や世界観、主人公以外の気持ちもたくさん書きたいときは三人称と使い分けています。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ここからは付録なので、お時間のある方は参考にどうぞ。

 人称の例にいくつか140字小説を紹介します。本文も読んでいただけたらうれしいですが、※のところだけでもOKです。(140字小説なので字下げなどはしていません)


★三人称★


少年は血塗られた刃を握りしめる。

かつて純粋だった少年は戦士となった。

巨悪が彼の大切な人たちを奪ったからだ。

少年の無垢だった魂は、今や黒であり赤である。冷たい雨の中立ち尽くす少年。頬を伝う雫は雨なのか涙なのか……。彼の悲しみは、もう雨でも涙でも拭いさることはできない。

※主人公が感じていない、状態や描写が入れられる。


***


見上げる夜空には、爪の先ほどの月もない。

「新月の夜に旅立つのは、虚しいものだな……」

胸に刀を突き立てられながら、血を吐き自嘲する男。

――― 彼の行き先は冥途。

光がなくなったうつろな瞳に、死出の旅の道案内が映る。

ひらひらと導くは、純銀の鱗粉を撒く幻の蝶。

※主人公が亡くなった後の様子も書き込める。一人称では難しい。


***


夕日が石畳の坂道を温かく照らし出す。

(戦火で多くを失ったが、この石畳だけは変わらないな)

ぼろぼろの軍服を纏う長靴ちょうかの男が、片足を引きずりながら坂を上る。

彼は、期待はしてはいけないと自分に言い聞かせながらも同時に祈る。どうかこの向こうに、我が家の光る窓がありますようにと。

※主人公目線ではなく、引いたカメラで説明できる。(ロングショット)


***


どうして魅了されずにいられようか。星を散りばめた夜空の黒髪。愛くるしい黒曜石の瞳。真珠のような穢れのない肌。月から来た姫とも知らず、男たちは夢中になり我を忘れ手に入れようとした。そうして皆、命を失った。姫の白檀の扇の影にあるのは、憂いの涙かそれともあざけりの嗤いか。

※一人称ではしづらい、主人公の容姿の描写ができる。


***


ゆらり、と青白いろうそくの炎が闇に灯る。百年もの間、誰も開けることのなかった古城の舞踏室の空気は、ただ重く深いだけでない。そこに渦巻いていた人々の心をも閉じこめているようだった。華やかだった在りし日を思い出し、演奏者のないピアノが、ぽろんと泣いた

※主人公、登場人物すらいない場面も描写できる。



★一人称★


俺はベテラン傭兵だ。20年も戦場を転々としている。戦争は殺るか殺られるか、勝つためには狡猾な汚さが必要だ。騎士道精神なんてケツを拭くにも役立たねえ。そう言うとまだ新兵のアイツはひどく悲しい顔をした。

けどな、俺が血反吐を吐いて瞼を閉じる今、未来を託したいのはアイツなんだ。

※一人称だけで性別が分かり、口調で荒々しい性格も伝わる。


***


迷宮から美しく賢い乙女の導きで脱出した者がいると言う。違う、彼女が賞賛されるべきはその勇気だ。怪物のいる迷宮に踏み入るなど恐れ知らずの英雄にしかできない。「アリアドネ、どうか俺も導いてくれ」

 俺は愛しい者を呼ぶようにその名を口にする。 救いなどあるわけがない。俺は怪物だ……。

※三人称より、主人公の苦悩と苦悩が伝わりやすい。


(一部ノベプラで公開している『人称について考えてみました~』の自作エッセイの内容と重複があります)

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