雨降る夜に猫は鳴く

貴音真

女は猫

 降り続ける雨粒が髪を濡らす夜、私は猫になる。自由気儘に振る舞う猫になる。

 生まれ持った美貌と培った処世術を以てすれば男も女も私の前にひざまずしもべとなる。

 私が何かを望めばそれはとして受け入れられ、私が何かを示せばそれはとなる。

 私は猫、夜の町を自由に練り歩く猫。猫は人を魅了し、ただそれだけで自由が与えられる。

 私は私という人間を演じる猫として自由に生きていく。


「ん?わわわっ!ネコ!ネコいる!見て見ているよ!」

「ちょーかわいー!」

「やばーい!」

「行儀よくお座りしててえらーい!」

「ねでてへーきかな!?」

「へーきへーき!なでよー!」


 ちょっ!やめなさい!あなた達は何を言っているの!?

 私は確かに猫の様に生きているけど人間よ!撫でるなんて非常識だわ!

 それに私は社会人であなた達は女子高生でしょう!目上を敬いなさい!

 怒るわよ!


「やーん!マジかわいいー!」

「ふわふわー!」

「ニクキューやばーい!」

「ゴロゴロいってるー!」

「しっぽもふもふー!」

「うわっ、耳の中きっも!」


 なっ!?あなた達いい加減にしろ!


「ニャオン」

「わっ!鳴いた!」

「声やっば!」

「かわいいー!」

「ニャオンだって!」

「完全にネコだ!」

「首輪してないしアタシこの子拾ってく!」


 は?はああああああああああああ!?

 な、ナニコレ!?

 私、猫になってるううううううう!?


「ニャオン」


 私は夜の町を自由気儘に練り歩く猫。

 比喩のつもりでモノローグを語っていたら本当に猫になってしまった元人間の猫。

 飼い主は女子高生とその家族。

 一日中ゴロゴロしている雷様の様な生活で毎日四食のご飯とおやつが貰えるこの生活は比較的悪くない。

 ただ、厄介なのは体を撫でられることだ。

 体を撫でられると妙に心地好くて自分が人間だったことを忘れそうになる。

 なぜこうなってしまったのかはわからないが、いつかまた人間に戻った時に妙な癖が出ない様に注意しなくてはならない。

 私は猫、一日中自由気儘に過ごす猫。

 外は雨が降っている夜も私は部屋の中でただ自由気儘に過ごす。


「ニャオン」


「んー?どしたー?おやつ欲しいん?」


 私の声は、鳴けばなんでも叶う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨降る夜に猫は鳴く 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ